第6話 調べ物と昼食

「はぁ……母さんめ。本当恨むぞ……」


「おばさんはまだいいじゃない。私のお母さんなんてもっとからかってくるわよ……」


朝ご飯を食べた俺達は図書館に向かって歩いていた。

まだ朝だというのに俺もレベッカも疲れ切った顔をしている。

あの後散々母さんにからかわれ続けた。

なので二人共残りのライフはもう0である。


「ご愁傷さまとしか言いようがないな。強く生きてくれ」


もっと強い母を持つレベッカには同情を禁じえない。

おばさんはいい人なのは間違いないけどことレベッカの恋愛事情になるとニヤニヤが止まらない。

しかも何を言おうが全く響かない鉄壁メンタル持ちである。


「それで話は変わるがその手に持っている物は何なんだ?」


レベッカは出発の前に一度自分の家に戻って荷物を取りにいっていた。

その時に明らかに図書館には必要ないであろう少し大きめのバッグを持ってきていた。

興味本位で訪ねてみる。


「内緒よ。後でなら教えてあげないこともないけどね」


『えへへ……ライアン喜んでくれるかなぁ……』


どうやら俺を喜ばせるためのものらしい。

それが何かはわからなかったが心がじんわりと温かくなるのがわかる。

誰かが自分のためにしてくれる行動とは嬉しくなるものだ。


(俺も何か返さなくちゃな……)


俺はレベッカから貰ってばかりだ。

心の声が聞こえるようになってからは小さな気遣いも気付けるようになったが今思えば昔からレベッカは所々で思いやりのある行動をしてくれていた。

今まで気付けなかったのは正直自分でも情けないと思うが過去のことを引きずり続けてもしょうがない。

今からでも感謝の気持ちを伝えるべきだと思う。


(プレゼントでもしようかなぁ……言葉も大事だけど物のほうが気持ちが伝わりやすそうだし)


言葉だとレベッカはいつも(表面上は)ツンツンしているため素直に受け取ってくれない可能性もある。

その分、物のほうがレベッカも喜んでくれるんじゃないかと思う。


(まあレベッカのプレゼントを考えるのは後だ。まずはこっちを片付けなくちゃな……)


俺たちは足を止めると上を見上げる。

ここらへんでは一番大きい三階建ての建物、それがこの街にある唯一の図書館だ。

街に一つしか図書館が無いかわりに本の種類も数も多く設備も充実している。

俺達は中に入ると温かい空気に体が包まれる。


「はぁ……あったかいわね」


「ああ。魔道具様々だな」


空調が効いた館内を歩き最上階へと向かう。

三階にいろんな学術書や魔法書が管理されているのだ。


「相変わらず本が多いわね……」


「本が無かったら図書館じゃないだろ。魔法書はあっちだ」


俺は魔法書の棚に行きテイムの魔法書を引っ張り出す。

今持ってるだけでも五冊以上あるがまだまだある。

魔法書とは論文みたいなものなのでいろんな人が発表しているのだ。

その分自然と数も増える。

俺は魔法書をテーブルまで持っていってゆっくりと下ろす。


「お、多いわね……」


『魔法書っていつ見ても分厚いよね……それをいつも読んでるライアンってすごい……』


「まあ一つずつ片付けていくしかないだろう」


俺は一番上にあったものを手に取ってレベッカの向かいの席に座る。

そしてパラパラとページをめくり始めた。


『むぅ……朝みたいに隣に座ってくれればいいのに……』


レベッカは心の中で不満の声を漏らしつつも魔法書を取って読み始める。

俺はたまに聞こえてくるレベッカの声を極力意識の外に追い出し集中して本に目を走らせる。

しかし使役する方法は書いてあってもお目当ての使役を解除する方法は見つからない。

探すのは簡単な道じゃないとわかっていても魔法書を一冊読むだけで時間も労力も使うのでかなり精神的に来る。

俺はため息をついて本をテーブルに置いた。


「も、もう読み終わったの……?」


「ん?まあな。残念ながらこの本には解除の方法は書いてなかったよ」


俺は肩をすくめながらそう言う。

レベッカはどこかほっとしたような残念なような複雑な表情をした。


「あ、でもあれはやらないわけ?いつもどんどんめくって絶対読んでないでしょって速さで読むじゃない」


「斜め読みの速読のことか。あれは内容を熟知するために使うものじゃなくてさらっと流れだけ確認するために使うものだ。今回みたいにどんな小さなヒントも見逃したくない状況だと使えないんだよ」


『よ、よくわからないけど今はやらないんだね……』


「まあ地道に読んでいくしかないってことさ」


俺はもう一冊本を取りページをめくり始める。


◇◆◇


しばらく集中していた俺はレベッカの声が頭によく流れ込んでいることに気づく。

少し集中を浅くしてレベッカの声を聞いてみる。


『はぁ……真剣に本を読んでるライアンってカッコいい……真剣な眼差しなのにどこか目が輝いてるっていうか……』


どうやら俺の顔を見ているらしい。

生まれてこのかた顔がカッコいいなんて言われたことは無いがどうやらレベッカは違うらしい。

まあレベッカ以外の女の子と遊んだことないし当然と言えば当然だが。


「……そろそろ休憩するか?」


「きゃっ!べ、別に大丈夫よ」


俺が集中して本を読んでいるから話しかけられるとは思っていなかったらしくレベッカは可愛らしい悲鳴を小さく上げた後、頬を朱に染めそっぽを向く。

……全く素直じゃないなぁ。


「レベッカも慣れない魔導書を読んで疲れただろ?効率よく読むためには適度に休憩を挟んだほうが良いし俺も少し疲れたんだ」


「な、なら仕方ないわね。休憩しましょう」


レベッカはようやく首を縦に振った。

なんだかんだ疲れていたのだろう、目には疲れの色が見える。

それでも見れば一冊は読み終わってるのでかなり頑張って読んでいると思う。


「腹減ったな。どこか飯でも食いに行くか?」


「あ、そ、それなんだけどさ……」


レベッカは下を向いてもじもじと足をこすり合わせる。

頬は染まって恥ずかしそうにチラチラと俺を見てきた。


「どうした?」


「サンドイッチ作ってきたんだけど……一緒に食べないかしら?」


さっき言ってたのはこれか!

レベッカの手作りサンドイッチか……

昨日のシチューも本当に美味かったし食べたいと思っている自分がいる。

それにわざわざ作ってくれたんだからこんなの頂く一択だろう。


「ありがとう。じゃあいただこうかな。図書館は飲食禁止だから外に行こう」


俺達は本を片付け近くにあった公園に向かう。

日当たりの良いベンチを見つけそこに座って食べることにした。

レベッカがバッグからかごを取り出し開くと中には美味しそうな具沢山のサンドイッチが丁寧に詰められていた。


「美味そう……食べてもいいか?」


聞くとレベッカはコクンと頷いた。

俺は近くにあった卵のサンドイッチを掴み頬張る。

卵の優しい甘みが調味料で整えられていてパンに合う。


「すごく美味しいよ……わざわざ作ってくれてありがとね」


「べ、別にライアンのために作ったわけじゃないんだから!私が食べる用の弁当を作るときに余っちゃったから入れただけ!」


『美味しいって食べてくれて嬉しいな……今日早起きして作ってよかった……』


どう考えてもレベッカ一人では食べ切れない量のサンドイッチと心の声。

その両方ともが明らかにサンドイッチが余っただけでないことを物語っていた。

俺は素直じゃないレベッカに苦笑する。


「……くしゅんっ」


しばらく食事を楽しんでいるとレベッカが可愛らしいくしゃみをする。

いくら上着を着ていると言っても季節は冬。

風が無いだけマシだが外は寒い。

俺は自分の上着を脱いでレベッカにかけた。


「ほら、これでも着とけ」


「え、でもそれだとライアンが……」


「いいんだよ。ちょうど少し暑かったところだ」


俺がそう微笑みかけるとレベッカも小さく笑う。

上着を脱ぐと流石に少し肌寒いが耐えられないほどじゃない。

それよりもレベッカが風邪をひくほうが嫌だった。


「……ありがと」


「なんのことだか」


『ライアンの匂いに包まれて温かいし安心する……まるで抱きしめられてるみたい……』


俺達は少し肌寒いが穏やかな昼のひとときを過ごした。


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