第8話 学園の事前見学
「ようこそ、雄星学園へ。歓迎するわ、二人共」
俺と未海は入学の一日前、大室さんと一緒に雄星学園へ赴いていた。
なんでも大室さん曰く、『学校を良く知らないと、不審がる人もいる』とのこと。
そのため、校内見学という形で来校した。
なるほど、私立というだけあって中々に広くて立派な高校だ。
「じゃあ、早速案内するわね」
大室さんに連れられ、いろんなところを渡り歩く。
自分たちが通う教室、食堂、中庭、体育館、運動場、更衣室、プール、職員室、購買、図書室、美術室、理科室、視聴覚室、被服室などと必要最低限の場所を案内してもらった。
しかし一回行っただけでは中々覚えることは難しいので、また改めて散策してみよう。
「さて、案内はこれくらいにして······次は、理事長室に連れて行くわね。そこでお話しましょうか」
そう言われ、理事長室へ案内されて通される。
「さあ、そこに座って」
そしてソファーに座るように促され、俺たちは二人並んで腰をかける。
大室さんも向かい側に座り、懐から一台のスマートフォンを取り出した。
「まず、これを優真君。あなたに渡します」
「これは······?」
どう見ても最新型のスマートフォンだ。
新品みたいで、傷一つすらない。
「これは、優理用のスマートフォンよ。友人が出来た場合、連絡する時はこれを使いなさい」
「なるほど······」
確かに、俺のスマートフォンで連絡先を交換する訳にはいかないな。
ひょんなことからバレてしまうリスクを考えれば、優理用のスマートフォンを準備するのは当然か。
「このスマートフォンには、優理が好きな音楽や写真も入っているわ。是非参考にしてちょうだい」
それは助かる。趣味嗜好は熟知したが、詳しいことまでは分からない。
例えば音楽が好きと言われても、どの歌手が好きで何の曲を聴いているのか知らなければ答えようが無い。
ありがたく使わせてもらうことにしよう。
「あぁ、ちなみに私の連絡先も登録しているから何かあれば連絡ちょうだいね」
「ありがとうございます」
スマートフォンの電源を入れ、連絡帳を確認すると大室さんの電話番号が登録されていた。
しかし、あることに気が付く。
「······あれ?この人は?」
連絡帳の中に、大室さん以外の連絡先が一人登録されていた。
『桧坂雪恋』。どう見ても女の子だろう。
ガールフレンドだろうか?ふむ、優理も隅に置けない奴だ。
「あぁ、雪恋さんね。この子は、優理の幼なじみよ」
「幼なじみ······それはヤバいのでは?」
幼なじみは、小さい頃から一緒に居たりするから他の人よりはその人のことを良く理解しているものだ。
その子がどんな子かは知らないが、俺と優理の些細な違いにも気が付くかもしれない。
そんな危険を頭に浮かべていると、大室さんは見越したように言う。
「大丈夫よ、雪恋さんは同じ学園には居ないわ。それに中々会わないと思うの」
「······その根拠は?」
「これを見なさい」
そう言われて机の上に置かれたのは、一冊の雑誌。
はて、どこかで見たことあるようなと思い出そうとすると、未海が思い出したように言った。
「あぁ、この子······」
「未海、知ってるのか?」
「むしろ知らないのが驚きだけど······この子、今人気急成長のアイドル、『KOYUKI』よ」
なるほど、アイドルとかには疎くてさっぱり分からなかった。
にしても優理、こんな可愛い子と幼なじみとは正直羨ましいし妬ましい。
俺には幼なじみなんてものはいないから、余計に。
「ええ、その通りよ。だから優理と会うことは、まず無いわ」
「······もしも会ったりしたら?」
その可能性もゼロじゃない。
アイドルとて人間だ、偶然にも会ったりする可能性も無きにしもあらず。
その時、果たして俺は優理として誤魔化すことが出来るだろうか?
不安に思っていると、肩をトントンと叩かれた。
言わずもがな、未海だった。
「大丈夫、そのために私がいるんだから」
「お、おぉ······なんて頼もしい」
協力者が居るだけで、こんなにも心強いものなのか。
不安な気持ちが霧散していく。
「まあ、会う可能性は限りなく低いし、この学園にも通ってはいないから心配は無いと思うけれどね」
「まあ······それもそうだけど」
しかし、楽観視してはいけない。
未海が居ても、必ずバレないと保証は無い。
決してバレないようにするには、俺自身がもっと周りに気を付けていかないといけない。
相当なプレッシャーだ、しかし引き受けた以上はお金のためにもやらなければならない。
「話は以上よ。明日からよろしくお願いね?」
にっこりと笑う大室さんが少しだけ憎らしい。
スマートフォンを受け取った俺は、未海と共に部屋を出た。
淫らに迫られているけど、人違いだから喜べません! 里村詩音 @shionalice1106
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