君に花束を。
茶葉
第1話
「おめでとー!」
「なんて美しい方だ…」
「おめでとうございます!」
「夢を現実にしてくれた尊いお方だ…」
「愛してます!!!」
「ああ、好き!!!!」
彼女に向けて、沢山の言葉を投げかける。
しかし、彼女の表情は明るくなど、到底することはできなかった。
しかし、『作り笑い』はマスターしている彼女だった。
だから、笑った。笑顔を、見せた。
そんな彼女を遠目で見ている少年がいた。
少年の瞳は輝きに満ち溢れていた。
「今度のミッションはあのお方ってわけか。とても面白そうだ。」
少年はニヤリと顔を歪ませて、何やら企んでいる様子だった。
先ほどの瞳の輝きなど、元からなかったかのような酷い、笑みだった。
「よし、じゃあ、とっととミッションをクリアしちまおうw」
少年は、あの気味の悪い笑みをやめ、民衆から喝采を浴びている彼女を見つめる。
彼女の瞳を見つめる。光が入らない、ルビー色の瞳を見つめる。
そして、唱える。
「君に花束を。」
少年は妙に落ちついた、太い声で唱える。
本当に少年なのか疑う程に、低く、太い声だった。
少年が唱えた途端、彼女の手元には小さな花束が送られていた。
突然手元に花束が現れて驚く彼女だったが、その花束を見て、彼女はすぐに表情を変えた。
彼女の口から言葉が溢れる。
「懐かしい。あの頃に、戻りたい。」
「今だ。ワイタエゲン」
少年はまた、何やら唱えた。
「お、おい!!何が起こったんだ!?女王様がああ!!」
「眠っていらっしゃるのかしら!?」
「そんな急に眠りにつかれることなんてないだろ!」
「疲れだよ。だって、魔王を倒して休む暇もなく、私たちに尽くしてもらっているのだから!!!」
民衆から、嘆きの声や同情の言葉が彼女に投げかけられる。
しかし、彼女の耳に入ることはなかった。
「ははっ、気を失っているんだよ。馬鹿どもが。じゃあ、僕も。」
少年は虫ケラを見るような目で、周りにいる人間に言った。
そして、少年はその場から姿を消した。
「お、おい、後ろにいた男の子、今…」
「ああ?うるせーよ、そんなことより、女王様を心配しろよ!」
「あ、ああ」
「はあ…」
少年は大きくため息をつく。
「どーも。」
少年は、とっとと終わらせたい。という顔で彼女を見る。
「こ、こんにちわ。ごめんなさい、失礼なことを聞くけれど、あなたは誰なの?」
彼女は喝采を浴びていた時の豪華なドレスではなく、今はシンプルな白いワンピースを着ている。
とても長く、艶やかな金色の髪は、今はポニーテールをして束ねてある。
「あー僕?僕は、、、んーこれ言っていいのか?んー…」
悩みに悩んでいると、彼女の方からまた言葉を投げかけてくれた。
「え、えと、じゃあ、ここはどこですか…?」
「あ、ここ?w」
少年はまた、あの不気味な笑みをして、彼女を見つめる。
彼女は一瞬、その表情に一歩引いたが、すぐにその感情を切り捨てた。
「ははっ、ここはね、君の過去の世界さ。」
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