第10話

犯人の抵抗

 ダクティーがエントランスに向かっている最中、もう一人の探偵助手であるジニアは捜査線上に浮上してきたダルを問い詰めるべく、屋上の部屋へ来ていた。


 彼女は部屋に入るべく、片方の手に持ち物をすべて集め、もう片方の空いた手でドアをノックした。


 「すいません、私です、ジニアです。ただいま戻りました。」


 しばらくして、中から鍵の外れる音がすると、開いた扉からバルカン探偵が姿を現した。


 「おお、ジニア君、待っとったよ」


 バルカンはジニアを部屋の中へ入れると、ダクティーがいないことについて聞いた。


 「彼は今どこに」


 「さあ、ただ何か気になることがあると言って、まだ調べてます」


 ジニアは続けて答えた。


「まあ先に尋問してても大丈夫みたいなので、すぐにでも始めましょう」


「というと、何か決定的な証拠が見つかったということかね」

 

 頷く助手の様子を見たバルカンは、さっそく収穫について聞き始めた。


 「なんと、ずいぶん飛躍したアイデア、だが証拠がある以上相手も言い逃れできないだろう、」


 近くにいた兵士へ声をかけると、バルカンはさっそく容疑者へ尋問する準備にかかった。

 

 声をかけられた兵士たちは、1人が部屋を出ていき、残りは入り口を固め始めた。おそらく犯人に逃げられないように、守りを固めているのだろうと、ジニアは考えた。


 そしてダルを捕らえるための尋問が始まった。


 「俺が、犯人だと、人を馬鹿にするのもいいかげんにしろ」


 激高する容疑者に、ジニアは冷静に証拠を突き付けていく。


 衝立のネジを取り、破壊せず動かすことで侵入できることや、その実行した魔法の痕跡、その場に居たものは追い詰められたダルが自白するだろうと確信していた。


 「ネジについても、貴方が購入した履歴を店から調べてもらうことができるのよ、もちろんパルルさんが買っていない証拠もね」


 ジニアは少しづつ追い詰めていった、つもりであった。


 「へへっ、こうなったら仕方ねえ」


 ダルのつぶやきに、ジニアは顔を引きつらせた。


 「な、何笑ってんのよ」


 「いやね、本当は来てから言おうと思ってたんですけど」


 ダルは追い詰められてなどいなかった。


 「俺にはまだあるんですよ、アリバイが、正確には証人かな」


 ダルの言葉に、ジニアは凍り付いた。


 「あなた、何を言って……」


 「アンサーさん、被害者の方が殺された場所は分からない、さっき探偵さんはそう言いましたね」


 「確かにそうです、言いました」


 バルカンが答えた。


 「じゃあ誰が殺したかと考えたとき、部屋に死体を持ち込んだもの、その人が怪しいとも言った」


 「けれど監視水晶が使用不可だった、なので次に考えられることは1つ、暗幕を張った者が犯人に近いと」


 バルカンは犯人からの言葉に補足を加えた。


 「そう、そうだとも、つまり元をたどれば犯人は部屋に死体を持ち込むことが可能なもの」

 

 バルカンは冷静にダルへ言い放った。


 「つまり、何が言いたい」

 

 「結論から言おう、俺は死体が格納魔法から解放された時間、自室にいた事を証明できる者がいる」


 ちょうどその時、1人の兵士が部屋に入ってきた。


 「探偵殿、自らを証人と名乗る者がおります、どうしましょう」


 「なるほど、通してくれ」


 兵士は扉を開けて、1人の男を部屋の中へ入れた。


「おい、遅えぞ」


「す、すいません、少し引き止められてて……」


 ダルが罵声を浴びせると、男は申し訳なさそうに詫びた。


「まあいい、探偵さん、コイツが証人だ」


 ダルは話を始めた、何でも事件当日、この男性が宅配をダルのいる部屋に届けたという。


「ええ、確かに、私が4の12号室にピザを届けたのはこの方です」


「物的証拠はありますか?」


「ええと、領収書があります、はい、この方にサインしていただきました」


 配達員はそういうと、1枚の書類を取り出し、探偵に渡した。


「うん、これは本物だ、ということはダルさんは部屋に居たことが証明された……」


 ジニアは放心状態だった。もはや思考を完全に放棄してしまっていた。


「はっ、冤罪かけやがって、後でちゃんと謝罪してもらうからな」


 この場に居た誰もが、ダルの無実を認めていた、その時だった。


「その必要は無い、貴方が犯人だからな」


 開いた扉の前に立ったダクティーは、そう言い放った。

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