第13話 人類の英知の結晶でもわからぬ超難問
「段々日も沈み始めてきたな……そろそろ野宿の準備をするか」
沈みゆく夕日を見て俺は隣を歩くレベッカに言う。
するとレベッカは不思議そうに小さく首をかしげた。
「どうして?まだ体力も残ってるし日も沈みきってないんだから少しでも先に進んじゃったほうがいいと思うけど」
「いや、日が沈みきってから準備をするんじゃ遅いんだ。それに使い切るのはいくら街が近いからって体力を使い切るのは得策とは言えないだろう」
「な、なるほど……?それじゃああそこで今日は野宿をするのはどうかしら?」
レベッカが指を指した場所は川も程々に近く見通しのいい場所だった。
確かに野宿するのはもってこいの場所と言える。
「そうだな。それじゃあ今日はあそこで野宿するとしよう。見つけてくれてありがとう」
「ええ。これくらいは当然よ」
『やった……!これで少しはライアンの役に立てた……かな?』
表面上はツンツンしているものの中身はなんとも可愛らしい。
これから慣れない旅をする以上素直になってくれれば楽なのだが心の声が聞こえることを黙っていると決めたからそれをレベッカにいうことはできない。
まあ一方的だとしても本音が聞こえてくるからよしとしよう。
「まずは火を起こそう。俺は木の枝を集めてくるからその間テントを組み立てる用意だけしておいてくれるか?」
「任せておいて」
俺はテントの準備をレベッカに任せ近くの森から乾いていそうな枝を拾い集める。
幸い直近で雨は振っていなかったので湿っている枝はそう多くなくスムーズに乾いた枝は集まった。
俺は枝を両手で抱えレベッカのもとに戻る。
「ただいま」
「おかえりなさい。ちょうど今テントの骨組みの準備が終わったところよ」
「仕事が早いな。それじゃあちゃちゃっと火だけ点けちゃうからそれからテントを組み立てようか」
俺は枝を並べていきファイアを唱え火を点ける。
魔法がそこまで発展していなかった時代は木と木を高速で擦り合わせることによって生じる摩擦熱で火を起こしていたらしいのだが……今の俺には不可能な芸当だ。
「よし、火は点いたから次はテントを組み立てようか」
俺はレベッカと協力しながらテントを立てる。
一人から二人になるだけで組み立てられる効率は桁違いに変わる。
なのでテントを立てるときはできるだけ二人で立てようと前々から話し合っていた。
「うん。上出来だな」
「街でたくさん練習したものね。本番でできてよかったわ」
レベッカはホッとしたように胸を撫で下ろした。
確かにどれだけ練習してもいざ本番となったときにできないことって多々あるもんな。
かくいう俺もちょっと安心している。
「それじゃあ今日は持ってきた食料を使って夕食にしよう」
「いきなり使っちゃって大丈夫なの?」
「ああ。ちゃんと非常用に保存の効く食材は残っているしいきなり全てをやろうとしても無理だ。なら少しずつ色んなことに慣れていく方針で行こうと思ってな」
俺達は所詮人生経験の少ない子供。
全てを一気にやろうとしてもできないか体調を崩すかの二択だ。
だからこそ一番近いニアを目的地にしたんだし最初から飛ばしすぎるのも良くないのだ。
「腹減ったし早速夕飯でも作ろうか」
「それじゃあ私が作るわよ。昼間はずっとライアンに頼ってばかりだったし」
「そんなに気にしなくてもいいんだぞ?」
「気にするわよ。私たちはお互い助け合わなくちゃいけないの。どちらか一方に頼り切りなんていつか破綻しちゃうわ」
レベッカの言うことはもっともだと思う。
まあ明日は俺が作ればいいだけだし今日はレベッカに任せようかな。
本人がやりたいって言ってるんだし意思を尊重することの大切は最近痛感したのだから。
「わかった。じゃあご飯は任せるよ。俺はその間に水浴びでもしてこようかな」
「ええ。そうしてくるといいわ」
俺は近くにあった川まで移動し持ってきたタオルを水につける。
そして服を脱いで自分の体を拭き始めた。
春になって気温も暖かくなってきたが水温はまだそこまで高くない。
かといって不潔な状態で旅をすると病気などにかかってしまう恐れもあったので我慢して拭いた。
それにレベッカの隣を汚いまま歩いて臭いとか思われたら嫌だしな。
猫の獣人だから普通の人よりも嗅覚良いし。
俺はしっかりと体の隅々まで拭くと持ってきた清潔な服に着替えレベッカのもとに戻る。
ちょうどレベッカはスープの味見をしているところだった。
「いいタイミングで帰ってきたわね。ちょうどスープができから食べましょ」
「水浴びはしてこなくていいのか?」
「後でしてくるわ。だって私が先に入ったらライアン遠慮してご飯食べないでしょ?」
うっ……見透かされている……
じとーっと俺を見ているその目は全てお見通しのご様子だった。
「わかった。それじゃあ先に食べよう」
「ええ」
「「いただきます」」
俺は横に倒れた木に座ってパンをスープに浸して食べ始める。
温かいスープは疲れた体に染み渡る……のだが。
「なんでそんな遠いんだ?食べづらくない?」
なぜかレベッカが俺から距離を取り座りづらそうな小さな石に腰をかけて食べている。
俺が座っている木はもう1人分なら十分に座れるというのに。
「い、いいのよ。ここで。十分食べれるから……」
レベッカはなんとも歯切れの悪い返事をする。
俺が疑問に思っていると心の声が流れ込んできた。
『絶対今の私汗臭いもん……そんなふうにライアンに思われたら私……生きていけない……』
汗臭いってことは無いと思うけどな。
さっき近くを通った時ふわっと花の匂いが香ってきたくらいだし。
まあ自分の香りを嗅がれてるって普通にキモいだろうかた言わないほうがいいのかもしれないが。
俺達はなんとも言えない空気感の中食事を終える。
片付けは俺が受け持ちレベッカは水浴びをするようにした。
「……絶対に覗かないでよ?」
「わかってるよ。安心して行って来い」
「むぅ……」
『ちょっとくらいは興味を持ってくれてもいいのに……』
今のはどう答えるのが正解なんだろうか。
人類の英知の結晶である本を読んでも答えは出ないであろう超難問に俺は頭を悩ませるのだった。
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