0018 モノクロ少女


 

 ナナセ大司教に怪異の顛末の報告が済み部屋を出たとき、そこにはメイド服姿の女の子が居た。

 言葉を選び損ねる僕を前にその少女はこっちを見上げると目を細め、にっこりと笑う。


「おや、先客か。こんにちはっ」


「あぁ…こんにちは」


「うむっ、良い挨拶だな」


「はぁ…どうも」


 真っ白な肌や髪色がさらに眩しく思えるような屈託のない笑顔を浮かべる、白のフリルがついた黒衣を纏った純白のモノクロ少女。その背丈は僕よりもかなり小さく、初等部か中等部くらいに見えた。

 僕の知り合いでは無いと思うが、その親しげな挨拶や仕草に僕は彼女がまるで数年以来に会う友人から挨拶をされたような錯覚をしてしまいそうになった。


「あ…エル……ここに居たんだ」


「エル?」


 聞き覚えのあるマイペースな喋り方と物音で廊下のその方向を振り向くと、そこにはミハエルの姿があった。

 いまはそのエルと呼ばれた少女と二人で向き合って会話していたが、彼女たちの身長差は凄まじくその白い少女の身長はミハエルの肩よりも小さな物で、こうして二人が並ぶとお互いの身長の高低差が更に際立っていた。


「ミハエルから話は聞いている、レシュノラ君は聖女様の護衛だとな。

 私の名前はモノエル、私がどういった存在なのかは…これを見て貰った方が話が早いだろう」


 そう言ってエルと呼ばれた少女が視線を向けたのはミハエルが手に持っていた、昨今の型にしてはやや厚く見えるスマートフォン型の情報端末。そしてその少女は僕の目の前でその中へと吸い込まれるように消えたんだ。


「あ…これ見て…」


 ミハエルがそう言いながら端末画面をこちらに向けるとさっきまで目の前に居た筈の白髪の少女が端末の中から、画面にあるアプリアイコンを画面の隅に避けながらにこやかな笑みを浮かべ手を振っていた。

 僕がその不思議な端末の画面に顔を近付けると、その中から少女が近付いてくる。


「そこに居て良いのか?」


「え?」


「ふふ、私は良いのだがな?」


 その声は途中から左の耳元にひそひそ声で聴こえていた。

 僕はいつの間にか傍に居た存在に変な声を上げてしまいながら振り向くと、少女は僕のに腕を回しながらいつの間にかその顎を肩に乗せていて。

 しかし彼女は腕を解いて僕から離れると再びミハエルの隣に立ち、何事も無かったようにさっきまでの話を続けていた。


「このように、モノエルとはミハエルが持つ端末とそれに搭載された『アシスト人工知能』の俗称だ。

 スマホを落としてもGPS機能によってモノエルは無事に持ち主へと届ける事ができ、料理レシピに関してもモノエル自らが調理のサポートを行う。従来通りの音声認識技術に加え、端末の操作そのものを私が担うことも可能だ。

 ふふ、モノエルはいわゆる次世代型サポート端末のプロトタイプだが…これからはミハエルの寮生活をサポートするつもりなのでミハエル共々、宜しく頼むからな?」


「ああ、宜しく…。…にしても、サポート用の人工知能って言う割にはかなり自我がハッキリした印象を受ける受け答えだね…」


「モノエルは最新の人工知能技術を統合しただけでなく、この肉体を十全に活かすことができるよう人体モデルの自己学習を行っているのだ。

 人体モデルという物はつまるところ、私には元となった『人格』があるのだよ。故にこの端末は開発者のそれぞれから名前を貰い、モノエルという俗称が名付けられている」


「うん…ミハエルもよく似てると思う。本物と変わらない、かも…」


 人工知能技術、それはこの特異世界ソフォル・ルエルでも大きな役割を担っている。

 特にこのソフォル・ルエルは様々な宇宙間の中継港として様々な形状の宇宙船が停泊する事で有名な場所でもあるが、毎日数千~数万隻の宇宙船が出入りするこの場所の管理を行っているのが特別な人工知能だといった噂が流れている。


 が、もちろん僕に真偽を確認する術は無い。あくまでもその噂はこの場所が持つ人工知能技術の高さを示すと同時に、それだけ多くの宇宙企業が何社もソフォル・ルエルに存在している事実からある事ないこと言われているだけに過ぎない訳だ。


「そうだレシュノラ君、君のことを聖女様が探していたぞ」


「……。一応理由だけは聴くけど、なんで?」


「ふふ、どうやらミハエルの歓迎会をしたいそうだ、早めに彼女のもとに行ってあげるのが吉だろう。ミハエルの入寮手続きは私から大司教に伝えておくゆえ、彼女のエスコートも任せて良いだろうか?」


 本当に、僕には目の前に居る白髪の少女は自我を持った人としか思えない会話だった。少女は大司教の居る部屋の扉に手を掛けた去り際、上半身だけを振り返らせると小さく手を振りながら部屋に入って行ったし…。


「アレ、本当に人工知能なんだよな?」


「…うーん、たぶん……?」


 僕がそうミハエルに問い掛けても、返ってくるのはそんな曖昧な返事だけだった。

 ミハエルの歓迎会…確かにエリーのやりそうな事だけど、ミハエルが来たのは気の遠くなるような昨日だった事を思い返しながら僕はすっかり隣に居ても違和感の無くなった銀翼の少女を連れてエリーの部屋へと向かう事にした。


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不味い、裏切り者なんだがクール火属性な神罰天使が降って来た。【一章完結済】【青天のドラゴニック X マキナ】 あいいろ ののめ @aiiro_nonome_2013

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