第8話 ひらめき

 尋問が終わったのちに、2人の助手たちはダルの部屋を捜査すべく、足を早めていた。


「あの、結局怪しいのはダルさんだけ、本当にそうなんでしょうか」


 ダクティーはジニアに疑問を投げかけた。


「さあ、分からないわよ、まだ怪しいナングマンの尋問をやっている最中だろうし、バルカンさんを待つしかないわ」


「うーん、確かに断定はできないか……」


 2人は目的のフロアに到着し、予定通り捜査を始めた。


 「あっ、この部屋は聞いていた通りパルル氏の部屋と造りが似ていますね」


「その通りだわ、そうね」


 ダクティーは部屋を見渡すと、1つの違和感に気が付いた。


「カーテンの色、この部屋の、映像で見たのと違いますよ」


 そう言われ、ジニアもカーテンを見た。


「本当じゃん、よく気が付いたわね」


「いえいえ、偶然ですよ」


「うーん、あなたの観察力、相変わらず凄いわね」


 ジニアはそう言うとベランダの方に目線を移した。


「でもね、観察力が凄いのはあなただけじゃあないのよ」


「は、はあ」


 ベランダは青々とした空の下にあるが、日の光が入ってこない設計になっているらしく、影が差している。


「私、さっきパルルさんの部屋を見た時、すごいこと気がついちゃったの」


「え、凄いことですか?」


 ジニアは得意げに微笑みながら口を開いた。


「とりあえず、ベランダにゴーよ」


 そう言ってベランダの戸を開いたジニアは、自らの発見を確認するべく、足を踏み入れた。


「おっ、あったわ」


 そう言うとジニアは部屋同士の間にある衝立の下へ屈んで、肩にかけた赤いマントを地面につけたまま、説明を始めた。


「ここのネジ、星柄の装飾がついてるのよ、見える?」


 そう言われてダクティーも見てみると、確かにネジに星の模様が彫ってあることが分かった。


「確かに、言われるまで気づかなかった」


 ダクティーは彼女の方へ視線を移す。


「え、でもこれが何かの証拠になるんですか?」


「なるんだね、それが」


 ジニアは自身のマントの内ポケットから杖を取り出し、呪文を唱え始めた。


「魔法鑑定でもやるつもりですか、部屋の中は確かにやりましたが、反応はゼロでしたよ、ベランダもひょっとしたら」


「バカ、違うわよ、見てなさい」


 ジニアは杖をそのまま横に動かすと、長方形のような画像を目の前に出してみせた。


「ふふん、これが私の得意魔法の1つ、映像魔法よ」


 ジニアは自身の特技の説明を始めた。


「これは自分が見たことのあるもの、イメージできるものを映し出すことができるのよ」


「すげぇ、かなりのレア魔法じゃないですか、こんな魔法どこで――」


 ダクティーは言いかけたが、自分の感情をその場で押し殺した。


「いえ、気になりますが、今は捜査をしないと」


「そう、まあ暇な時に教えてあげるわよ、1年はいるけど」


「い、1年か」


 ジニアは咳払いをし、説明再開した。


「とにかくこの画像を見て欲しいのよ、見えるでしょ、この4本のネジが」


「本当だ、これはどこかのベランダ、ひょっとしてパルルさんの……」


「そうよ、彼女の部屋のベランダ、そしてこのネジ、柄が違うでしょ」


 ジニアは映像をズームしてみせた。


「ふーむ、月の柄が彫られていますね、部屋ごとに違うのかなあ」


「さっきの尋問してる時、実は管理人さんに聞いてきたのよ、ネジについてね、その通りだったわ」


 ジニアは拡大した画像をそのまま杖でスクロールし始めた。


「だとすればおかしいのはここよ、ここ」


「こ、これは……」


「そう、ここだけ星柄の模様のネジになっているわ、他の3本は月なのに」


 ジニアは杖をペンのように、器用に回しながら解説を続けた。


「ここからは私の推理となってしまうけれど、おそらくこのネジは、犯人が取り付けたものよ、後からね」


「な、何故ですか?」


「侵入するためよ、ベランダ伝いにね」


 

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