第10話 事後?

若干の息苦しさを覚えて目が覚める。

重いまぶたをこじ開けると目の前にぴょこぴょこ動く白い耳があった。

俺はその意味が頭で理解できず一瞬硬直した。

まさかと思って視点を下に持って行く。


(れ、レベッカ!?なんで一緒に寝てんの……!?)


なぜか俺の布団にレベッカが潜り込んでいる。

レベッカにがっつり抱きつかれているという事実ともう一つライアンを焦らせる事実にライアンは気づいていた。


(お、俺もレベッカのこと抱きしめてる……!?)


レベッカの背中までしっかりと回してホールドしている腕。

その腕のしびれがどれだけの時間レベッカを抱きしめていたかを物語っていた。

しかも極めつけはレベッカの格好。


なぜか俺の服を着て着崩れた胸元からちらりと見える下着は黒のレース付きで少し薄く肌色が見えてしまっているかなり勝負下着に分類されそうなもの。

さらには俺の足に絡みついたレベッカの太ももがダイレクトな肌の感触を感じるということはズボンを履いていない可能性が高い。

俺の脳裏に事後という二文字が浮かび上がる。


(き、昨日の記憶が全く無い!?まさか俺は本当にレベッカに手を出したのか……!?)


だが自分の格好は昨日の記憶があるときのものと合致している。

ということはまず事後ではないと気づき少し落ち着いた。

そして次に押し寄せてくるのは疑問。

なぜレベッカはこんな格好でこんなところで寝ているのだと声を大にして聞きたい。

だがこうも気持ちよさそうに眠っていたら起こす気も失せるし腕も足もホールドされてしまっているため動けない。


「はぁ……もうちょっとこのまま寝かせておくか……」


俺は何もやることがなくてレベッカの観察を始めた。

胸や下着の観察をする脳内ド変態では無いので当然観察対象は顔のみに絞られる。

人の顔をゆっくり見る機会なんてほとんど無いのでこれはこれで楽しいかもしれない。


(改めて本当に美少女だよなぁ……)


形の整った目鼻、みずみずしい唇、サラサラとしたホワイトヘア、時折動く尻尾や耳とレベッカを美少女でモテるのだと判断できる要素は多い。

外面だけでなく誰にでも優しく料理も上手いという非の打ち所のない少女。

それを改めて実感させられる。


(俺も……ちゃんと向き合わないと不誠実だよな……レベッカと、自分の気持ちとしっかり向き合わなくちゃだめだ……)


もうレベッカの好意には流石に気づいてる。

頭に流れ込んでるし果ては寝言で直接言ってしまったりもしている。

これで気づかないとなるとわざとやってるとしか思えない。

もし、面と向かって思いを告げられたら俺は答えることができるだろうか。

わからないからこそ、考えなくてはならないと思ってる。


「レベッカ……お前はどうしたいんだ……?」


頭を優しく撫でるとレベッカは気持ちよさそうにグリグリと頭を手に押し付けてきて口がニコッと少しだけ口角が上がる。

俺の胸に頬ずりまで始めている。

本当に猫が甘えてきてるみたいだ。


「全くしょうがな──」


「ん……?らいあん……?」


レベッカの目が薄っすらと開き始める。

まだ寝ぼけているのか焦点が全然あっていない。

俺はこれから起こることを想像しどうするのが最適か頭を動かしているうちにレベッカの目がぱっちりと開く。


「お、おはよう……」


「き、きゃあっ!?!?!?」


レベッカはするりと俺の腕から抜け出し俺から距離を取った。

俺の想像通りズボンは履いていなくパンツがぎりぎり見えるか見えないかの際どい位置にTシャツの裾がある。

かなりレベッカにとっては大きいらしく手は袖から出ていなかった。


「な、なんでっ……!?」


『も、もしかしなくてもあの後結局寝ちゃって……!?』


「起きたら一緒に寝てたんだ……俺にわかることは残念ながらそれしかない……」


俺が軽く頭を下げて言うとレベッカはさっきよりも更に顔を赤くさせる。

もはや首筋まで朱に染まっている。


「ライアンが抱きついてきたんでしょ。それで一緒に寝る羽目になったんだから……」


「そ、そうなのか……!?それは……ごめん」


『謝らせたくて言ったわけじゃないのに……!ここは落ち着かないと……でも私さっきまでライアンと抱き合って一夜を共にしたんだよね!?落ち着ける気がしないんだけどっ!?』


どうすればいいのかわからず俺達の間に沈黙が流れる。

な、何か話さなくては……

この空気に耐えきれる気がしねぇ……


「れ、レベッカはどうして俺の服を?」


「き、着替えを持ってき忘れてたの……だから借りちゃった」


レベッカは申し訳無さそうに言う。

だが内心俺はそれどころではなかった。

改めてみると破壊力がエグい。

なぜ俺が着てもああ、まあこんなものだな、くらいにすら思わないのにこんなにドキドキさせられてんだ!?

別にセンスがいい服着てるわけじゃないだろうが!


そんな俺達に追い打ちをかける出来事が起こった。

多分お互いテンパりすぎていて気づいてなかったのだろう。


「ライアン、元気になったかし……ら……」


突然ドアが開く音と共に母さんが入ってくる。

最初は心配そうな声を出していたものの俺のベッドの上で女の子座りをするレベッカを見て目を丸くする。

しかも彼シャツ状態で勝負下着がチラチラと見えてしまっているままだった。

母さんがニヤニヤした表情へと変わっていく。


「あらあらまぁまぁ。今夜はホワイト家も呼んでお赤飯かしら?」


「ち、違っ……!」


「ちゃんと避妊はするのよ?あとレベッカちゃんを泣かせたら絶対に駄目だから。じゃあ続きを楽しんで頂戴。私は3時間ほど家を開けるから」


母さんの突然の襲来と爆弾発言に俺達は言葉を失った。

お互い顔が真っ赤で少し気まずい空気が流れる。

それもレベッカとの間で一番気まずい瞬間だと断言できるレベルの激重のやつ。


「……起きるか」


「……そうね」


結果、お互い無かったことにした。

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