《短歌二十首連作》生活は続く

藍沢 紗夜

生活は続く

晴天にひかるレースのカーテンがそっと教える新しい朝


ひとつずつ洗濯物を折りたたみ「ていねい」に少し近づく儀式


クロゼットからこぼれ出す水色が私の部屋で夏を待ってる


まっすぐに伸ばしたかったワイシャツが母の手際の良さを教える


六畳も少し馴染んで掃除機を掛ければ見える生活の跡


異質でも混ざれば日常アボガドにわさび醤油はよく合うもので


適量がわからないまま生きてきてまた多すぎたスパイスに泣く


枯れかけた心身に水を遣るようにシャワーの温度に一息をつく


失敗を過去にするため書く日記 明日の私はもっと賢い


眠れない夜の数だけ倍になる頭の中に住む羊たち


生活に見合わない皿を飾って最後の晩餐まで取っておく


足早に過ぎ去る日々に比例して増え続ける書類と積読


羽に似た、されど飛べない身軽さで舞い落ちるくすんだレジ袋


なくなった予定を黒く塗り潰す予報外れの雨は止まない


次に会うために選んだスカートを着られなかった痛みを仕舞う


部屋中の澱みを袋に詰めたなら昨夜の憂鬱も捨てに行こう


誕生日祝いは年々減るけれど少数精鋭の友がいる


ささやかなご褒美選び 幸福は自分で守り育てるものよ


死に際で生まれたことを愛したいために積み上げていく人生


人生の終わりのような日を経ても死なない限り続く生活

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《短歌二十首連作》生活は続く 藍沢 紗夜 @EdamameKoeda

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