第5話 ジー二アス
「ここね、今回の現場は」
事件現場であるマンションに向かい、歩く人影が2つあった。
「そうだジニア君、ここが今回所長から命じられた仕事場のようだね」
少女の問いかけに、隣を歩く大男が答えた。
事件現場に向かってくる2人に対して、衛兵が呼びかけた。
「すいません、ここら一帯は捜査のため……」
「知ってるわよ、だから私たち探偵が来たの、事前に伝えてあるはずよ」
「ええと」
衛兵は少女の返答に困惑した声しか出せなかった。
「すまん、ワシらは探偵でして」
そう言うと大男は緑のロングコートの内ポケットから、探偵である証明書を取り出した。
「レッドフィールド探偵事務所から来ました、探偵のバルカンです」
衛兵はそれを見て、すぐに中へ通した。
「分かりました、どうぞお入りください」
2人は探偵であった、正確には1人は見習いなのだが、その少女が羽織る紅のマントからはただ者でない事が分かった。
「ジニア君、まず証明書を見せてだね」
「失礼、てっきり言えば分かるかと」
バルカンが軽く態度に咎めても、ジニアは特に何も気にしていなかった。
「まあええか、現場に行こう」
2人が中へ入ると、そこには衛兵隊の隊長が待っていた。
「お待ちしていました、バルカン殿、これで全員ですかな?」
隊長が尋ねると、バルカンは首を横に振った。
「いえ、もう1人後からここに来ます」
「そうですか、では先に資料の方を」
隊長は手に持っているさっきまで見ていた資料をバルカンに渡した。
「ほう、これは」
バルカンは資料を一読すると、ジニアに渡した。
「容疑者はいるのに、被害者との接点がないと……」
「確かに変ですね」
調べるべきはパルルだけではない、2人はそう考えていた。
「失礼します、バルカン探偵ですか?」
現場が静まる中、現場にダクティーが到着した。
「お待たせいたしました、今回からご一緒に探偵をするダクティーです」
バルカン近くにあった資料を手に取り、ダクティの方へ歩み寄った。
「やあダクティー君、間髪入れずに仕事で申し訳ない」
「いえいえ、お気になさらず」
バルカンが申し訳なさそうに言うと、ダクティーは微笑んで返した。
「私はダクティー、今日からお仕事を共にさせていただきます、よろしくお願いします」
「よろしくダクティ君、私は探偵のバルカン、奥にいるのが……」
「ジニアよ、せいぜい足を引っ張らないで」
バルカンに名前を呼ばれるより先に、ジニアはダクティーに名乗った。
「ジニア君、喧嘩腰はやめたまえ」
「大丈夫ですよ、よろしくお願いします」
バルカンは窘めたが、ダクティーは全く気にしていなかった、その代わり、彼女の格好に気をとられていた。
(彼女の羽織っている赤いマント、そして青い髪が肩にかかっていて見えにくいが、あのスカーフはもしや)
「君はひょっとして……」
ダクティーが言いかけたその時、タイミング悪くバルカンが遮るように口を開いた。
「ダクティー君、これが今回の事件についての資料だ」
「あ、はい」
ダクティーは手渡された資料を受け取ると、さっそく目を通した。
「我々は現場を調べるため、3つ上のフロアに上がっている、君もこの資料に目を通したら来てくれ、ただし気になるようなことがあればそっちを優先して構わない」
「分かりました」
ダクティーは持っている資料から顔を上げて返事をした。
「バルカンさん、早く行きましょ」
ジニアが急かすと、バルカンは軽く会釈をして取り調べに向かった。
(彼女が部長の言っていた新人の魔術官か、しかもあのスカーフはアルーマ校から配られるものだ)
ダクティーは自身の学校での情景を思い出していた。
(いや、今はそれよりも……)
ダクティーは資料に目を通し始めた。
(なるほど、この2人はアリバイがあるのに怪しいのか……)
資料のアリバイについて書かれている項目を見て、ダクティーは考え込んでいた。
(ダル氏は部屋で友人と会っていた、ナングマン氏は電話がかかってきていて、それに出たのか)
途中、ダクティーはあることに気が付いた。
(この廊下、部屋の配置、この魔法はもしや……)
一方、ジニアとバルカンは関係者を集めたフロアへと向かっていた。
「これから取り調べるのは容疑者であるパルル氏、それからアンサー氏と関係のあったダル氏とナングマン氏だ」
「他の住民は調べないんですか?」
「今のところ、候補としてはその3人だけだ、この先怪しい人物がいた時にはその人も調べる」
話しているうちに、2人は事件現場に着いた。
「やはり現場は自分の目で見なくてはな」
そう言うとバルカンはすぐに魔法鑑定を発動した。
「解!」
バルカンが唱えると、廊下にある何号室かを示す看板から魔法陣が出ていた。
「報告通りだ、看板に幻影魔法が使われている」
そして、例の水晶からも魔法陣が出ていた。
「暗幕の魔法、これも報告通りですね」
2人は水晶に暗幕をかけた理由は理解できたが、何故看板に魔法をかけたのかは分からなかった。
「次だ」
鑑定が終わると、2人は廊下を歩いて、ある部屋に向かった。
このマンションは長い1本の廊下の両端に階段がついており、階段がある西側から4の1、4の2と並んでおり、全体で4の12まで左右対称に繋がっていた。
2人が最初にむかったのは、事件が起こったとされる4の2号室であった。
「ここが被害者であるアンサー氏の住んでいた部屋か」
「そういえば、アンサー氏は行方不明になったあとこの部屋へどうやって戻ってきたのでしょうか、やはり暗幕を張った後で部屋に戻ってから殺害されたのですかね」
「ああ、それなら」
バルカンは答えた。
「この部屋になんでも変わった魔法の痕跡が見られた、そう報告書には書いてあった」
「変わった魔法……」
「これから解析してみる」
バルカンは部屋へ入るべく扉に手をかけた。
「開けるよ」
そう言って扉を開けると、2人はスリッパに履き替え、4の2号室へ入った。
「この辺りか」
バルカンはそう言って容疑者の遺体があったところに立ち、魔法鑑定を行うと、目の前に魔法人が1つだけ現れた。
「これは……」
バルカンは絶句した。
「収納魔法、あらゆる物の厚さをなくし、カバンなどに収納するための魔法」
「犯人はそれで遺体を運んだということですか、だとしたら……」
「暗幕が張られる前に殺された可能性が出てくる」
バルカンは確信した、パルルは犯人ではないということを。
(収納魔法はかなり高度な魔法、パルル氏が使える可能性は少ない、それに殺害だけならダル氏とナングマン氏のアリバイは通用しなくなった)
「ジニア君」
「言わなくても分かります」
ジニアは扉に手をかけた。
「行きましょう、4の11号室へ」
2人が部屋を出ると、そこにはダクティーが待っていた。
「お待たせしました、気づいたことがあります」
ダクティーが言いかけると、ジニアがそれを制した。
「悪いけど、あとで聞くわ、調べたいことがあるの」
今度のジニアは態度が上からではなく、純粋に急いでいるように見えたので、ダクティーは口を閉じた。
「分かりました」
「11号室に向かいましょう」
3人は11号室に向かい、扉を開けて中に入った。
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