コピー・アンド・ペースト

不労つぴ

博士の実験

 ハリー博士は、言葉を交わさずとも脳波だけでコミュニケーションを図る事のできる人工テレパシー装置を開発した。


 その装置は、光沢を放つ金属製のヘッドセットで、装着するだけで他の装着者との間で意思疎通が可能になるという夢のような発明品だった。


 実験は順調に進み、動物での実験も驚くほど好調だったので、長い準備を経て人間を対象とした実験を行うこととなった。


 博士の計画では、まだ技術的な側面で有線でしか使用できない装置を、近い将来にはイヤホンのような形状に小型化し、無線化してどこでも使えるようにするつもりだった。


 志願した二人の被験者が、緊張した面持ちでヘッドセットを被り、スイッチを入れる。実験室の空気も緊迫した雰囲気に包まれた。


 しかし、スイッチが入った瞬間、二人の被験者は同時に気絶してしまった。


 他の被験者も同様で、皆例外無く実験開始から1分も経たないうちに気絶してしまい、ついには精神に異常をきたす被験者まで現れてしまった。


 この結果を受け、実験の予算は凍結。ハリー博士の人生をかけた夢のプロジェクトは中止を余儀なくされた。


「おかしい……私の計算では失敗など絶対にありえないのに……」


 窮地に追い詰められた博士は、最後の賭けに出ることを決意する。自らと助手を使い、自分たちが被験者となるのだ。


 博士と助手は互いに一瞬の視線を交わし、深い呼吸を整えながらヘルメットを被り、同時にスイッチを入れた。


 瞬間、2人の脳内に暴力的なほどの情報の濁流が流れ込み、意識を刈り取った。


 薄れゆく意識の中、博士はようやくこの発明品の何がいけなかったのかを悟った。


 人間の脳は、聴覚や視覚など外部から得た情報に自身の価値観などを付与し、理解できる形式に変換するフィルターを持っている。


 だが、この装置は脳によるフィルタリング処理のプロセスを省いており、相手の思考をダイレクトに装着者へ伝えていたのだ。


 つまり、相手の思考を読み取った被験者は、まるでコンピューターのソースコードに無関係な文字列をデタラメに挿入されたかのように、脳が正常に機能しなくなってしまったのだった。

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