第8話 フーフー
「やらかした……」
俺はベッドの上でつぶやく。
体は重く喉は痛くて手に持っている体温を計る魔道具は38.6を指している。
完全に風邪だ。
というか風邪を引いた原因に心当たりしか無い。
(昨日カッコつけてレベッカに上着貸しちまったからなぁ……それで風邪をひくとか我ながらダサすぎる……)
でも昨日レベッカに上着を貸したことは後悔していない。
あのときはあの選択がベストだったのだ。
ただそれで自分が風邪を引いたことが想定外なだけで。
「うーん……お熱が高いわね……」
ベッドの横に来ていた母さんが俺の体温を示した魔道具を見て唸る。
そして俺のおでこに直接手を当てた。
ひんやりしていて気持ち良い。
「今日はレベッカちゃんと図書館に行くのはやめにして家で安静にしてなさい。レベッカちゃんには私から伝えておくから」
「わかった……よろしく」
流石に今日は動けそうにない。
図書館に行くのは諦めてすぐに治すことに専念したほうがいいだろう。
お言葉に甘えてゆっくりするとしよう。
「じゃあお母さんはもう行くわね。今日はお父さんもお母さんも用事があって家にいられなくてごめんね」
「いいよ。俺ももうそこまでの子供じゃないんだ。これくらいは大丈夫だ」
俺は母さんの言葉に大きく頷く。
母さんは若干不安そうな顔をしていたけど俺の頭に頭をぽんと置いてから行ってくるね、と言って部屋から出ていった。
失礼だな、なぜ不安そうにするんだ。
「さて、頭痛いしとりあえず寝るか……」
俺は布団を深く被り再び眠りに落ちていった。
◇◆◇
「ふわぁ……今何時だ?」
目が覚めると窓の外に見える太陽はかなり高い位置まで登っていた。
二度寝を始めたときは朝そこそこ早かったのでかなりの時間眠っていたのは間違いない。
時計を見ると4時間ほど眠っていたようだった。
朝よりかは幾分か頭痛も治まり体も軽くなった気がする。
「はぁ……水でも飲みに行くか」
病気のときに大切なのは水分補給だ。
トイレや汗などで普段よりも多くの水分を消費するためしっかりと水分補給をすることが大切なのだ。
医学書を多少かじっている身として当然の対応である。
俺が水をコップに注いで飲んでいると突然扉がノックされる。
「ん?来客か?母さんからは何も聞いてないけど……」
俺は玄関まで歩いて行き扉を開ける。
少し肌寒い空気と共に目に飛び込んできたのはレベッカだった。
「レベッカ……どうしたんだ?」
「ライアン、起きてたのね」
『起こしちゃったわけじゃなくてよかった……顔も赤くなってるしやっぱり熱があるんだね……』
頭の中にレベッカの心配そうな声が流れ込んでくる。
どうやら風邪だと知ってわざわざ来てくれたらしい。
「ああ、さっき起きたところだ。風邪が
「ま、待って!」
俺がレベッカに移さないようにと家の中に戻ろうとするとレベッカに引き止められた。
俺が振り返るとレベッカが少し潤んだ瞳で言ってくる。
「わ、私に看病させてよ。だ、だから家に上げて欲しい……」
「え?でも申し訳ないし……」
「おばさんから家に誰もいないって聞いたのよ。病人をそんな状態にしておくわけにはいかないでしょ」
『弱ってるライアンを一人になんてさせたくないよ……病気のときって心細くなるものだもん……』
本当ならすぐにでも断るつもりだった。
でもレベッカの気持ちが痛いほど伝わってくる。
俺だって逆の立場だったら絶対にレベッカを看病しようとしていたはずだ。
迷惑をかけられることよりも頼られないことのほうがつらい、その気持ちは共感できる。
「……わかった。よろしく頼むよ」
「……!任せなさい!」
俺がお願いするとレベッカは嬉しそうに笑う。
家の中に上がった俺達だがレベッカによってすぐソファーに座らせる。
「ライアンって今日起きてから何か食べたのかしら?」
「いや、まだ食べてないな」
意識すると少しお腹が空いてきた気がした。
食欲があるということは回復の兆しにあるのだろう。
明日か明後日には完治しているはずだ。
「それなら何か作るけど食欲は?」
「いつもよりはないけどお腹は空いてる」
「ふーん、じゃあ無難におかゆでも作ろうかしらね」
レベッカは家の冷蔵魔道庫から食材を取り出し始める。
そして慣れた手つきでエプロンを着け料理を始めた。
いつも見ている姿なのに今日はレベッカがすごく家庭的な新妻みたいだな、と考え慌てて首をブンブン振って邪念を払う。
まったく熱というものは思考回路まで犯してきて厄介なものだ。
「ずいぶん手慣れてるな」
「言ったじゃない。料理は大抵のことはできるのよ」
『ライアンが何をリクエストしても良いようにいろんな料理の作り方をお母さんに習ったんだもん……!看病のとき用におかゆだってベストのレシピを用意してあるんだから……!』
それからレベッカはかなりスピーディーにおかゆを完成させた。
テーブルの席についた俺の前に小さな鍋を置いてくれる。
そして自分は隣の席に座った。
「食べてもいいか?」
「一応そのために作ったんだけど?」
俺はれんげを手に取り鍋のフタを開ける。
すると中からはホワッと湯気が立ち美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐる。
俺はひとすくいし口に運ぶ。
その瞬間卵の優しい甘みが口の中に広がった。
「美味しい……!」
「そう。ならよかった」
『ライアンの好みの味付けを研究したから大丈夫だとは思ってたけど……やっぱり少し薄めの味付けにしておいて正解だったかも』
どうやら俺の好みは把握されているらしい。
通りでレベッカの作る料理はなんでも美味いわけだ。
特に質問とか受けたわけじゃないから普段の反応とかを見て研究したんだろう。
見られすぎるのも気恥ずかしいがこんなに旨い料理が食えるなら全然見て欲しい。
「そうだ。それちょっと貸しなさい」
「え?レンゲ?別にいいけど……」
俺は手に持っているレンゲをレベッカに渡す。
昔までの俺なら俺は犬と同じくらいの存在だから犬食いしろ、とか変な
深読みをしていただろうが今は違う。
レベッカはそんなことはさせようとは思っていないはずだ。
レベッカはれんげでおかゆをすくい自分の口元に持っていってフーフーと息を吹きかけた。
そして俺の口元に持ってくる。
「あ、あーん……」
「…………………え?」
「ちょ、ちょっと!早く食べなさいよ!」
『うぅ……あーんって意外と恥ずかしいんだ……』
レベッカは心の声だけでなく明らかに見間違えでないほど顔が真っ赤になっている。
というか耳まで赤い。
それでもスプーンは引っ込めようとしない。
「た、食べてよ……それとも私があーんするのは嫌……?」
「い、嫌じゃないけど……」
「じゃ、じゃあ食べてよ……」
俺は覚悟を決めた。
恐る恐るスプーンにのったおかゆをぱくっと食べる。
美味しいはずなのになぜか今回は味がよくわからなかった。
それでも、心の奥は確かに温かくなって体のつらさは軽くなった気がした。
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レベッカの耳をモフモフしてみたいところ……!
触れられないなら書いてやる!(強制力)
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