第4話 アリバイ2つ、容疑者1人


 王都バルドニア、ここは日が沈まぬ都と謳われており、街には交易を行う行商人や店を営む市民たちで溢れていた。


 街は水路が張り巡らされており、上下水道が存在する世界有数の都市であるが、その一方で人の多さ故に揉め事が途絶えず、暴動が起こることも少なくなかった。


 そこで時の王はある2つの政策を行った。


 1つは窃盗などの個人による犯罪を取り締まるべく、人手の足りない衛兵隊に代わり、犯罪を取り締まる組織を公に認め、探偵団を誕生させたことだった。


 もう1つは国家転覆など、組織規模による犯罪を取り締まるべく、優秀な魔法使いを特権階級に置き、他国や犯罪組織の武力行使に睨みを利かせる制度で後の魔術官制度である。


 これらの政策により、王都の治安は良くなる、はずだった。


「これはひどい、なんてことだ」


 現場にいた衛兵の中の1人がそう呟いた。


 マンションの一室に、男の遺体が坐禅の格好をして、白目を剥いて頭から血を流していた。


 マンションの辺りは野次馬が集まっており、衛兵隊はそれらを追い払っていた。


「衛兵隊は人手不足だってのに、そんなに暇なら手伝ってくれねぇかな」


 隊員は愚痴をこぼした。


 衛兵達は市民の通報を受け、郊外にあるLNNマンションに訪れていた。


「死亡したのはこのマンションに住む、30代の男性で、仕事は探偵だそうです」


 衛兵の1人が自分達の隊長にそう報告していた。


「探偵か……」


 隊長は顎髭をいじりながら、そう呟いた。


「昨日の17時頃より行方が分からなくなっていたそうですが、今日の8時にハウスキーパーであるペアン氏が仕事のため訪問したところ、死体で発見されたそうです」


「事件が起こった際の概要については調べられたか?」


「はい、こちらの資料に」


 隊員から渡された紙を見て、隊長は頷いた。


「ご苦労、後の詳しいことは探偵に任せる」


「探偵にですか」


 隊長の言葉に隊員が答えた。


「ああ、最近の探偵は優秀なのが多いから、俺たち衛兵隊は通報を彼らの元へ届けるだけで済む」


 隊長は頭を掻きながらそう答えた。


「それに、もう容疑者は割れてる」


「はい、状況証拠で同じマンションに住むパルル氏に容疑がかかっております」


 衛兵隊がパルルを疑うのには理由があった。


 このマンションではいつもは廊下にある監視水晶にて、廊下の様子を随時録画している。


 しかし、昨日の17時半より監視水晶に暗幕の魔法が張られていて、今朝の7時まで様子が確認できなかった。


 そこで直前の録画を見てみると、パルルの部屋の扉が勝手に開き、その次の瞬間に暗幕が張られたのだった。


 そのことをパルルに問い詰めたところ、知らないと答え、そこでパルルの部屋で魔法鑑定を行ったところ、なんと部屋の中で透明化の魔法を使った痕跡が確認された。


 その事が決め手となり、パルルは身柄を一時拘束されていた。


「ずいぶんと簡単な事件でしたね」


「ああ、念の為にベランダ側を録画している監視水晶があったんだが、どうやら使う必要はなさそうだな」


「パルル氏はベランダ側に水晶がある事に驚いていましたね」


 隊長は苦笑いを浮かべながら、口を開いた。


「まさか住民に水晶をある事を知らせていないなんて、先の時代になったら文句を言われそうだな」


 衛兵隊は映像を見て、アンサーの隣に住んでいるジェイクや、パルルの部屋の隣に住んでいるナングマンとダルにアリバイがある事が分かり、同時に壁をつたってアンサーの部屋に侵入した者がいないことを確認した。


「ここまで調べれば、探偵が来なくとも事件は解決なんじゃないですかね」


「確かにそうだが、念のために探偵は呼んでおいて欲しい、どうも怪しい」


 隊長は自身の疑いを捨てきれずにいた。


「怪しいとは?」


「パルル氏はアンサー氏とそこまで接点はなかったそうじゃないか」


 隊長は取り調べた時の事を思い出していた。


 取り調べたとき、アンサーの名前を出されても全く動揺しなかったパルルの様子は、自身が殺したとすればおかしな反応だった。


「むしろ同じマンションで言えばダル氏やナングマン氏とはトラブルがあったそうだ」


「ええ、けれどあの2人はアリバイが……」


「確かにな、偶然か、もしくは必然か」


 衛兵隊が考える中、探偵達は現場に向かっていた。

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