第7話   優理との対談




「············」

「············」




真夜中の訪問者を招き入れ、俺と未海は揃って相対して席に座る彼を見ていた。

立原優理。

病弱で、近々手術を控えている彼が何故か俺たちの部屋に居る。




「あ、あの······まじまじと見つめられても困るんですが······」

「あ、ああ······悪い」




つい、じっと彼を見ていたようだ。

それは未海も同じのようで、「へぇ······」と関心したような声を漏らして俺に囁いてきた。




「本当に瓜二つみたいね、あなたと彼······」

「ああ······これは、さすがに······」




大室さんから写真は見せられたが、こうして改めて見ると本当にそっくりだ。

双子と言われても差し支えないほどに。

これは大室さんも驚いて、俺に契約を持ちかけるのも理解出来る。

だが、目の前の彼は落ち着かない様子でもじもじしているようだった。




「え、えっと······まずは、お礼を先に言わせていただきます。この度は、僕の代わりを努めてくれてありがとうございます。矢伏さんも、ありがとうございます」

「ああ、それは気にするな。俺も金目当てで契約しただけだからな。こちらこそ、礼を言うよ」

「私もよ。まあ、私はお金目当てではないけど······」




あれ?そうだったのか?

てっきり金銭的な狙いで契約したのかと思ったが、そうなると他の目的があるのか?

ふむ、と考えていると立原優理が俺のほうをじっと見つめてきた。




「凄いですね、僕と本当にそっくりだ」

「ああ、俺たちもついさっき同じことを思ったよ。というか、手術予定なんだろう?こんなところに居て大丈夫なのか?」

「あ、はい。本当は担当の先生から止められたんですけど、僕が無理を言って咲乃さんから場所を尋ねて来ました。ご迷惑でした?」

「いや、迷惑じゃない。心配しただけだ」

「ふふっ、優しいんですね」




クスクスと笑う彼を見て、なんだか変な気分になってしまった。いや、変な意味ではなく。

自分のそっくりさんが、可愛らしく笑うのはちょっとむず痒いというか正直気持ち悪い。




「それはそうと、大変じゃありませんか?僕の代わりって······」

「まあ、ぶっちゃけ大変だったよ。主に勉強がな······」

「ふっ、あははっ。僕とは正反対っぽいから、その気持ちは分かる気がします」




うーん、やはり変な気分だ。

自分のそっくりさんと話しているだけで、なんだか背中がむずむずしてくる。

しかし、この機会を逃すと話せないこともあるので聞きたいことを聞いてみよう。




「えっと······優理って呼ぶぞ?」

「あ、はい」

「ざっと優理のプロフィールを見たんだが、交友関係はどうなってるんだ?友人とか、恋人とか······」

「あはは、あいにくそういう人はいません。僕、小さい頃から病弱だったので通院が長くて······」

「なるほどなぁ······それは大変だったな」

「もう慣れていますよ」




そう言う彼の笑顔は、どこか儚げで悲しげだった。

俺も友人も恋人もいなかったが、彼はその事情故に作りたくても作れなかったのだろう。

なんだか可哀想に思えてくるが、同情したら彼に失礼だろう。

だったら、俺のやるべきことは一つ。




「だったら、俺と友達にならないか?」

「えっ······?」

「まあ、同じ顔をした人間が友達ってのもおかしな話だが、恥ずかしい話で俺も友達がいないんだ」




そう言うと、優理は驚いた顔をしていた。

隣で未海が「······私がいるじゃない」とぼそっと呟いたが、あいにく俺は未海と友達になった覚えがない。




「僕でいいんですか······?」

「ああ、優理さえ良ければだけどな」

「っ、はい······!よろしくお願いします!」




そっくりな顔の二人が握手をしているこの光景は、端から見ればシュールだろう。

未海は「これは······まさかBL展開!?」と頬を赤くして目を爛々と輝かせているが、申し訳ないが未海の期待している展開にはきっとならないと思う。

俺、そっちの毛はないしな!




「そ、そういえば手術予定日はいつなんだ?」

「えっと······一カ月後ですね」

「なるほどな······」




それは不安にもなるだろう。

時間が空いた時に見舞いにでも行ってやろう。

お見舞いは何を持って行こうかな?

そう考えていると、優理は時計をチラッと見た。




「あ、それじゃあ僕はこの辺で失礼しますね。早く戻ったてこいと先生と約束したので」

「おう、そうか。まあ、なんだ······頑張れよ?」

「はい、今日はありがとうございました。それじゃあ、また」




そう言って、優理は部屋を出て行った。

ふむ、なかなかに良い有意義な時間だった。

よし、友達になった優理のためにも明日から頑張ろう。




「さて、じゃあ邪魔者は居なくなったから私とイチャイチャしましょうか?」

「しません!」




しまった、優理にこいつを押し付ければ良かった。

まあ、優理も困るか。こんな年上痴女を押し付けられても······。

それはそうと、明日のために早く寝よう。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る