第15話 仮眠と枕

さっきの1件は本当に危なかった。

わざとじゃないとはいえがっつりレベッカの裸が見えてしまったのだ。

まぁタオルで胸とかは隠れてたから水着とかと比べると露出は少ない……と思うけども。

でも裸っていう前提が頭にはあるしおまけにスライムというオプション付きである。

ドキドキ、というか心臓がバクバク鳴ってるのも仕方のないことだと思う。


「なあレベッカそろそろ休み──」


見るとレベッカは俺の肩に頭を乗っけたまま寝てしまっていた。

同じテンポで呼吸が繰り返されている。


「全く……無防備なやつだ」


でもこれから旅をしていく中で2人で寝る場所を分けるのは現実的に不可能だ。

そこは割り切ってもらうしかないのだがレベッカには相変わらず危機感がない。

我慢して寝るよりはいいんだろうがこうも信頼されても俺としては困ってしまう。


「俺だって男なんだけどな……襲われるとか考えないのかな」


もちろんレベッカを襲うつもりはない。

それはレベッカを傷つけることに他ならないし間違いなく俺達の関係はわけのわからないものになっていく。

俺が責任を取るという話になるのかもしれないがもしレベッカとそういう関係になるんだったらそんな責任の結果じゃなくて想いで繋がってからの方が良い。

それが俺なりの誠意というものだ。


「仕方ないな……」


こんなところで寝ていたら風邪を引いてしまう。

ただでさえ水浴びの時間が意図せず長くなってしまって体も冷えているだろうに。

俺はレベッカを優しく抱き上げテントまで連れて行く。


寝袋を広げレベッカに被せる。

中に入れるのは難しいので諦めたのだが何もしないよりはかけておいたほうがいいだろうという判断だ。


「さて、俺は見張りに行こうかな。……ん?」


俺が立ち上がって火の番に行こうとすると何かに引っ張られて立ち上がれなかった。

見るとレベッカの右手ががっつりと俺の服を握っていた。

剥がそうにも相当強い力で握っていて剥がせない。

俺は諦めてテントの扉を足で開きその場に座り込む。


「はぁ……本当に、仕方のないやつだな」


服を握られていたとしても服を脱げば簡単に抜け出せる話だ。

だけど俺はあえてそれをしない。

こうやってレベッカが無意識に服を握ってくるのは昔からよくあった。

そしてそれはいつも寂しかったりだとか不安を感じているとき。


今日の旅は命の危険は無かったにせよ初めて魔物と戦ったりそもそも旅をするのが初めてだったりで精神的には疲れているはずだし不安にならないはずがないのだ。

……まあスライムにくっつかれるというハプニングも影響しているのかもしれないが。

俺はレベッカの頭を優しく撫で暇つぶしに本を読み始める。


……寝ないようにしないとな。


◇◆◇


朝日が少し昇り始めた頃。

レベッカの瞳が少しずつ開かれる。


「んぅ?あれ……ライアン……?」


「起きたか。おはよう」


「なんでライアンが……?それにベッドも固いし……」


うーむ。

寝ぼけてるな。

多分旅に出ていることが完全に頭から抜け落ちている。


「今はテントの中だよ。俺達は旅に出ただろう?」


「たび……はっ!?私もしかしてあのとき寝ちゃって……!?」


『朝日が出ちゃってる……見張りは交代のはずだったのに……』


ようやく脳が少し覚醒したらしくレベッカはガバっと体を起こす。

俺は苦笑しながらレベッカを落ち着かせた。


「よっぽど疲れてたんだな。気づいてたら寝てたぞ」


「本当にごめん。で、でもどうしてライアンは私の隣に?」


『も、もしかして私のそばにいたくて……とか?だったら嬉しいなぁ』


「レベッカが俺の服を掴んでたんだよ。別に無理に移動する必要もなかったしここにいたんだ」


レベッカの視点が下がっていき自分の手のところで止まる。

その手は一晩経ったのにも関わらず俺の服を握っていた。


「ふぇ!?ご、ごめん……!」


レベッカは慌てて手を離し赤面する。

離された服にはすごいシワが付いていた。

まあおしゃれとかあんまり気にしないし旅用の動きやすい服で対したデザインでもないから別にいいんだけどな。


『こ、これじゃあ私がライアンと離れたくなかったってことじゃない……無意識でそれって私ってばどんだけライアンのこと好きなのよぅ……』


レベッカはしばらく手で顔を覆い固まっていたがいきなりガバっと顔を上げる。

そして気まずそうに口を開いた。


「あ、あのさ……も、もしかしてライアン寝てない……?」


「まあ寝てないな」


「ほ、本当にごめんなさい……ライアンだって疲れてるのに……」


「いいんだよ。俺は男なんだから」


「でも……」


『ライアンだって慣れない旅なのは変わりないよね……それに性差はあるけど私は獣人で体力もあるはずなのに……』


レベッカが明らかにしょぼくれる。

そんなに気にしなくてもいいんだけどな。


「そう気にするな。さて、朝ご飯にするか。食べて少し休憩したら出発しよう」


「そ、それはダメ!」


俺が立ち上がろうとするとレベッカに引き止められる。

どうしたんだろうと思って振り返るとレベッカは泣きそうな目をしていた。


「わ、私のせいで寝られなかったのにそんな無理はダメ……ここの魔物なら私だけでもなんとかできると思うし少し遅れちゃうけど仮眠を取ってほしいわ……」


「いや、でも……」


「私たちの旅は急ぎじゃないでしょ?それに今回のせいで体調でも崩したら私……」


しょぼんと顔を俯ける。

心の声が聞こえてこなくてもわかる。

無理して出発するのも賛成できないけど仮眠を取ればその分旅は遅れてしまう。

責任を感じやすい真面目なレベッカだからこそ自分を責めてしまうのだ。


「……わかった。じゃあ寝させてくれ」


「……!ええ。見張りはしておくからゆっくり寝てちょうだい。ほら」


そう言ってレベッカは正座して自分の太ももをぽんぽんと叩く。

……何をやらせる気だ?


「まさかとは思うが……」


「膝枕よ。寝袋はあっても枕はないし無いよりはマシかなって……」


「……遠慮しておく。それは流石にレベッカに申し訳ないし」


「……私じゃやっぱり寝心地悪いわよね……ごめん」


その言い方は卑怯じゃないだろうか。

俺は一つため息をつき、レベッカの太ももに頭をおろす。

柔らかい感触が後頭部に感じられる。


「おやすみ」


やはり疲れていたのだろう。

あっという間に意識が遠ざかっていった。


───────────────────────

更新が遅れてすみません!

これから不定期にのんびり更新していきますのでお付き合いいただければ!


今日の午前9時05分より新作を投稿しました!


タイトルは


『親友に裏切られ婚約者に捨てられた俺は好き勝手に人生楽しむことにした〜なぜかイカれた狂信者共が続々と忠誠を誓ってくるんだが〜』


https://kakuyomu.jp/works/16818093077840043595


となっております!

ラブコメではなく異世界ファンタジーを真剣に書いたのはこれが初です笑

ぜひ読んでくださると嬉しいです!

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いつも俺にだけ冷たい猫の獣人の幼馴染を間違ってテイムしたら本音が隠せなくなっちゃったらしい 砂乃一希 @brioche

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