第14話 乙女、涙(レベッカ視点)
私は川に移動して服を脱ぐ。
外で裸になるなんて恥ずかしくて周りを確認するけど月が光っているくらいで他にはなんの気配もない。
(うぅ……恥ずかしいから早く終わらせたいけど……ライアンに汗臭いって思われるのは絶対にダメ……!)
これは乙女として大切なことなのだ。
好きな人に臭いだなんて思われたらショックで立ち直れないし常に素敵だと思って欲しいものなのだ。
念入りに体をタオルで拭き始める。
(ちょっと寒いけど……結構スッキリする……)
そして体を拭くのに夢中になって気づかなかったのだ。
静かに忍び寄る気配に──
「な、何っ!?」
足に変な感触が伝わってきて恐る恐る見るとスライムが足にくっついていた。
ぬるっとした体液が足に絡みつく。
「い……いやあぁぁぁぁぁぁぁ!!!?!?!?!?!?」
足をブンブン振っても全然取れてくれない。
服を着てないわけだから溶かされることはないしダメージを負うこともないと頭ではわかってるけど嫌なものは嫌だ。
「ど、どうした!?レベッ……カ……」
おそらく悲鳴を聞きつけてやってきたのであろうライアンとばっちり目があってしまう。
今の自分の格好は全裸にスライムをくっつけているという乙女が絶対に見せてはいけない姿ナンバーワン。
顔がみるみる熱くなっていった。
「あ、ぅ……その……」
「み、見てない!何も見てないから!」
ライアンは手で目を押さえそっぽを向く。
でも恥ずかしさは消えないしスライムはくっついたままと事態は何一つとして好転してなかった。
そうこうしている間にスライムがどんどん上に上がってくる。
「と、とって……!ライアンなんとかしてぇ……!」
「な、なんとかしろって言ったって俺はそっち見れないんだけど!?」
「見なくても気配でこのスライム撃ち抜きなさいよぉ……!」
「んな無茶な!?俺のこと歴戦の猛者か何かと勘違いしてないか!?」
一刻でも早くスライムを取ってほしい。
でも裸を見られるのは恥ずかしすぎて耐えられない。
「ら、らいあん……たすけてぇ……」
「っ!わ、わかった……じゃあ目をつぶったままでいるから俺の手を引っ張って誘導してくれ……!」
ライアンは目をつぶったまま手を差し出す。
私はすがるようにその手を掴みスライムのところまで引き寄せた。
「こ、こいつだな?少し待ってろよ?少し弱めに……サンダー」
微弱な電気が流れ少しピリピリすると思っているとスライムが嫌がるように離れていった。
あれだけ取れなかったのにこんなにあっという間に取れるとは……
「あ、ありがとぉ……」
「と、取れたんだな!?それじゃあ俺はこれで失礼する!」
ライアンはピューっと走り去っていった。
私はその場でぽつんと一人取り残される。
「はぁ……もう一度洗い直そう……」
私はもう一度体を拭き始めるのだった。
◇◆◇
うぅ……気まずい……
体を拭き終え着替えもした私はテントの近くまで戻ってきていた。
でもあの1件があったせいでなんとも戻りづらい。
でも……ずっとここにいるわけにもいかないし……
「た、ただいま……」
「お、おう……おかえり……」
ライアンも気まずそうにしている。
でも私が悲鳴をあげちゃってライアンは助けに来てくれただけなんだからライアンは何も悪くない。
今回の件で悪かった人はいないんだからできるだけ気まずい雰囲気にはしたくなかった。
「そ、その……ごめんなさい。変なものを見せてしまって……」
「いや……俺は何も見てないから。肌色が目に入った瞬間すぐに目をそらしたから何も見てないよ」
ライアンは優しいから私に気を使ってくれているだけな気もする。
でも見られていたとなると恥ずかしいので私もライアンは何も見ていないと思うことにした。
「……体冷えちゃっただろ?温かいミルクを用意したけど飲むか?」
「……いる」
「ん。ほいよ」
ライアンからコップを受け取る。
そしてゆっくり飲むとほんのり温かいミルクが砂糖で少し甘くなっていて少し寒かった体が芯から温まるようだった。
それに熱いものが得意じゃない私に合わせて少し冷ましておいてくれたライアンの気遣いがとても嬉しい。
「ありがと……とってもあったかい……」
「レベッカが喜ぶかなって思ってあらかじめ家で焼いてきたクッキーもあるぞ。食うか?」
「それも欲しい……」
「おう。夜も更けてきたしほどほどにな」
ライアンから可愛いラッピングのされた袋を渡されて中を見るときつね色でしっかりと型どられたクッキーが入っていた。
パクリと一つ食べるとバターの風味が口いっぱいに広がる。
それがホットミルクととても合っていた。
「美味しい……」
「気に入ってもらえたなら何よりだよ」
ライアンは少し照れくさそうに笑う。
この男は女子力が意外と高く、油断していると私よりも高度なものを作りかねない。
(なのに……)
困ったときはいつでも駆けつけてくれる、守ってくれる。
力だって意外と筋肉が付いているし時折見せる真剣な顔はとてもカッコいい。
そんなギャップもキュンとしてしまう大好きな頼りがいのある男なのだ。
(私も……もっと素直になれたらな……)
いつからか成長するにつれライアンへの好意を自覚してどこか気恥ずかしくなって素直に接することができなくなった。
嬉しいことでもつい隠してツンツンといた態度を取ってしまう。
そんな可愛くない自分が嫌だった。
ありのままで接することができればどれだけいいだろうか。
でもそれが恥ずかしくて、自分を見せるのが怖くてできなかった。
「どうした?考え事か?」
「ん……ちょっとね」
「考えることは悪いことじゃない。それどころか良いことなんだぞ。逃げずにそのことと向き合うっていうことなのだから」
「……ふふ。そうね。そういうことにしとく」
私は隣に座るライアンの肩に頭をコテンと乗っけた。
ライアンは拒む素振りを見せない。
「そういえば……スライムって電気が苦手だったのね。初めて知ったわ」
「いや、あれはウォータースライムと言ってな。水辺付近にのみ生息するスライムの仲間で普通のスライムは別に電気に弱いわけじゃない」
ライアンは博識でなんでも知っている。
ウォータースライムなんて今まで生きてきた中で聞いたこともなかった。
でも一つ疑問が残った。
「あれ?でもライアンはどうやってスライムとウォータースライムを判別したわけ?」
「それはだな。スライムとウォータースライムでは核の形が違って……あっ……」
ライアンの言葉の意味を二人共同時に理解してしまった。
薄暗い中スライムの核の形を見極められるくらいにはやはり見られていたことが確定した。
(うぅ……恥ずかしい……)
私達は二人共真っ赤になって顔を俯けるのであった。
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通知なしの2日連続休みでこの作品はすでに出世コースを外れています。
というわけで砂乃はこれからやりたい放題書いていこうかなと!
まだまだスライムに大暴れさせてやりたい!
というわけでよかったらお付き合いくださいm(_ _)m
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