斬術披露



そして。

奈流芳一以は『流刃』を使役する。

闘火を刀身から放ち、刃の周辺を流れる様に放つ事で、一時的に刀の切断能力を上昇させる。


「こいよッ!来れるもんならなァ!!」


相手は再び刀を構えた。

そして体を大きく動かしながら炎命炉刃金を振り抜く。


「(やはりかッ)」


弋刀とびたち』である。

数多くの流派が存在する斬術戦法。

しかし、その技法には源流が存在する。

様々な方針や一点特化を目指し流派が派生した。

故に、違う流派でありながら、同等の斬術戦法を体得している斬人は多い。


「(撃剣使用後は接近戦は一気に不利になる、その弱点を埋める為に、遠距離用の斬術を学んでいるのは定石だろうと思ったが)」


読みが当たった。

流刃によって刀身をチェーンソーの刃の様に外側を循環させながら、相手の弋刀による斬撃を弾く。


「(へえ…斬撃を弾くか、普通に受けたら刀の方がダメになるからな、きっちり流刃で弾性も備えたってワケかい)」


相手は奈流芳一以の行動に関心を示す。


「(そして相手はそれでも牽制を行う為に弋刀を放つ、十分に撃剣の為の熱量を蓄積するまで…だからこそ)」


奈流芳一以は深く足を沈み込ませる。

その動きから察した男は刀を上へ持ち上げた。


「(居合の構え、『流閃』、いや劣化版の『拔奔ばっそう』だな、流刃纏ってたもんなッ!!)」


否。

奈流芳一以の動きは見せかけだ。

縮步と鞘辷による流閃も。

縮步と流刃による拔奔も。

炎命炉刃金を鞘に納めず距離を詰めようとしている。

納める時間が無く、発動後の硬直を懸念。

鞘辷は鞘に納め、刀身から放たれる爆発力での抜刀を行う。

流刃は鞘に納め、刀身の外側から流れる循環の速度を高速化させる事で、履帯の動きの如く循環する刀身を抜刀する技だ。

抜刀時の速度は鞘辷の方が早いが手に痺れ・硬直が残る。

拔奔は速度は鞘辷よりも遅いが、麻痺や硬直が起こる事は無い。


「(俺は正々堂々と万全な相手を斃したいなんて思わない、此方の優勢、土俵に立たせて叩き潰すッ)」


故に、奈流芳一以の行動は、縮步のみである。

使用後、急速に加速した肉体が闘火に圧迫されて一時的に脚部が硬直してしまう。

それでもその選択をしたのは、長引けば不利であると悟ったからだ。


「(撃剣の蓄積は無駄、相手が接近する方が早い、弋刀で迎え撃って動きを止めるか?いいや、それじゃあつまんねぇ、接近してくれるんだろうが?ありがてぇ、なら、迎え撃つまでだッ)」


振り切った刀を強く握り締める。

そのまま腕を頭上へと向かわせる。

上段の構えとなった男に、奈流芳一以は気づきながらも止まらない。


「(縮步ッ)」


縮步を発動。

奈流芳一以は地面を蹴ると共に飛び跳ねて敵前へ迫る。


「(断月だんげつッ!!)」


流刃を纏い、峰の部分から闘火を放出させ刀身を加速。

一振りで一刀両断する斬術戦法を放つ。


相手の動きが早く。

奈流芳一以の頭部を捕らえた。

当たれば縦一直線に肉体を一刀両断にする『兜割』の上位互換。

受け太刀すらも破壊する強力な一撃に、奈流芳一以はそれを受ける気など無い。


「(ここだッ)」


更に重ねて、奈流芳一以は斬術を使役。

妖刀師の斬撃が、幻影を切り裂いた。

斬術戦法『燈籠とうろう』。

肉体から放出する闘火の熱量を基に自身の残像を作り出す事が出来る『残影ざんえい』。

脚部から闘火を放出し、相手の背後へと回る『後光ごこう』。

その二つを混同し、相手に残像を見せた状態で背後へと回る『燈籠』により、確実に背後を取った。


「(背後からの気配、偽物、死角ッ)」


頭で考える妖刀師。

このまま振り返り、攻撃の態勢を取る時には、相手の刃が己を貫く。

だが、完全に振り切っていない状態で気が付いた事が僥倖だった。


「(切り替えるッ、『割断』ッ!!)」


断月の標的を残像からそのまま地面へと向ける。

そのまま妖刀師は地面を叩くと、大地に亀裂が走り、地盤が崩れるかの様に地層が剥がれた。

割断は足場を崩す斬術であり、この攻撃により、奈流芳一以の背後からの攻撃を一手遅らせるに至った。


「叫哭!!」


妖刀師が斬神の名を叫ぶと。

奈流芳一以を払うかの様に、長巻で彼の肉体を叩き付けた。

寸での所で奈流芳一以は炎命炉刃金で受け止め、後方へと飛ぶように移動し衝撃を殺した。

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鬱エロゲの様な世界で覚醒した主人公がヤンデレなヒロインに依存されるダークファンタジー 三流木青二斎無一門 @itisyou

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