第11話 転機
季節は流れ春になった頃。
俺達は一つの節目を迎えようとしていた。
「はぁ……無かったな……」
「ええ……そうね」
この図書館にあるテイム関連の魔法書に全て目を通し終わったのだ。
しかし結果は会話の内容通り発見できずじまいだった。
他の魔法が記された魔法書に何らかのヒントはあるかもしれないが片っ端からこの図書館にある全ての魔法書に目を通していたら何十年かかるかわからない。
この図書館での調査は終了となった。
「……ごめんな。解けなくて」
「え?べ、別に良いわよ。ライアンのせいじゃないって言ってるでしょ」
「でも……」
「気にしないで」
気にしないでと言われても気にしてしまう。
だって……
『まだライアンの眷獣でいられるんだ……えへへ、私のご主人様は優しいから心配してくれるけど私は解けなくてもそれはそれで嬉しいんだよね』
あれから心の声が聞こえないようにする方法を模索してみた。
だが耳を塞ごうにも鼓膜で聞き取ってるわけじゃないから意味ないし魔力で直接声が流れ込んでくるので防ぎようがなかった。
(せめてあの方法がうまく行けばよかったんだが……)
俺達が今まで読んでいた魔法書の中にテレパシーの一時接続解除の方法は存在していた。
だがテイムが不完全な状態で発動してしまっているがために接続を切ることができなかったのだ。
つまりレベッカの心の声が聞こえるようになった以外は何もできない超欠陥魔法であることが判明した。
(これからどうしたものか……レベッカはこのまま解かなくてもいいと言うかもしれないがなんとか解く方法を探さなくては……)
このままではいつテイムのことが露見するかわからないしレベッカを変な目で見たり奴隷として扱おうとする輩が出てくるかもしれない。
レベッカは美少女だしもしかしたらその中には権力を持ったやつがいる可能性もゼロではない。
そうなったときに自分はレベッカを守り切れるのだろうか。
そうなると何にも負けない強さを手に入れるよりもレベッカのテイムを解く方法を模索するほうが現実味がある。
「何ぼーっとしてんのよ。着いたわよ」
『何か考えてるんだろうなぁ……いつになく凛々しくて真剣な表情をしてたし……見れてちょっとラッキーかも……』
レベッカの声で意識が現実に戻ってくると確かに目の前に俺達の家があった。
どうやら思った以上に考え込んでいたみたいだ。
「悪い。少し考え事してたんだ」
「そう。あまり考え込むのもよくないと思うけど」
レベッカの言葉に苦笑いで答える。
俺が自分の家の扉を開けるとレベッカも着いてくる。
今日はハーディ家で集まって夕食の予定なのだ。
「あら、二人共おかえり」
「今日も仲良しみたいで良かったわ」
「ただいま」
「お邪魔します。おばさん」
俺達は挨拶をしてダイニングへ向かう。
すでに料理は準備されており父さんたちが酒瓶を持ってソワソワしていた。
見慣れたいつもの光景ではあるが先に飲んでいないあたり今日はマシな方である。
「それじゃあ二人も帰ってきたことだしいただきましょうかね」
「「「いただきます」」」
俺達は手を合わせてご飯を食べ始める。
だが俺はある考えで頭を占めていた。
食事も美味しいと感じているがそれどころではないといった感じ。
「どうしたの?ライアン。全然食べてないようだけど」
『さっきも何か考え込んでたみたいだし……普段はどれだけ忙しくても家族との時間は大切にしているからちょっとらしくないかも……』
目の前のレベッカは目に微かな心配が宿り、がっつり心配したような声が流れ込んでくる。
俺は色々考えた末、自分の考えを家族に話すことにした。
「母さん。話があるんだ」
「……改まってどうしたの?」
「なんだライアン、おれがきひてやろぉかぁ?」
今から真剣な話をするので酔っ払いは無視する。
普段はふざけることも多い母さんだが真剣さを感じ取ったのかしっかり俺の目を見据えてくる。
「旅に……出たいんだ」
「「「!?!?」」」
母さんだけでなくおばさんやレベッカも驚いた顔をする。
まあ突然旅に出たいなんて言ったら驚かれるとは思っていた。
「それはどうしてなの?」
「調べたいことがあるんだ。この街の図書館では調べきれなかったから違う図書館にも行って調べたいと思ってる」
この街でテイムの解除方法を探すのは不可能だ。
ならば他の街に行くしか無い。
レベッカを守るためにはこれが最善の手段だと判断したんだ。
「……世の中は危ないことで溢れてるのよ?外には魔物がいるし治安が悪いところだってあるんだから」
「それでも行きたいと思ってる」
俺の迷いの無い言葉に母さんは考え込む。
反対されるのも覚悟している。
もし反対されたらどうにかして説得してでも旅に出る気ではあるが。
「……後悔は、しないのね?」
「ああ」
「好きにしなさい」
思いがけない一言だった。
母さんは優しい微笑みを浮かべている。
「あなたの人生なんだから後悔のないように好きなように生きなさい。でもちゃんと無事に帰ってくるのよ?」
「あ、ありがとう……」
自分のことを理解してくれる家族に胸が温かくなり心がやる気に満ちた。
◇◆◇
食後、俺はベランダに出て星を見ていた。
今は食事の片付けがちょうど終わったところでおばさんと母さんはゆっくりテーブルで話を楽しんだりゆったりしていることだろう。
「ライアン」
聞き慣れた声に呼ばれ後ろを振り返る。
するとそこには予想通りレベッカが立っていた。
薄暗くてその表情はよく見えない。
「どうしたんだ?」
俺が聞くとレベッカは俺の隣にやってくる。
俺を見つめるその瞳は不安に揺れていた。
「本当に……旅に出るの……?」
「ああ。もう決めたことだ。レベッカのそのテイムを解いてあげなくちゃならないからな」
俺がそう言うとレベッカは小さくうつむく。
弱々しく握られた拳は少し震えていた。
「そんなこと……しなくていいわよ。最近はもうそんなに気にしてないんだから」
『行かないでよ……私のためにライアンが危険な目にあってほしくない……私はこのままでいいから一人にしないで……』
今までで一番悲しくて、寂しそうな声が流れてくる。
このままここに残りたい気持ちが湧いてくるが俺はその気持ちに蓋をする。
「テイムがいつ露見するかわからないんだ。そうなるとレベッカが危険な目にあう可能性がある。俺はレベッカを守りたいから旅に出るんだ」
「……!」
俺の言葉にレベッカの目は大きく見開かれ頬は赤みを帯びる。
「それじゃあさ……」
「うん?」
しばらく黙っていたかと思うとレベッカはぽつぽつと話し出す。
もう体は震えてなんていなかった。
その目には力が宿り目をそらさず俺の目を見てくる。
「私もその旅に連れて行ってほしい」
「はぁ!?」
レベッカを旅に連れて行く、だって?
驚きのあまり一瞬頭が真っ白になる。
だがすぐに頭は回りだした。
「だめだ。外は危ないんだぞ?」
「そんなのライアンだって一緒じゃない!」
レベッカの声に俺はハッとする。
その美しい瞳からは涙が伝っていた。
「ライアン一人で背負わないでよ……私だって無関係じゃないじゃない……」
『ライアンは優しくて強いもの……きっとどこかで無理をして傷ついてしまう……そんなときに自分だけ安全なところで帰りを待つなんて絶対に嫌……!』
俺は……レベッカを突き放そうとしていたのか……
自分のせいだからと、レベッカを巻き込みたくなかった。
でも違ったんだ。
相手が大切だからこそ助けたい、その思いは変わらないはずなのに。
「……悪かった。その……着いてきてくれるか?」
「……っ!……うん!」
レベッカは涙を拭い笑顔になった。
俺達の、これからの旅路を祝すかのように星が輝いていた。
────────────────────────
これから少し物語の印象が変わるかもです。
ただなんか壮大な闇組織が出てきて倒さなきゃ!みたいなシリアス?というかバトル物みたいな感じにはしません。
別に主人公最強ってわけでもないしレベッカとイチャイチャしながらのんびりゆったり旅をするイメージです。
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