定期2便:「―Patrol Contact― 後編」

定期1便、2便時点では管理隊側の描写は少しぼかしています。



――――――――――



 艦長セテュリーネ始め、ファリア=レアティサスの艦橋の各乗組員は、皆一様に訝しみ、あるいは唖然とした様子で、艦橋に投影される巨大スクリーンに映し出された光景に、目を奪われていた。

 スクリーンに映った黄色の自動車と思しき物体は、艦の後方数百mの地点の停止したかと思うと、そこから搭乗していた人物が降り立つ様子を見せる。

 今セティリーネ達の身を置くこの異質な空間は、宇宙空間とは異なる場ではあるが、真空中である等の環境条件は、宇宙空間に似通った物であった。しかし驚くべき事に降り立ってきた者達の装備は、その真空中空間出る上で本来あるべきであろう宇宙服装備等では無かった。

 画像をズームする事により見えたのは、おそらく本来なら大気圏中での活動を前提とした、青を基調とした制服と思しき服装。気密性のある物にはとても見えず、何よりその顔周りは平然と真空中に露出してる。

 本来ならばあのような服装で真空中に出れば、呼吸はできず、血液は沸騰し、苦しみ抜いた挙句死に至るであろう。

 しかし姿を現した者達は、そういった様子をまるで見せる事無く、何らかの手順に則っていると見られる動きを開始した。

 一人は棒状の何かを持ってその自動車を離れ、自動車と艦の後方数kmの所まで駆け飛んだかと思うと、その場に手に持っていたそれを展開。棒状のそれは旗であり、さらにその旗からは赤いビームが伸び形成され、50m四方の電子の旗が形成され、その者は異質な空間で、その旗を振り始めた。


「艦長!もう一人がこちらに来ます!」


 その一連の光景を訝しむ様子で見ていたセティリーネだったが、乗員の言葉に視線を移す。分割されたスクリーン映像の一つにその光景は映し出される。艦後方で停止した自動車の横から身を乗り入れ、動きを見せなかったもう一人の人物が、自動車を離れ、艦に向けて飛び駆けて来る姿をセテュリーネは確認した。


「ッ――各銃砲座、警戒して!艦内武装小隊は配置へ!」


 正体不明の人物の接近を受け、セテュリーネは配下の各乗組員へ命令を下す。その間にも、その人物は空間を飛び駆けてあっという間に艦の傍へと到達。人物は、少し艦の全形を見渡して迷うような素振りを見せる。そんな人物に、艦の各所に備えられている各銃砲座は一斉にその砲口を向けていたが、人物はそれを気に留める様子は無く、やがて艦の艦橋を目に留め、飛び駆けてきてセテュリーネ達の前にその姿を現した。

 艦橋窓越しに、真空中であるはずのその向こう現れた正体不明の人物――見るに壮年の男性らしきその者にセテュリーネ、そして乗組員達や艦橋に駆け付けた武装兵達は、警戒の視線を向ける。


《――大丈夫ですか?》


 艦橋中に、異質な声色が突如として響いたのはその瞬間であった。突如響いた何か効果のかかったような音声に、セテュリーネは思わず艦橋中に視線を走らせてしまう。

 しかし同時に、艦橋窓の外に立つ人物が、手を振るジェスチャーを見せた事から、声の主がその壮年の男性である事を彼女は察した。


《私は、―超空軌道交通管理隊―の者です。いかがなされましたか?》


 そして壮年の男性は、おそらく組織名であろう名称を名乗る。


「超空、管理隊――?」


 聞いた事も無いその組織名に、訝しむ表情を浮かべるセテュリーネ。


「艦外音声を繋げ……――我々はアリスィネア銀河皇国、宇宙艦隊所属の者だ。私はこのファリア=レアティサス艦長、セテュリーネ・ミリア・ハウネスク准将。我々はこの未知の空間に数時間前に迷い込み、行動不能に陥っている」


 しかし壮年の男性の問いかけの言葉に一応は答えるべく、セテュリーネは艦外に備えられたマイク機能を起こさせ、人物に向けて自身達の所属と、身分姓名階級等を名乗って見せる。


《あぁ、やはりトラブルですか》


 そんなセティリーネの言葉を受けた壮年の男性は、何か納得したように発する。


《しかし、アリスィネアか――》


 しかし人物は直後にセティリーネ達の母国の名を呟くと、何か胸元からメモ帳のような物を取り出し、開いて目を通す姿を見せる。


《やっぱり、新規接触だな》


 そしてそんな言葉を零して見せた。


(新規……?この者、まさか皇国を知らない?)


 聞こえ来た壮年の男性のその言葉から、セティリーネは内心でそんな言葉を浮かべる。

 彼女達の帰属するアリスィネア皇国は、多数の銀河と広大な宇宙域を支配する巨大文明であり、彼女達の宇宙では、全ての人々はその名に畏怖し慄き、その名を知らぬ者など存在し得なかった。

 しかし目の前の壮年の男性の反応は、そんな当然を覆すような物であった。


《これは、こっちもボク等でレッカーも呼ばないとな――すみません、いくつか説明させていただきたいので、そちらへ入らせて頂いてもいいですか?》


 訝しむセテュリーネをよそに、艦橋窓の向こうの壮年の男性は、そんな要求を寄越して来た。その要求を受け、セテュリーネは迷いの色を見せた。

 この得体の知れない人物を艦内に招き入れる事は、正直あまり好ましい事ではない。しかしこの者は少なくともこの異質な空間について知っており、そして何らかの情報を持っている。


「……いいだろう。――彼を艦内に収容する、エアロック解放準備」


 その双方を天秤に掛けたセテュリーネは、壮年の男性を艦内に招き入れる選択を取った。彼女は配下の乗組員に、艦の真空中とのアクセスであるエアロックを準備するよう、指示の言葉を発する。


《あぁ、大丈夫です。直接そちらに移れますので》


 しかし直後、壮年の男性からそんな言葉が発せられる。


「何?」


 その言葉の意図が掴めず、訝しむ声を上げるセテュリーネ。――ここまで驚くべき事態の連続であったが、さらに驚くべき事が彼女達の目の前で起こったのはその瞬間であった。


「――な!?」


 その壮年の男性は、双方を隔てていた艦橋窓を、まるで水面でも潜るようにすり抜け、艦橋内へと踏み入って見せたのだ。艦橋内へと進入し、床へ足を着く壮年の男性。

 その衝撃的な出来事に、セティリーネ以下乗員達から驚き騒めく声が上がった。


「失礼します――おっと」


 一方の壮年の男性は、これまでの物とは異なる肉声で、立ち入りを断る旨の言葉を発したが、次に少し驚いたような声を上げる。壮年の男性の周りを、艦橋に駆け付けた武装兵が遠巻きに取り囲み、銃を構えその銃口を向けたからだ。


「すまないが、警戒の姿勢を取らせてもらう」


 そう発したセテュリーネと、彼女以下乗員達も警戒の目で彼を見つめている。


「ご心配なさらないで下さい、私は武器等は持っていません」


 そんな彼女等に、壮年の男性は自身が非武装である旨を明かす。


「こんな服装ですが、防疫ガード等の各対策も行っています。少なくとも私達からあなた方に、危害、被害が及ぶことは無いとお約束できます」


 そして続けて、そんな説く言葉を発して見せた。


「……貴方は一体何者だ?この空間について何か知っているのか?」


 セテュリーネは壮年の男性のその説明の言葉には返さずに、警戒の眼を保ったまま、壮年の男性に向けて問いかける言葉を発する。


「えぇ。私は超空軌道交通管理隊、ヴォイドフィールド基地の渥美(あつみ)と言います」


 それに応え、壮年の男性はまず自らの所属と姓を名乗って見せる。


「ここは各宇宙空間の合間の、ズレた位置に存在する〝交宙空間〟という場所です」

「交宙……空間……?」


 そして壮年の男性はそんな説明の言葉を発する。壮年の男性の言葉中にあった聞きなれぬワードに、セテュリーネはそれを懐疑的な声色で復唱する。


「えぇ。皆さんの船は、おそらく何かのはずみでこの交宙空間に迷い込んでしまったんでしょう。まぁ、よくある事なんです」


 訝しみ懐疑的な色を見せるセテュリーネに反して、どこか飄々とした様子で言って見せる壮年の男性。


「では尋ねたい。この空間から脱出する方法を貴方は知っているのか?私達は今現在この場で難破しているも同然の状態にある、知っているのなら教えを乞いたい」


 そんな壮年の男性に向けて尋ね掛けるセテュリーネ。しかし壮年の男性からは、彼女の想定を超えた思いもよらぬ言葉が返って来た。


「あぁ、ご心配なく。レッカー――この場から離脱するための手配は、こちらでしますから」

「え?」


 想定を越えた回答に、セテュリーネは思わず呆けた声を零してしまう。


「本来なら乗員さん側で手配してもらうのが原則なんですが――新規接触の方に限ってはそれは難しいですから、こちらで対応しています」


 そんな彼女をよそに、壮年の男性は何かそんな説明のような言葉を紡いで見せる。


「間もなく超空警察隊も到着します、詳しくは警察隊から説明を受けてください。私達はあくまで、軌道上や利用者の安全確保が役割なので」


 そして続くそんな各種説明。

 その内容についてはよく分からなかったが、少なくとも助けが手配されるらしい事をセテュリーネは漠然と理解する。


「見ず知らずの我々の救助を、そちらがしてくれるというのか。なぜそこまで――」


 思わず疑問の言葉を投げかけるセテュリーネ。

 もちろん彼女達も宇宙軍艦乗りとして、危機や困難に陥った者に無償で手を差し伸べる精神は当然の物として持ち合わせている。しかし目の前の壮年の男性の姿勢は、それとはまた別種の、当たり前であり何か淡々とした物に見えた。

 その異質さが、彼女にそんな一言を零させた。


「それが仕事ですから」


 セテュリーネの零した一言に、対する壮年の男性は何気なしに、一言そう答えて見せた。


「……」


 そんな掴めない姿勢の壮年の男性を、しげしげと見つめるセテュリーネ。


「艦長!」


 そんな彼女の耳に、突如として張り上げられた声が届く。声の主は、レーダー装置に着く女士官の物だ。


「どうした!?」

「当艦に後方より接近する物体有り!何これ……推定サイズ、当艦のおよそ五倍以上!」

「何!?」


 レーダー士官の報告の声に、思わずセテュリーネも声を上げる。


「後ろ艦橋が視認、映像クローズアップします!」


 別の乗員が叫び、そしてそれまで艦後方の自動車を移していたスクリーンに、そのさらに向こうの空間が拡大して映し出される。


「何……これ……」


 そこに映し出されたのは、禍々しい何らかの生命体と思しき物体であった。

 不気味で巨大な顎を開いてその口内を覗かせ、顎奥の胴と思しき部分からは多数の巨大な甲殻類の顎のような物が生え、蠢いている。

 その禍々しい生命体はレーダーを見る限り、かなりの速度でこちらへと迫っていた。


「宇宙……獣……?」


 その禍々しい物体を前に、そんな言葉を零すセテュリーネ。


「艦長、どうされますか!?」

「ッ、後部主砲群及び各銃砲座、攻撃準備を――」


 乗員の指示を求める声に、セテュリーネは攻撃を命じる声を発しかける。


「あぁ、待ってください!それはダメです!」


 しかしそんな所へ声が割り込んだ。セテュリーネが視線を降ろせば、壮年の男性が先とは違った少し慌てた様子で、制止を掛けるように片手を掲げてた。


「落ち着いてください、あれは交宙軌道を利用する貨物便です。通り抜けて行くだけで、何もしませんよ」


 そして壮年の男性は慌てた声を収め、再び説くようにセテュリーネに向けて言葉を紡ぐ。


「貨物……?」


 その言葉に懐疑的な声を零しながら、セテュリーネは再びスクリーンを見上げる。そのやり取りの間にもその禍々しい巨大生命体はこちらとの距離を詰める。

 カメラは引き下がり、スクリーンには接近する巨大生命体と共に、レーザーの旗を振るもう一人の人物が映し出される。その人物により右から左へ流されるように振るわれるレーザーの旗。

 やがて接近した巨大生命体は、まるでそのレーザーの旗に導かれ流されるように進路をずらして変える。セテュリーネはその姿に、子供向け童話や歴史媒体で見た、旗で獣を翻弄する闘獣士の姿を思い起こす。

 一瞬の内のそんな思考の間に、巨大生命体はレーザーの旗を振るう人物の横を抜けて、艦の元へと到達。


「ッ!」


 そう視認したのも束の間、次の瞬間には巨大生命体は艦の傍を、凄まじい速さで飛び抜けて行った。巨大生命体の後ろにはいくつもの、艦のサイズを平然と超えるコンテナのような物が連結されており、セテュリーネは抜けていくその列を、その勢いにやや萎縮しながら見送る。そして一瞬の後には、その巨大コンテナを従えた巨大生命体は、艦の遥か先へと飛び去っていた。


「大丈夫だったでしょう」


 唖然とするセテュリーネ達に、そう発する壮年の男性。


「しかし――やっぱり危ないな。本当は外に退避して欲しい所だけど、この人数だしなぁ。――侵外君、やっぱり規制を張ろう」


 そして壮年の男性は何かを呟くと、肩に下げた無線機らしき物に向けて、そんな言葉を送った。


「私達は安全のため後方に規制を張ります。回収も要請しますので、皆さんはそれが来るまでしばらくお待ちください」


 無線通信を終えた後に、壮年の男性はセテュリーネ始め乗組員達に向けてそう促す声を上げる。そして身を翻すと、艦橋窓を再びすり抜けて真空中へと繰り出し、艦後方へと飛び去って行った。




 それからセテュリーネ達にとって不思議な出来事は立て続いた。

 超空軌道交通管理隊なる彼等が到着してから間もなく、同様に点滅灯備えた自動車が空間を飛んで艦の元に飛来。セテュリーネ達の世界にも存在する警邏組織のパトロールカーにも類似したそれに乗って現れたのは、先の彼等に類似した青い制服を纏った者達。

 その者達は超空軌道交通警察隊を名乗り、名の示す通り警察組織である事が説明され、そしてその超空警察隊の口によって改めて、この異質な空間についての詳しい説明が成された。

 そして今度は超空警察隊からセテュリーネ達に対しても、所属身分階級その他必要とされる事項の質問が成され、さらにはなぜ彼女達がこの空間に迷い込んでしまったのか、原因を判明させるための細かい調査検分が行われた。

 細かいお役所仕事のような――というか実際のそうなのだが――それに付き合わされ、段々辟易として来たセテュリーネだったが、彼女はその中でようやく、自分達が自身の知らぬ、それも自分達とは異質な発展を遂げた文明と接触したのだと言う事を、漠然とながらも理解した。

 検分の間に、2両のクレーンを備えた大型の車輛も、空間のその場――現れた彼等は現場と呼んでいた――に到着。聞いたところによるとどうやらこの車輛が、行動不能となったファリア=レアティサスをこの異質な空間から引き出してくれる存在であるようだった。

 大型車輛の内の1輌は、空間の上方で朽ち果てていた、先客の宇宙艦の回収へと当たりに行った。

 そしてもう1輌が彼女達の艦の前に付けた。その大型車輛からはいくつかのビームで結ばれた拘束装置が放出され、大型車輛に乗って来た作業員と思しき者達が、それらを艦の各所を装着して行った。

 始めはこの巨大な艦をたかだが一輌の車輛で引っ張れるものかと思っていたが、いざその時が来ると、大型車輛は驚くことに悠々と艦のけん引を開始。微々たる動きもままならなかったファリア=レアティサスをその場から引っ張り動かし出したのだ。


「動いた――」

「嘘みたい……」


 艦橋内の乗組員から歓声の声がチラホラと上がる。


「――」


 セテュリーネも声こそ上げなかったが、小さな安堵の息を零す。

 艦はこのまま彼女達の宇宙へと離脱を図る。そして今こちらには、この未知の空間を支配する彼等の外交組織が向かっているようであり、離脱後にはそれ等とのコンタクトがセテュリーネ達の次の仕事として控えていた。

 未だ理解の及ばぬ事が溢れており、この先に待つであろう面倒事に少し気を重くしながら、セテュリーネは何気なしに投影が続けられていたスクリーンに視線を向ける。

 そこには、艦の後方に付けた黄色い自動車。そしてそのさらに後方には、レーザーで形作られた巨大な矢印を描く看板のような物が、等間隔で緩やかな斜めラインを描き並ぶ光景が映っていた。

 これは超空軌道交通管理隊を名乗った彼等が、〝規制〟と呼び艦の後方数kmに渡って張った物であった。この異質な空間は、しかしその実様々な存在が飛び交い利用する公用軌道のようなものであるらしい。そこを凄まじいスピードで飛び抜けていく各物体は、一歩間違えば艦と衝突し、大惨事を招いていたであろう。

 彼等、超空軌道交通管理隊の張った規制は、それ等を受け流し、回収までの間、艦をその危険から守っていた。

 さらに彼等は、今も旗を振るい、そして警戒に当たっている様子を見せている。


「――彼等は、離脱しないのか?」


 セテュリーネは、今も同乗している警察隊の隊員に向けて、尋ねる言葉を掛ける。


「ん?えぇ、管理隊の人等は、現場の状況が完全に解決されるまで、その場に留まり続けます」


 隊員はセテュリーネに向けてそう説明を返す。


「……彼等には無礼を働いたままだったな」


 思えば警戒のためとはいえ、初接触以来彼等には終始不躾な態度を取ってしまっていた事に気付き、セテュリーネはその心に後ろめたさを覚える。


「……副艦長、少し外す」


 傍に控えていた副艦長にそう発すると、セテュリーネはその場を立った。




 交通管理隊の両名は、艦の後方に規制を張り、そこで監視作業を続けていた。


「離脱を開始したね。あれが交宙空間から出たら、規制を解除しよう」

《了解》


 艦の離脱を視認した壮年の男性が無線に発報し、相手である20代後半の男性がそれに返事を寄越す。


《あの軍艦の人達の世界。こっちと穏便に行きますかね?》


 そして続けて無線の向こうから、どこか他人事のような口調でそんな言葉が送られて来る。


「どうだろうね。後はお役所の仕事だし」


 そんな問いかけに、壮年の男性も淡々と返す。


「おや?」


 しかしその時、壮年の男性は離れていく艦の後方に発光現象を見止める。それは発光信号であった。


「こっちに向けてるのかな?」


 壮年の男性は推測の言葉を零しながら、傍に停車している巡回車の助手席側ドアを開いて、半身を乗り入れる。

 そして巡回車のフロントガラスに搭載、組み込まれている光景拡大機能を使用して、艦の後艦橋付近をズームし確認する。


「あれは――」


 そして映った物を見止め、壮年の男性は声を零した後に、その顔に微かな笑みを浮かべた。

 拡大された艦の後艦橋。その窓の向こうには、こちらに向けて向こうの世界式であろう敬礼動作を行う、セテュリーネを始めとする乗組員達の並ぶ姿があった。

 そしてそれを見止めた壮年の男性は、車外へと出てその場で気を付けの姿勢を取り、艦に向けて敬礼動作を返した。




 艦が彼女達の宇宙へと離脱し、警察隊も先んじて現場より離脱。

 それを見送った後に、交通管理隊の両名は規制を解除。展開した各種装備を回収、巡回車へ収容し、現場は元あった状態へと姿を取り戻す。


「後方よし、乗車」


 20代後半の男性が監視を解き、巡回車の助手席へと乗り込む。運転席には先んじて乗り込んでいた壮年の男性の姿があり、彼はすでに発進準備を終えていた。


「発進します」


 軌道側に停止していた巡回車は、発進し次第に速度を上げる。


「はい後方、車輛なし。合流始めて下さい」

「了解、本線合流開始します」


 20代後半の男性が後ろを見ながら報告を上げ、そして壮年の男性はゆっくりとハンドルを傾け始める。巡回車はやがて交宙空間に描かれた軌道側と本線を分ける発光ラインを越え、本線上へと合流した。


「はい完了」

「了解――無線発報します」


 本線への合流が完了すると、助手席の20代後半の男性は、運転席と助手席の間に設置されていた無線機を取り、発報を開始する。


「超空ヴォイドフィールド21より、アーマ管制」

《――アーマ管制。超空ヴォイドフィールド21、どうぞ》

「341ブロック、上り6261万キロポスト。軌道側、トラブル船舶、撤去完了。規制解除。当車は現場より離脱、どうぞ」

《規制解除、了解。どうぞ》

「以上、超空ヴォイドフィールド21」


 無線による管制への報告を終え、無線機を置く20代後半の男性。

 これをもって、この空間軌道上における事象は解決し、この歪でしかし時に賑やかしい空間に、通常が戻った――。




 異質な空間。その中を走る軌道を管理し、安全を担う者達。

 彼等は、―超空軌道交通管理隊―と呼ばれた――。

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