第12話 初戦闘

「それじゃあ、またね」


「元気でね。お母さん、お父さん」


俺とレベッカは並んでそれぞれの両親に別れの挨拶をする。

母さんはいつも通りニコニコ笑っていたけど目尻には少し涙が浮かんでいて父さんは俺の肩を強く叩いて豪快に笑う。


「怪我とか病気に気をつけるのよ、ライアン。ちゃんと無事で帰ってきなさい」


「はっは!ちゃんとレベッカちゃんを守って男を見せてこいよ!」


やはり心のどこかに寂しさはある。

隣のホワイト家を見るとおばさんとおじさんはレベッカを抱きしめて泣いていた。

こうやってレベッカを俺が旅に連れ出してしまったと思うと少し申し訳なくなる。


「それじゃあ行ってくるよ」


「行ってきます」


俺とレベッカは長年住んでいた街を出たのだった──


◇◆◇


「それにしてもよく許可をもらえたな」


「そうかしら?ライアンにどうしてもついていきたいって言ったら割とすぐに許してくれたわよ。お父さんは大泣きしてたけど」


ごめんなさい、おじさん。

多分男親としては複雑だろうな。

男についていきたいから旅に出たいなんて娘に言われるのは。

俺も結婚や子供なんて想像できないけどあまりいい気分はしないのは想像に難くない。

危ないから不安にもなるしな。


「それでまずはどこに向かうの?」


「まずはここから一番近いニアの街に向かおうと思う。俺達は旅に慣れてないしいきなり遠い街を目標にするのは建設的じゃないからな」


「なるほどね。いいんじゃないかしら」


『ライアンと二人旅なんて最高だぁ……!どんな街が目的地でもどんと来いって感じだよね』


どうやらやる気は十分といった感じだ。

後悔してないかと心配していたが杞憂だったようだ。

軽く雑談しながら歩くこと数十分。

突如目の前の低木が揺れ始めた。


「な、なにっ!?なにが起きてるの!?」


「落ち着け!」


俺はレベッカを後ろにかばう。

すると低木の中からジェル状の生き物が飛び出してきた。

その姿は見覚えがある。


「こいつはスライムだな」


「ど、どういう魔物なの……?」


「魔物の中では最弱と言われていて子供が木の棒で殴っただけでも倒すことができる」


「なんだ……弱い敵なのね……」


レベッカがそっと胸をなでおろす。

だが俺の説明はまだ終わってなかった。


「ただこいつの体液は少し特殊でな。衣類などの繊維系を溶かしてしまうんだ」


「ふ、服を……?」


『いやぁ……なんかヌルヌルしてそうだし触りたくない……』


レベッカが自分の体を抱き一歩後ろに下がる。

まあそんなこと言われたら近づくの嫌だよな。

殺傷能力の高い魔物と比べれば何倍もマシだろうけど。


「とりあえず倒してみるよ」


「き、気をつけてね……?」


「魔法で倒すから近づかないし大丈夫だとは思うよ」


俺は魔法の勉強をしてはいるものの生物に対し使ったことは無い。

こうやって最弱の魔物相手に試せるのはちょうどよかった。

いざというとき使えませんじゃあ話にならないからな。


「行くぞ!ファイア!」


俺が使ったのは炎の初級魔法。

扱いやすくそこそこ攻撃力も高い初心者御用達の魔法だ。


スライムを炎が包み溶けていく。

10秒も経たないうちにスライムは燃え尽きた。


「ふぅ……倒せたな」


「すごいわね……本当に魔法を使いこなしてる……」


『魔法を使うライアンかっこよかったぁ……さり気なく私をかばってくれてたのも嬉しかったなぁ……』


レベッカが後ろからポンと肩に手を置いてくる。

確かにレベッカの前で魔法を使うことはあまり無かったかも?

魔法の精度を高める練習はあまりしてないしそもそも攻撃魔法の類は危ないから使えないんだよな……


「これくらいはな。さあ先に進もう」


俺達は気を取り直して再び進み始める。

しかし20分も歩けばまた違う魔物が襲ってきた。

今度はゴブリンである。


「こいつはゴブリンだな。知能もそこまで高くなく強さも微妙なところだ。特筆スべき点は少ない」


俺は再びレベッカを後ろにかばう。

しかし今度はレベッカが前に出てきた。


「私にも戦わせて。ずっとライアンばかりに戦わせるわけにはいかないもの」


『ヌルヌルしてないからこいつなら倒せそう……!ライアンに絶対にいいところを見せるんだから』


確かにお世辞にも強いと言えない俺がレベッカを守り続けるのは不可能だ。

ならばレベッカも弱い敵と戦うことで少しずつ慣れていってもらって自分の身くらいは守れるようになったほうが良いかもしれない。

俺はレベッカにゴブリンの相手を任せることにした。


「行くわよ!」


レベッカは走ってゴブリンに接近する。

木を巧みに使いながらゴブリンを翻弄するその姿は猫さながらで見事としかい言いようがない。


「はぁっ!」


木の上から大ジャンプし蹴りの体勢に入る。

その足はゴブリンの顔面に直撃しめり込んだ……だけならばよかったのだが。

止まることのないその足はゴブリンを遥か遠くへと吹き飛ばした。

ゴブリンの体は何本もの木をへし折りながら飛んでいきようやく止まった頃には5本くらい折れていた。

俺は開いた口が塞がらない。


「れ、レベッカ……?」


「ち、違うの!私にもなにがなんだか……!」


『な、なんでこんなただの蹴りなのに威力が出るの……!?これじゃあ凶暴な女の子だってライアンに嫌われちゃうよ……』


レベッカが実は超強いのに実力を隠していた、とかそういうわけではないらしい。

となると考えられるのは……


「もしかしたらテイムの影響なのかもしれない……」


「え……?」


俺はどんどんと仮説を立てていく。

だがレベッカのこの破壊力が急にもたらされたものだとしたらテイムのせいと考えるのが自然だ。


使役テイムは眷獣と術者のお互いの信頼関係がなければ使えない絆の魔法だ。術者と眷獣が近くにいる、もしくは眷獣が術者を守ろうとするときになんらかの強化が入るんじゃないだろうか」


個人的には後者だと思っている。

だって俺はそのような強化は感じなかったのだから。


「わ、私がライアンを守りたいって……!?そんなのあるわけないじゃない!」


『だからあんなに力が湧いてきたのかなぁ……いざというときにライアンを守れるように強くなりたいって思いながら戦ってたし……』


うん、多分仮説は合ってる気がする。

まだ断言はできないけどあの力はいくら人間より筋力がある獣人だからってちょっと無い。

それも魔法の影響だと言うならいくらか納得がいくというものだ。


「……まぁこの件は保留だな。先に進むとしよう」


「そうね」


俺達はニアに向かって歩き出した。


────────────────────────

街の名前が適当なのはお許しください。

ちょっと今新作を書くのが楽しいんでそちらに時間を使っておりまして街の名前はそこまでこだわらなくてもいいかなと。

ただ街名は適当でも物語の方は真剣に書いていますので……!

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