第7話 卑猥な発見

「あー……やっぱり中は暖かいね」


「何よ。やっぱり寒かったんじゃない」


図書館に戻り俺が空調のありがたみを体感しているとレベッカが呆れたように言ってくる。

目はジト目だ。


『ライアンやっぱり寒かったよね……申し訳ないことしちゃったなぁ……』


その内心しょんぼりとしているらしく気落ちしたような声が流れ込んでくる。

俺はそんな様子のレベッカに苦笑してポンと頭に手を乗せる。

そしてワシャワシャと撫でた。


「わぁ!?ちょ、ちょっと!なにするのよ!」


『あ、頭ナデナデされてる……!?なんで……!?』


「俺が自分の意思で貸したんだ。レベッカはそんな気にしすぎなくていいの。わかった?」


「なっ!?ぜ、全然気にしてなんていないんだから!」


ぷん、と頬を膨らませてレベッカは歩いていってしまう。

俺は再び苦笑しながらレベッカを歩いて追いかける。

レベッカは既に三階に着いていて自分で本を持ってきたらしくさっきとは違う魔法書を読み始めている。

流石真面目なレベッカだ。

俺も先程の本棚からさっき読んでいない本を取り出しテーブルに戻る。


「さてと、俺も読むか……あれ?空調効いてるけど熱くないの?レベッカ」


さっきは気にしていなかったがレベッカはまだ俺のコートを着ていた。

上着を特に着ていない俺がベストな室温だと感じているのだからコートを着ていたら暑いはずだ。


「い、いいの。私はまだちょっと肌寒いのよ」


『もうちょっとライアンの匂いを堪能したいんだもん……もうちょっとくらいいいよね……?』


「はぁ……熱くなったらちゃんと脱げよ?」


「わかってるわよ」


レベッカは緩まったであろう口をコートに顔の下半分を埋めて隠しながら言う。

早速堪能してんじゃねえか。

堪能するのは構わないけどちゃんと魔法書も読み進めてくれよ?

俺は呆れたため息を吐いて本に目を戻した。


◇◆◇


日も傾きだし夕日の赤い光が図書館の中にも入ってきた頃、俺は集中していた本から顔を上げる。

ずっと同じ体勢で体が凝り固まっていたので首を回したり伸びをしたりして体の凝りを取る。


「はぁ……結構読めたな……」


俺の目の前には2冊のタワーができており今読んでいた本もその上に乗せる。

今日は全部で4冊読めた。

初日のペースとしてはなかなかいいんじゃないだろうか。


「さてレベッカは、と……」


レベッカを見るとコートを着たままスヤスヤと眠っていた。

本が傷まないようにちゃんと畳んで横に置いてあるのがいかにもレベッカらしい。

今まで集中して気づかなかったが穏やかな寝息も聞こえてくる。


「はぁ……結局寝てんじゃねえか……」


俺はため息をつきながらレベッカの横に移動する。

そして目にかかっていた髪を優しく上にあげた。

幸せそうな寝顔が見える。

レベッカが俺の寝顔を見たいと言っていたのもわからくもない気がした。


「幸せそうに寝やがって……」


今日はサンドイッチを作るために早起きをしたと言っていた。

その疲れと温かい格好をしていたことで眠気に耐えられなくなったのかもしれない。

まあ一番の要因は慣れない魔法書を読んだことだと思うが。


「ん……むにゃむにゃ……ライアン……だいすき……」


「おいおい、隠せてねえじゃねえか」


頭の中にいつも聞こえていてもレベッカの口から聞くのは初めてだ。

寝言だとしても、いや寝言だからこそ本心ってことがわかってなんともこそばゆい。

自分の顔が少々熱を持つのがわかる。

そんな俺の動揺をよそにレベッカは幸せそうな顔で寝続け起きそうな気配は無い。


「はぁ……どうすんだよこれ……もうすぐ閉館時間なんだぞ……」


時計を見ると閉館時間が刻一刻と迫ってきていた。

かといってこんな幸せそうな顔で寝ているレベッカは起こしづらい。

そう考えた俺はとりあえず本を全て本棚に返してきて準備を整えた。


「寝てたのが悪いんだからな?起きたときに文句は言うなよ……」


俺はレベッカの腕を軽く引っ張りながら自分の肩に回した。

レベッカの体が椅子から落っこちて俺の背中に寄り掛かる。

そして太ももに腕をやって持ち上げた。

いわゆるおんぶである。


(こ、これ意外とやばいかも……!?)


レベッカの体重が重すぎて、とかそういう類の話ではない。

レベッカの決して大きくは無いが小さいとは言えない双丘は俺の背中にムギュッと押し付けられることによって(おそらく)形を変えていて手のひらはレベッカのむちっとした太ももでいっぱいである。

いくら兄妹のように育ったと言っても結局は他人、十分破壊力が高く俺の理性を削ってきていた。


(ま、まさかおんぶがこんなにも卑猥なものだったとは……)


俺は背中と手のひらを極力意識の外に追い出し歩き出した。


◇◆◇


日はしっかり沈み家に向かって歩いていると背中でレベッカがモゾモゾと動き出した。

そろそろ起きたのか?


「あ、あれ……?私ライアンと一緒に図書館で本を読んでたはずなのに……?」


ずいぶんと混乱しているご様子だった。

まだ声がかなり眠そうだ。

多分寝ぼけてる。

レベッカの寝起きは昔からいつもそうだからな。


「起きたか?今俺達は家に帰ってるところだぞ」


「家……?ていうか私ライアンにおんぶされてる!?」


どうやら完全に目が覚めたらしい。

背中に感じていた柔らかくも重量感のある双丘の感触が消えていく。

名残惜しい気持ちもあるけど絶対に口には出さない。


「わっ!ちょっと暴れるなって」


「イヤよ!あんたにおんぶされてるなんて絶対にイヤ!」


『さっきまで不可抗力とはいえいろんなところを押し当てちゃってたよぉ……は、恥ずかしい……』


発言の内容からしておそらくレベッカの顔は赤くなっているのだろう。

ちょっと見てみたい気もするがレベッカをおんぶしているため表情を見ることができない。

俺は膝を地面についてレベッカを降ろした。


「最悪……あんたにおんぶされるなんて……まぁ感謝はしてるけど……」


『最悪だよ……ライアンに迷惑かけちゃった……』


「図書館でずいぶん幸せそうに幸せそうに寝てる猫ちゃんがいてな。あまりにも無防備だから持ち帰ってやろうと思って」


「〜〜っ!…………ばか」


『ライアンの寝顔が見たかったのにライアンに寝顔見られちゃった……私変な顔してたり変なこと言ってなかったよね……?』

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