第9話 看病(レベッカ視点)
「ねえライアン。今日私もこの家に泊まっていいかしら?」
夜ご飯の食器の片付けを終えた私はライアンにそう聞く。
ライアンは少し驚いたような顔をしてからゆっくりと首を横に振った。
「そこまで迷惑をかけるわけにはいかないさ。レベッカのおかげでだいぶ体調も良くなってきたし夜は寝るだけだしな」
ライアンは間違いなく私に気を使ってくれている。
だってライアンはいつも私を気遣ってくれる、大切にしてくれる、考えてくれる。
そんな彼だから私はライアンを心のそこから大好きになった。
でもたまには頼ってほしい、しんどいときには家族の次くらいには自分を頼ってほしいというのは自分の小さな我儘だ。
「病人なんだからそんなこと気にしなくていいのよ。治るまでは看病させなさい」
「そうは言ってもな……」
ライアンが風邪を引いてしまったのは間違いなく昨日私にコートを貸してくれたからだ。
最後まで看病させてほしい。
「はぁ……わかったよ。よろしく頼む」
「……!ええ。ありがとう」
ライアンは渋々ながらも頷いてくれた。
私は頑張ろうと改めて決意を刻む。
そして私は早速水を桶に入れてタオルと一緒に持ってきた。
「まだシャワーはあまり体に良くないわ。汗だけでも拭き取っちゃいましょう」
「ありがとう。じゃあタオルを渡してくれ」
「え?私が拭いてあげるけど?」
私はこういうときに手伝ってあげるために今ここにいるのだ。
体を拭くくらいライアンの手を煩わせる必要もない。
………決してライアンの裸がみたいとかそういうのじゃないもん。
「……じゃあ背中だけ頼むわ。あとは自分でやるから」
「きゃっ!?」
そう言ってライアンは上半身のパジャマを脱ぎ始める。
急に脱ぐものだから驚いてつい声を上げてしまった。
チラチラと視界の隅に映る肌色が私の心臓の鼓動を速める。
「頼む」
「わ、わかったわ」
私はタオルをしっかりと水に浸して絞る。
そしてライアンの背中にぴとっと付けた。
細身ながらもライアンの男を感じさせるゴツゴツとして筋肉の感触がタオル越しに伝わってくる。
(ライアンも男の子だもんね……やっぱり昔とは全然違う……)
そう思って私は自分の胸を見下ろす。
昔は近所の男の子とよく混じって遊んでいたものだけど私だって女の子らしく成長している……はずだ。
大きくはないけど確かに膨らんでるもん!
ライアンが巨乳が好きって言うんだったら大きくする方法を調べるしか無い。
今からでもまだ間に合うはずだ。
「それじゃあ拭くわよ」
私は一言断ってライアンの背中を拭き始める。
丁寧にやればやるほどライアンの体の感触が伝わってきて心臓が跳ね顔が熱くなる。
ライアンが向こうを向いているのがせめてもの救いだった。
今の顔を見られれば間違いなく変に思われてしまう。
なんとか背中を拭き終わると私は少しだけ息を荒げていた。
なんか精神的にどっと疲れた気がする。
それくらいライアンの背中は私にとって刺激的なものだった。
「ありがとう、あとは自分でやるよ。レベッカも風呂入っていいからな。うちの風呂は自由に使ってくれ」
「あ、ありがとう……」
私は今の自分の熱を帯びた顔を見られたくなくてライアンの言葉に甘えるようにして部屋を出た。
さっと服を脱ぎシャワーを浴びる。
温かいお湯が私の心を落ち着けてくれた。
湯船もライアンが気を使って入れてくれていた。
わざわざやってもらって本当に申し訳ないけど入れてくれたことに感謝して湯に浸かる。
「はぁ……落ち着く……」
さっきまでの鼓動の高鳴りも幾分かマシになっていた。
私はゆったりと体を温め疲れを取る。
そしていざ風呂から上がろうと思った時一つの考えが頭をよぎる。
(今私はライアンと二人っきりなんだよね……もしかしてしちゃったりするのかな……)
私はライアンとそういうことをしている場面を思い浮かべて顔が熱くなる。
でも今の状況は全然そういうことになってもおかしくないと思える。
ライアンも体調不良と言えどかなり回復してきてたみたいだし男の子なのだ、この年頃の男の子は狼だってよく聞く。
(わ、私がえっちなわけじゃないよね……?そうなってもおかしくないってよく聞くもん……)
私は念の為もう一度体を洗うことにした。
さっきよりも念入りに洗った後風呂場の扉を開けると自分の着替えが無いことに気づく。
さっき慌てて風呂場に来てしまったためそんなことを考える余裕はなかったのだ。
確か下着はある、おばさんがいつ泊まってもいいようにって勝負下着を置いときなさいって言われて置いてあったのだ。
だが着替えがない。
(ど、どうしよう……勝負下着を着るだけでもやる気満々みたいなのに下着だけで出ていったらライアンにはしたない女だって幻滅されちゃう……!)
慌てた私は周りを見渡すとあるものを見つける。
着るのは少し恥ずかしいが着ないよりは何倍もマシだ。
恐る恐る私はそれを手に取り着始めた──
◇◆◇
私はライアンの部屋の前で立ち尽くしていた。
理由は今の自分の格好。
ライアンのTシャツと下着しか着けていない。
ズボンもはきたかったがブカブカすぎて落ちてしまったのだ。
(こんな格好ちょっと覗いたらすぐに下着がみえちゃう……ライアンの匂いがするのは嬉しいけどこれはやっぱり恥ずかしいかも……)
「ら、ライアン?入るわよ」
私は恐る恐る扉を開ける。
すると中からは落ち着いた寝息が聞こえてきた。
近づいてみるとライアンは目をつぶって規則正しい寝息が聞こえてくる。
(ふふ、いつもは大人っぽいのに寝てるとこんなに可愛いんだ……)
私はライアンが眠っているのを起こさないように見つめる。
いつもはカッコいいその顔も今は年相応の幼さを残し可愛らしい。
キュンキュンしてしまう。
(ちょっとくらい……いいよね?)
私はライアンのベッドに腰をかけライアンの頭を優しく撫でる。
自分のとは全く違う耳も触ってみるとぷにぷにしていて触り心地がいい。
私が夢中になってライアンを堪能していると突然ライアンが上半身を起こした。
「ご、ごめん……起こしちゃった……?」
私がとっさに謝るとライアンの目はぼーっと私を見つめるだけだ。
どうしたんだろうと思っていると突然ライアンに抱きしめられる。
いきなりライアンのたくましい体に包まれて顔が一気に熱を持ち頭は混乱する。
(な、なんで……!?私ライアンに抱きしめられてる……!?)
するとライアンは私を抱きしめたまま再び寝転がった。
バックハグのような形になりライアンに包みこまれているような間隔を覚える。
次はどうするのかと内心身構えていると後ろから再び寝息が聞こえてきた。
どうやら寝ぼけていただけだったらしくほっとしたような少し残念なような少し複雑な気分になる。
(で、でもどうしよう……しっかり抱きしめられてるせいで出られない……)
もちろん出ようと思えば出られる。
でもそれだと確実にライアンを起こしてしまう。
それはあまり好ましくなかった。
(な、なんとか耐えて腕が緩んだら抜け出そう……)
長い長い夜が始まった──
─────────────────────────
いつもよくあるラブコメパターンのヒロインの看病をするという逆バージョン。
たまにこっちも見るけど甲乙つけがたい。
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