第6話 壁の突破

 3人は容疑者であるパルルの部屋を調べるべく、4の11号室へ突入した。


「ここから透明化を使って水晶の元まで行き、暗幕を張って監視を封じたのね」


 監視水晶に残された映像には、この部屋の扉が勝手に開き、扉が閉まる前に暗幕が張られて映像は見えなくなっていた。


「犯人が誰であれ、この部屋から透明化を使ったのには間違いないですね」


 ダクティーはそう言いながら部屋全体を見渡す。


 部屋はよくある1LDKになっており、食事用のテーブルと椅子がキッチンの近くに、テレビとソファーが向かい合うようになっており、その間にベランダへ向かう窓があった。


「よく整頓されていますね」


「きっと綺麗好きなんだろう、その証拠に埃がない」


 3人は部屋を見渡した。


「あまり死角となる物がないわね」


 ジニアはそう指摘する。


「じゃあ、もし誰か侵入してきたら分かるんじゃあ」


「この部屋はパルルが入室してから誰も出入りしていない、つまり仮に容疑者以外がこの部屋へ侵入したら発見される可能性があるわけだな」


 バルカンの言葉を聞きながら、ジニアは頭を働かせた。透明化がここで使われているので、事前に使ってから侵入した場合魔法は不発に終わり、痕跡が残らない。故に外部の人間が侵入してパルルに罪を着せようとするのは困難、そう考えていた。


(もしこの部屋の様子を知ることができれば、しかしどうやって?)


 頭を悩ませているその時だった。


「この部屋はベランダがあるんですね」


 ダクティーはそう言って窓からベランダへ出た。


「ああ、そこから侵入したと考えているのなら無理だ」


 バルカンも部屋から出て説明を始めた。


 このマンションのベランダは部屋同士が繋がっているものの、衝立で区切られて入れないようになっており、壁を伝って侵入できないようにネズミ返しがついている。緊急時には衝立のH字のようになっている足からネジをとって避難できるようになっているが、隣の部屋からもネジを取らなければならず、完全にプライバシーは保護されている。


「もっとも、魔法を使って衝立を壊されたらお終いだね」


「隣の部屋……」


 ダクティーの頭に光明が射す。


「この隣の部屋って、どうなっています?」


「そういえばこの部屋、被害者とトラブルがあったダル氏とナングマン氏の部屋の隣だな」


 2人が何を考えているのか察し、バルカンは慌てて口を開いた。

 

「いやいや、でも怪しいと言っても部屋の捜査は疑いが無ければできないよ」


「はあ、じゃあ今のところ彼らについて分かることは、ベランダからの映像くらいですか」


 ダクティーは部屋に戻って資料を手に取った。


 この資料は一枚の紙でできていて、紙をスクロールすることで、次の文字が読め、さらに画像をタップすることで映像が再生できるという優れたものだった。


 その機能を使い、ダクティーはベランダ側から録画されたという映像を見始めた。


 (何か怪しいところは……)


 一方でジニアは、パルルの部屋のベランダを色々と調べていた。


「このベランダからは魔法が検出できなかった、けれど使用者がここで使わなかっただけで、ひょっとしたら形跡が見つかるかも」


 ジニアはベランダに置いてある植木鉢を持ち上げて、痕跡がないか調べている。


 そんな2人を見て、バルカンは脱帽した。


「君達は熱心だね、でも痕跡なんて滅多に見つからないんじゃ……」


 そう口を開いたその時だった。


「見つけた!」


 ダクティーはそう言い放った。


「なんだって」


 バルカンはダクティーの方へ駆け寄った。


「ほらここ、ダルの部屋の所の窓が」


 ダクティーは指を指しながら、バルカンに見せた。


「これは、これなら尋問できるぞ」


 バルカンは颯爽と立ち上がると、ジニアに呼びかけた。


「ジニア君、今すぐ容疑者達の取り調べに行くぞ」


「ええ、分かりました」



 焦るバルカンの指示を聞きながら、ジニアは衝立のネジを見ていた。


(この部屋、衝立のネジの装飾がしてあるけど、1つだけ装飾が違う……)


 そう考えている間に、バルカンとダクティーは部屋から出始めていた。


 (やばっ、早く行かないと)


 急いで玄関まで行き、靴を履いて部屋から出た。


 


 

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