第9話 トリックを暴け

「部屋に乗り込むか、でも衝立を登ったりしたらすぐに分かるんじゃあ……」


 ダクティーは疑問の声をあげた。


「ふふふ、実は登ったりしなくても部屋に入り込む方法があるのよ」


「登らずに部屋へ入り込む……」


 ジニアは杖を片手で回しながら説明を続けた。


「犯人はまず、幻影魔法でベランダにいるように見せかけて、実は下に屈んでいたのよ、映像から見えないようにね」


「なるほど、屈むところを見られないために魔法を使ったのか」


「まあそうね、魔法を使うことでそっちに気を取られるようにしたんだと思うわ」


 説明を続けながら、再び衝立の方に視線を移した。


「そして屈んでネジを外したのよ、ドライバーが何かを使ってね」


 そう言って彼女はすぐに立ち上がった。


「この後、向かい側のネジを1本破壊することで、トリックは完成する」


 彼女の考えるトリックはこうだった、衝立には4本のネジが付いていて、完全に固定されている。しかし、もしそのネジが3本外れ、1本だけになったら、衝立は動かすことができる。


 ネジが1本になった衝立は、1つのネジを支点にすることで、まるで扉のように動かすことが可能になる。

 

このトリックを使い、隙間を通ることで、隣のパルルの部屋へ侵入した。


「こ、これはすごい、でも証拠はどうする気ですか?」


 これが本当なら侵入するはできる、しかし肝心の証拠がなければ告発できない、とダクティーは考えていた。

 

「証拠はあるわ、しかも2つもね」


「なんですか、一体それは」


「そこでこの画像が出てくるの」


 ジニアは画像に指を差しながらこう指摘した。


 「パルルさんの部屋ではネジが一本だけ柄が違った原因、それは犯人がネジを破壊した後、自分の部屋のネジと同じものを当てはめてしまったのよ、多分部屋ごとにネジが変えてあることに気が付かなかったんだわ」


 「そ、そうか、壁越しにネジを魔法で破壊したのなら、ネジの種類まで確認しようがない」


 (もしネジの種類が異なることを知らなければ、合わせるネジは自分の部屋と同じものを使うはず)


 ダクティーの中で点と点が線になった瞬間であった。


 「ということは、もしかしてその証拠は……」


 ダクティーが振り向いたときには、ジニアはすでに呪文を唱え始めていた。


 「破壊魔法を唱えた痕跡が、この部屋にあることよ!」


 鑑定魔法を唱えると、衝立の下に魔法陣が浮かび上がっていた。


 「こ、これは……」


 「ビンゴよ、破壊魔法、規模的にネジや釘を破壊できるものだわ」


 2人は立ち上がり、ベランダから急いで出た。


 「さあ、行きましょう、バルカン探偵の所に」


 「わかってるわよ」


 2人は部屋を飛び出て、廊下を歩き始めた。


 「ねえ、そっちの階段よりこっちの方が近いって」


 「ああ、すいません」


 ダクティーがそれに気が付いたのは、ふとした時だった。


 「え、階段が両サイドにある……」

 

 「ああ、このマンションは左右対称な造りになっているのよ」


 左右対称、そしてからすべての部屋の看板から出た幻影の魔法の反応。


 「すいません、ジニアさん」


 「何よ、バルカン探偵のところへ急ぎましょうよ、早く」


 ダクティーは首を振った。


 「1つ、気になることがあるんです、だから、その」


 「先に行ってろってことね」


 「はい」


 ダクティーはかなり焦っている、それを察したジニアはため息をついた。


 「はあ、仕方ない、私が先に伝えておくわよ。でも後から逮捕の瞬間に立ち会えなくて後悔しても遅いからね」


 「ありがとうございます」


 ダクティーは気が付かないうちに、口元を緩めていた。


(おそらくダルが犯人で間違いない、だがあそこまで手の込んだ犯罪をするような奴がこれで終わるとは思えない、それに……)


 監視水晶の方を見た。


(この暗幕に理由がないとは思えない)


 ダクティーは頭をフル回転させ考えた、さっきもベランダに幻影の魔法をダミーとして張っていた。これが奴の癖だとすると、おそらくこれもダミーで、他のトリックがある。そう考えるとこのマンションの配置、看板だけ変化させた理由、間違いない。


 考えをまとめるとダクティーは歩き始めた。


(向かうはエントランス、そこにきっといるはずなんだ、証人が!)


 

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