第7話 尋問の時間
ジニアは階段を駆け上がって、先に部屋を出た2人に追いついた。
「お待たせ」
「ジニアさん、あなた階段を駆け上がったのに息が上がってないですね」
ダクティーの言う通り、彼女は息が上がるどころか、少しも疲れた素振りを見せていなかった。
「まあこれくらいなら大したことないでしょ」
「大したことって、4階から屋上の7階までダッシュしたのにすごいですね」
肩にかかっていた髪を後ろにかきあげると、誇らしげに口を開けた。
「まあね、これでも魔術官だから」
「やはり魔術官はすごいですね、私も昔は憧れていたのですが……」
ダクティーは少し俯いた。
「その感じだと、あなた、体力面が足りなかったんでしょ」
ジニアは続けた。
「最近だと片方優れているよりも、両方できることが求められるから、単純な努力じゃあどうにもならないのよね」
そんな話をしているうちに、3人は容疑者達の集まっている管理人室の前に着いた。
その部屋は屋上にあり、一度階段で上がってから、そこを通っていかなければ入れないようになっている。
「失礼します、探偵のバルカンです」
そう言いながらノックして扉を開けると、そこには見張りの衛兵たち数人が、ソファーに腰かけた容疑者たちを囲んでいた。
「ようこそお越しくださいました、探偵殿」
衛兵の後ろから管理人と思わしき人物が現れた。
「私は管理人のアルタでございます」
管理人が名乗って頭を下げると、バルカンも挨拶をした。
「レッドフィールド探偵事務所から参りました、探偵のバルカンです、よろしく」
バルカンは手を出して握手をした。
「それで、こちらに座っておられるのが」
「ええ、あなた方に集めて欲しいと言われた方々です」
バルカン達は奥に座っている三人の方を見た。
「確かにこの人たちですね」
振り返って、助手2人に声をかけた。
「2人とも、これから隣の部屋で取り調べを行う、このボードを持って先に行ってくれ」
ジニアはボードを受け取ると、仕切りで区切られた部屋に移った。
「さて、ではまず初めに」
バルカンはダルの前に立って声をかけた。
「ダルさん、貴方から取り調べを始めます」
「ああ、容疑者はこの人じゃないのかよ」
ダルは悪態をつきながら返事をした。
「我々はあなたに1つ聞きたいことがあります、それさえ済ませるば、貴方にかかっている容疑はすべて無くなりますよ」
「けっ、その代わりその容疑とやらが無くなったら帰っていいんだよな」
「はい、構いません」
ダルが立ち上がり部屋に向かうのを見て、バルカンも部屋に向かった。
普段は談話室として使われている部屋で、2つのソファーの間には机があり、壁には絵画が飾られていてとても取り調べをするような雰囲気ではなかった。
容疑者は部屋へ入りソファーに腰を掛けると、目の前に座った探偵へ声をかけた。
「それで、俺に聞きたいことって何なんだよ」
「ダルさん、実はあなたには実質的に容疑がかかっていません」
「はぁ?」
探偵の発言に、ダルは開いた口が塞がらなかった。
「正直に言って、あなたは被害者であるアンサー氏とトラブルがあっただけで、アリバイもあるため犯人である可能性が極めて低いのです」
「ふざけるなよ、じゃあなぜ容疑などと……」
「問題はそのアリバイにあるのです」
バルカンは後ろにいるジニアから資料を受け取った。
「こちらの映像をご覧ください」
探偵は映像が流れている資料を目の前に出して見せた。
「これは……」
「こちらはこのマンションのベランダ側から撮られた映像です」
この映像には事件当時のマンションをベランダから監視した映像が記録されていて、この映像があることで、事件でダルにアリバイがあることを証明できていた。
「こちらの映像をよくご覧になってください、この映像はあなたが魔法でアリバイを偽造している可能性を示すものです」
「アリバイを偽造だと?」
「ええ、この証拠には不自然な点がいくつかあります」
探偵は目の前の証拠品に指を差した。
「これを見ると、あなたはベランダに出て窓は網戸で閉じられています、そして奥にはカーテンがかかっています、けれどこのカーテンは微塵も動いていない」
「そりゃ、風がなければ揺れないだろ」
「この日は特に強風だったと王国の気象天文台が記録しています、その証拠に他の部屋でカーテンをかけていた部屋は激しく吹かれている」
ダルは固唾を呑んだ。
「さらにあなたは本を読んでいるが、一切瞬きをしていない」
探偵は追い詰めるように続けた。
「我々はあなたが幻影の魔法を使った可能性を疑っている」
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