第2話
「私の…過去の世界?」
彼女は首を傾げて聞く。
「そうさ、ねえ、君は今この現状に満足しているかい?そして、過去に後悔はないかい?」
少年が面白おかしそうに言う。
しかし、そんな少年を見ても彼女は動じることなく、落ち着いて答える。
「ええ。後悔なんて沢山あるわ。そして、この状況に私は満足なんてしていないわ。」
彼女は目を細めて言った。
「そうか。なら、僕の出番さ。君の過去をやり直そう。」
「え?」
「ちょっと待ってね、あ。あそこを見てみ?」
少年が指を指す方向に彼女は視線を向ける。
「扉?」
「そうさ、あの扉を潜れば、今の人生とはお別れでまた一から人生を歩むことができる。まあ、一からって言っても自分が一番強く後悔している部分か、一番ここに戻りたいって思っている方にタイムスリップするんだけどね。」
少年は得意げそうに喋る。
「一つ、聞きたいわ。」
「ん?言ってみ。」
「もし、あの扉を潜ったら私が歩んできた今までの人生は、どうなってしまうの?えと、今さっきまでいたあの時は…」
「ああ、それはね、君は死んだことになる。一応、時は進んでいくからね。君が扉を選んでも、君のいない時は進んでいくよ。」
「そう。」
彼女は何かを考えつつも、彼女の意思は扉の方へと向かっていた。
「扉を潜ろうと思うわ。」
「そうか。いいと思うよ。」
「ええ。ありがとう。あの、ごめんなさい、最後に聞きたいことがあるの。」
少年は優しげな表情でコクリと頷く。
「あなたのお名前は?」
「ん?僕の名前?」
「ええ。聞いてなかったでしょう?あ、でも私が先に名乗った方がいいわよね。私の名前はホルアナ・ムーティよ。あなたは?」
「僕は…いや、ごめん、名乗れない。先生に叱られる。悪い。」
「そう。いいわよ、気にしないで。」
にこりと作り笑いする彼女の姿を見て、少年は目を細める。
そして、少年は大きくため息をまた、ついた。
「はあ、ほら、行くならとっとと行っていくれ。時間がないんだ。というか面倒くさい。」
「あら、そうなのね。ごめんなさいね。ええ、行ってくるわ。」
彼女のルビー色の瞳に、微かに光が入る。
しかし、すぐにまた消えた。
しかし、少年は見守らなければならない。
彼女がこれからどのように歩むのか、どのように進むのか。
その人生に、本当の終わりが来た時、もう一度、彼女に相応しい花束を授けなければならないから。
少年は、見つめる。
白い翼が描かれている扉を開け、光の中に飛び込んでいく彼女を、ホルアナを。
ホルアナが扉の中へと飛び込んだ後、扉は消える。
そして、白い空間は黒い空間へと変わっていく。
「思ったより時間がかかってしまったな。はあ、ったく。まだミッションは山のようにあるってのに…」
黒く、暗い空間で少年はつぶやく。
「よし、俺も行くか。」
また扉が開かれる。
先ほどの白い翼が描かれている扉ではなく、黒く重苦しい扉が灰色の煙と共に現れた。
扉が、ゆっくり、ゆっくりと開かれるその時、神々しい光が降り注がれると思ったが、光が一つもない、今いる黒い空間よりも暗く、さらに黒い空間が向こうには広がっていた。
少年は足を踏み入れる。
彼女の旅路を少年は見つめなければならない。
君に似合う一番の花束を、授けるために…
次の更新予定
毎週 土曜日 16:00 予定は変更される可能性があります
君に花束を。 茶葉 @tyara
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。君に花束を。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます