第2話 推しと友達になってしまった!?
「やっぱり目を合わせるのは苦手?」
「……うん」
「そっか。でも私は大丈夫だから、ね」
「うん、ありがとう」
そう返すとユーリは優しく微笑んでくれた。
思わずユーリの澄んだ水のような碧眼を見つめそうになる。
嫌われるのは辛い。
推しに嫌われるのは、多分死ぬ以上に辛い。
「ヒカリ君は今日も森で遊んでたの?」
「うん、そんなところ。ユーリ、さんは?」
危うく呼び捨てにするところだった。
ユーリの年齢は分からないけど、僕が年下なのは間違いない。
「ふふっ、ユーリでいいよ」
見透かされたようで心臓に悪い。
そもそも生の推しの笑顔を間近で見るのも結構心臓に来るってのに。
今世も早死にするかもしれない、エルフなのに。
「ユーリはどうしてここにいたの?南の出身じゃないでしょ?」
ここで少し『エルフの森』について説明。
世界樹という馬鹿でかい木が中心にあって、それを囲うようにエルフ達の集落が出来ている。
そこから更にぐるりと集落を囲うように森が広がっていて、世界樹の加護や力が届く範囲が『エルフの森』となる。
何故かは知らないけど、エルフ達は名称とかにこだわらないので、全てをまとめて『エルフの森』という。
それだけだと分からなくなる時もあるので、世界樹を中心に東西南北に分けて住所や出身として表すこともある。
僕は南の出身だし、今いる場所は南側の森だ。
いくら人と目を合わせないようにしてるからって、十年近く同じエリアに住んでて見かけたことも無いなんてあり得ない。
あと僕は東と西の方にもよく遊びに行くので、それでもユーリを見かけたことがないってことはユーリの出身は恐らく北だ。
そうだとして、何故わざわざ真逆の森に来たのか。
「え、えーっと……その、いろいろあって……」
と、煮え切らない返答と一緒に僕から目を逸らした。
ううん、何かあったのかな。
ユーリは魔法が大好きなので、魔法の実験をしてたら周りに被害が出ちゃって怒られた、とか?
北側の森はエルフの年齢層が高いイメージだ。
偏見かもしれないけど、年寄りエルフはかなり面倒くさそう。
僕が北側に近付かないのは、そういうエルフに目を付けられないためだ。
ユーリが逃げたくなるのも分かる……なんて決め付けたけど、全然違ったりして。
何であれ、知られたくないみたいだし、僕も目を逸らしておこう。
「あ……ごめんね、目を合わせていいって言ったのに」
「ううん、気にしないで。誰だって知られたくないことの一つや二つあるよ」
気まずい雰囲気。
僕の能力は他人に嫌な思いをさせる。
異世界転生でもらえるチート能力的な扱いなのかもしれないけど、こんな思いをするぐらいなら────
そんな考えを断ち切るかのように、ヒュンと風を切る音とともに彼らはやってきた。
ユーリは少し驚いて、僕を守るように半歩前に出たけど、その必要はないとすぐに身を引いた。
現れたのは一羽の鳥と一匹のリスだ。
うん、そうだった。
僕の能力も悪いことだらけではないよね。
リスは自身よりも大きなものを一生懸命に手渡してくる。
「いつもありがとう」
この子はいつも食料を持ってきてくれる優しいリスだ。
リスはお礼を聞いて満足気にしていたが、僕の隣にいるユーリを見て、動きが固まった。
(二つは無い……)
そんなことを言ってるように見えた。
持ってきてくれるだけでありがたいのに。
「ヒカリ君、やっぱり動物達の考えてることも分かるんだね」
「完全に分かるわけじゃないよ。僕が言ってることもちゃんと伝わってるか微妙だし」
考えが分かってしまう僕を嫌悪するのではなく、意思疎通が出来る友として扱ってくれる。
更にはこうして親切にしてくれるし、遊び相手にもなってくれる。
僕の能力を完全に嫌いになれない理由の一つだ。
(つがい?つがい?)
鳥特有の軽快なステップで僕らの周りを歩きながら僕に聞いてくる鳥は、前世の飛べない鳥であるカカポにやたら似ている。
だけど、このちょっと生意気な鳥は飛べる。
結構飛ぶ。ビュンビュン飛ぶ。
たまに慣性の法則を無視して飛ぶし、リスのことも背中に乗せて飛べる、割とすごい鳥だ。
ちょっと生意気だけど。
「違う」
ツンと軽く指で小突くと、鳥は大袈裟に倒れた。
まったくもう。
ユーリに聞こえないからいいけど、つがいとか……。
僕の推しになんてこと言うんだ。
「あの、ヒカリ君。それについてちょっと聞きたいんだけど」
リスから貰った水色のりんごのような果物をユーリが見ている。
持ってきてくれてるものだから名前とかも知らないけど、これ結構美味しいし、一緒に食べればさっきの気まずい雰囲気も完全に無くなるよね。
「何かは知らないけど、甘くて美味しいんだ。半分こしよ」
「えっ、ちょ、ちょっと待って!本当に知らないの!?世界樹の実よ!?」
世界樹の実?
「数年に一度しか採れない貴重なものだから、それはヒカリ君が食べるべき……」
「でも毎日三食くれるし」
「ええっ!?ど、どうやって……!?」
「それは知らないけど。今度あの子に会ったら聞いてみるね」
いつの間にか一羽と一匹はいなくなっていたので、そう答えた。
腰のポーチから小さなナイフを取り出して、世界樹の実を半分に切り分けてユーリに渡す。
「ね、ねえヒカリ君。これ本当にいいの?ヒカリ君が思ってる以上にすごいものだと思うんだけど」
「大丈夫だってば。ユーリが食べないなら、僕も食べないよ」
「そ、それは困る……いただきます」
ユーリが観念したような表情で食べ始めたのを確認してから僕も食べる。
うん、程よい甘さで美味しい。
ユーリも同じ感想らしく、表情が一変し、笑顔になる。
毎日食べてるけど、何故か全然飽きない。
「…………」
「…………」
二人で味わいながら食べてる間、少し考えていた。
友達とは何をするものなのか。
こんな森しかないところで。
ユーリは駆け回るようなキャラじゃないしなぁ。
いや、何で僕に合わせようとしてるんだ。
というか、別に遊びじゃなくていいじゃないか。
僕は能力故に他人との関わりを避けてきたから、知らないことが多すぎる。
友達付き合いの一環としていろいろとおしえてもらおう。
まずはユーリの得意な分野で、尚且つ僕の勉強になるものがある。
多分ここを逃せば、これから教わる機会はほぼないだろう。
「ユーリ、お願いがあるんだけどいい?」
「なに、どうしたの?」
「僕に魔法を教えて欲しい」
僕の唐突な頼みに、ユーリは力強く頷いた。
「うん、任せて!」
ユーリの金色のセミロングが楽し気に揺れて微笑む姿は、ゲームだったら確実に最高のスチルになってただろうな、なんてオタク全開な感想を僕は抱いてしまうのだった。
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一話目から、反応を貰えるとは思いませんでした。
ありがとうございます。
見切り発車で投稿したから、二話目に苦労した……。
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