醜悪のモンスター
無価値
族長会議
モンスターの支配する森
「これまずいぞ!」
「もっと急がないと!」
豊かな自然が支配する大森林、静寂な雰囲気の中慌ただしくこちらに向かってくるシルエットが二つ、一つはたくましく大柄なもの、また一つは前者程とはいかないまでも中々の巨体。
「あぁ、やっと来たか...この先が思いやられるわ。皆すまない...」
二つの影が向かう先、五人の人物が巨大な大樹の前に横並びになり二人を待ち侘びているなか一人の男が深刻そうに謝罪する。
「ブワッハッハッハッ!!構わん!構わん!モンスターたるものよく食べ、よく戦い、よく眠るものだ!!」
豪快な勢いで喋る男がそんな男の謝罪が生んだ張り詰めた空気を払いのける。
「本当にすみませんでした!!!」
そこに響く二つの声。到着した2人のものだ。
「もう!せっかくごめんなさいが終わったのにまたなの!?」
呆れたかのように喋るのはこの暑苦しい空気には似合わない細身の女性だ。耳は横長、白い衣装に身を纏いこの中で一番若い顔立ちである。
「やっぱり時間ギリギリまでどうせ決められないんだから服装なんて気にしなくていいって言ったんだよ!」
「いやこういう場にはちゃんとした服で行かないと父さんが恥かくだろ!?」
二人はその場に着くやいなや口論を始めてしまう。
「もうやめないか!!!」
我慢の限界だと言わんばかりに先程の謝罪の姿勢とは打って変わって男は叫ぶ
「!!!?」
二人はピシッと直りその場でやっと落ち着く。
「先ほどからの無礼をどうか許してくれ。これが俺の息子のグルタと娘のライカだ。」
「いいのよブンドル全然謝らなくて、ところでグルタ君...その服装は....?」
耳長の女性がグルタに慎重に気を使うかのように聞く。
「はい!え〜と...」
女性がそう聞くのも無理もなくグルタの服装はビチビチに張り詰めたスーツ、頭にはシルクハットというなんとも体格には合わないものばかりだからだ。
「そうだわ!自己紹介がまだよね!私はエルフ族の族長やってるリリシュカよ!もう族長始めて50年ぐらいかしらね。あっ、ちなみにだけど年齢聞くのはだめよ。面白半分で聞いてきたらただじゃおかな...」
グルタの緊張をよそに自己紹介を始めたリリシュカ
「ったく...まぁ説教は後回しだ。そうだなまずは族長紹介をしよう。」
気持ちを切り替え二人の親であるブンドルは話を切り出す。
「今ここにいる私たち五人がこのカイスの大森林を治めている族長たちだ。」
「え、五人ですか?」
グルタが不思議そうに聞くのも無理もない。なぜならそこにならぶ五人のなかには巨大な岩が置いてあるからだ。
「あー、これはだな。おい!起きてくれ!」
ブンドルが握り拳で岩を殴ると岩は命を吹き込まれたかのように動き出す。
「なんだぁ?もう時間かぁ?」
あっという間に人型の岩の形になり穏やかな口調で岩は喋り出す。
「ガザン紹介が遅れた。こいつが俺の息子のグルタと娘のライカだ初日から遅刻する問題児達だがよろしく頼む。」
どうやらこの動く岩はガザンというらしい。そんなガザンに呆気に取られている二人に代わりブンドルが挨拶をすませる。
「なーんも気にすることないよ。オラは待つのきらいじゃあないから...それにしても二人ともお父さんに似ておおきいんだなぁ...これからよろしくねぇ」
そう言ってガザンは二人に手を差し伸べる。自分より巨大な存在に大きさで褒められ複雑な気分の二人だったがガザンの差し出した手に触ると岩に生えている苔が暖かくガザンの穏やかさを表しているかのようだった。
「ガザンはゴーレム族の族長で大森林の警備を任せられている。こんな性格だがこの中で一番強い。くれぐれも怒らせないように。」
ブンドルの説明を聞きガザンが時間に厳しくなくてよかったと心の底から思う二人であった。
「そしてこのオレがゴブリン族族長百戦錬磨のマクトルよ!」
待ちきれんとばかりに意気揚々と名乗りをあげる男は身長こそはグルタやライカより低いものの相手との目線を決して逸らさず、何者にも物怖じしないであろう雰囲気や背中の自分より大きいであろう大剣が彼を大物であると告げている。
「さっきおめぇさんたちは服装がどうこう言ってたがどれだけ着飾っても中身は一緒、なんも気にするこたぁねぇ!先輩からの最初の教えだ!」
確かにマクトルの服装は礼儀を重んじているような服装ではなくでっぷりとした腹は露出し、下半身には使い古されたであろう鎧を身につけているだけである。
「あなたがマクトルさんですか!父からあなたの武勇は聞いています!」
グルタが嬉しそうにマクトルの手を握る。
「はーん?ブンドルお前そんな俺のこと買ってくれてたのか?」
マクトルが得意そうにブンドルの方へ目を向けるとブンドルは目を背ける。
「ンンッ!グルタそんな浮かれている場合じゃないぞ、あと一人挨拶しないとな。」
わざとらしく咳払いをし最後の一人を小さく指差す。そこにはグルタとライカを睨みつけ、先ほどから一言も口にしない女がいた。しかしその女は下半身には大きな腹とそれを支える6つの足がありこの五人の中でも存在感は随一だ。
「もう!そんな睨みつけないの!ごめんねグルタ君、ライカちゃんこの子は普段暗いとこばっかいるから人前出るのは族長会議ぐらいで初めて会う二人に緊張してるのよ!」
リリシュカが咄嗟にフォローに入ってくれたがそんな説明を聞いても彼女の目は獲物を捉え決して逃がさないといわんばかりで殺気さえ感じてしまう。
「あ、あの!はじめまして!オーク族族長ブンドルの娘ライカです。今日は遅れてしまって申し訳ありません!」
ここに来てライカが勇気を振り絞りグルタの一歩前に立つ。
「....しくっ、....スだ、....ない」
何とか聞こえるその声は震えており緊張しているのは間違いなさそうだ。
「?」
ライカが返答に困っていると
「よろしく、ネリスだ、気にしてないだって!」
リリシュカが察してライカに伝える。
グルタがなぜ分かるのかと唖然に取られていると
「エルフ族は耳がよくきくからな、あの耳を見ろ実によく聞こえそうだ。それを生かしてエルフ族にはこの森の見回りをしてもらっている。」
ブンドルがグルタに解説をする。ブンドルも気が利く父親である。
ライカはリリシュカの言葉を聞くとすぐにネリスの手を握り
「さっきここに着いた時からずっとネリスさんが気になってました!大人の女性って感じの雰囲気ですごく綺麗で羨ましいです!」
「!?」
まさか褒められると思ってなかったのか顔を赤らめネリスはライカから目を背けてしまう。
「あらあら、ネリスー?ずいぶんと気に入られたのね?ところでライカちゃん私だって大人の雰囲気あると思うんだけど?私ネリスより年上だしなんならこの中で一番....あっ、」
「ブワッハッハッハッ!!勝手に自爆した奴はほっといてここら辺で族長会議始めようぜ!」
やってしまったと言う顔をするリリシュカをよそにマクトルがそう告げると
「うむ、そうだな皆用意を!」
ブンドルの合図とともに五人の族長は大樹に手を添える。すると大樹が五人の意思に共鳴するかのように動き出し、辺りが振動する。
「なんだ!?」
「キャッ!」
二人が慄いているのも束の間五人の族長と二人がいた地面から木のツタでできた床が出現し上昇し始める。
「これより族長会議を始める!」
醜悪のモンスター 無価値 @mukati
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