第5話 賑やかな朝

レベッカと星空の下で話した次の日のこと。

俺は外から差し込んでくる朝日で目を覚ます。

昨日から引き続き天気は良いようだ。


「ふぁわぁ……起きるか……」


まだ冬で寒い季節なので布団の魔力には逆らい難いが今日から図書館に通って調べ物をしなくてはならない。

まだ時間に余裕はあるが初日から遅刻すれば後日もズルズルと遅刻する未来が簡単に見えてしまう。

それに遅刻したら確実にレベッカに怒られるしな。

俺は名残惜しいが自分で布団を剥ぎ取り立ち上がる。

あくびを噛み殺してリビングへ向かった。


「ふぁぁ……おはよう……」


「あら、おはよう。思ったよりも早かったわね」


「おはよう。ライアン」


ん……?今俺の家にいるはずのない人の声がしたんだが……?

俺は目をこすってしっかり開くと母さんとレベッカがダイニングの席に座って俺を見ていた。


「は……?なんでレベッカがここにいるんだ!?」


「うるさいわよライアン。朝から叫ぶのは近所迷惑だわ」


「私がさっきたまたま外で会ったから呼んだのよ〜。話を聞いてみたらライアンと一緒に図書館に行くって言うからちょうどいいなって思ったの」


なにこんな朝早くから呼んでくれちゃってるんだよ母さん……

レベッカも断らずちゃっかり来ちゃってるし……


「眠そうね。ライアン」


「ああ、まだ起きたばかりだからな……」


『寝癖付いてる……いつもキリッとしてる分こういう可愛らしいところを見るとキュンとしちゃうよぉ……さっきの眠そうなトロンとした目も可愛かったなぁ……』


なんか男としてすごく不名誉なことを言われている。

寝癖見てキュンとしちゃうってなんだよ……

俺は髪をかきため息をつく。


「……顔洗ってくるよ」


「はぁ……髪だらしないことになってるからしっかり直しなさいよね」


『直っちゃうのは名残惜しいけど……教えてあげないとだめだよね』


俺は洗面台に移動し顔を洗う。

冷たい水が俺の意識を完全に覚醒へと導いてくれた。

すっきりした俺は手鏡を使って寝癖を直していく。

寝癖が残ってて可愛い、なんて思われたらたまらないので俺はいつもより丁寧に直した。

念入りに寝癖が残ってないか確認しリビングに戻る。


「ただいま」


「あらおかえり。綺麗に直ってるじゃない」


『なくなっちゃった……ちょっと残念』


念入りにやった甲斐あってレベッカの寝癖審査を突破した。

やってやったぜ感がすごい。

だらしなく思われるのが嫌だ、なんて思うのは俺達の長年の関係から今更だと言えるが男として可愛いと言われるのはなんか嫌だった。


「すっきりしたみたいね。ちゃんと起きてくれて良かったわ。もしあなたが起きないようだったらレベッカちゃんに起こしに行ってもらうところだったし」


「は!?」


「えっ!?」


俺とレベッカが同時に驚きの声を上げる。

どうやらレベッカも聞いていなかったらしく可愛らしい小さな口がぽかんと空いていた。


「男の部屋に未婚の女性入れて起こさせるとかありえないだろ!?」


「手を出すならあなたが責任取ればいいじゃない。多分そうしたらレイラも喜ぶだろうしそもそもレベッカちゃんとのデートがあるんだったら自分で起きないとだめでしょ」


普段は穏やかな母がニヤニヤと笑う。

こういうときだけおばさんに似やがって……!

からかい好きなところがおばさんとは気が合うんだろうな。

息子としては全然嬉しくないけど!


「て、手を出すって……」


『責任を取ってライアンが嫁にもらってくれるってこと……!?それならアリかも……?大きくなったライアンの寝顔見てみたいし……』


完全にレベッカは妄想の世界にトリップしてしまっていた。

援軍は見込めないか……

でもここで釘を差しておかないと本当にレベッカが起こしにやってくる可能性がある。

俺の母さんはそういう人だ。


「とにかく!レベッカを使って起こすのだけは絶対にやめろよ!」


「はいはい。そんなに騒がないの」


誰のせいだと思ってるんだ……!

俺の恨みの籠もった視線を何事もなかったかのようにスルーした母さんはキッチンに立つ。


「朝ご飯食べるでしょ?」


「ああ。よろしく」


「レベッカちゃんはもう食べた?」


「あ、私はまだ……ライアンが起きたら家に帰って食べようかなって思ってて……」


レベッカの言葉に母さんの目がキラーンと光る。

まるで獲物を狙うハンターの目だ。


「それならちょうどいいからうちで食べていきなよ〜」


「え?でもそれは流石に悪いと言うか……」


「何を水臭いことを言ってるのよレベッカちゃん。あなたは私達のもう一人の子供みたいなものなのよ。それに……もうすぐ義理の娘になるんだっけ?」


俺は飲んでいたお茶を思わず吹き出す。

そして近くにあったタオルを取って慌てて拭いた。


「母さん……?」


「あはは、ごめんごめん。それは冗談として朝ご飯くらいは一緒に食べていきなさいな」


レベッカは困ったようにこちらに視線をやってくる。

でも俺にはどう考えても母さんがレベッカを逃がすとは思えなかったので静かに首を横に振った。

そして口パクで諦めろ、と伝える。


「わかった……じゃあ朝ご飯いただきます……」


母さんは意気揚々とキッチンに戻り朝食を作り始めた。

俺は諦めてレベッカの隣の席に手をかけ座る。


「な、なんで隣に座るのよ……」


「ここがいつもの俺の席なんだよ。嫌なら向かい側行くけど?」


「べ、別にいいわよ。私がお邪魔してる側なんだから」


『2日連続でライアンの隣の席でご飯……嬉しいな……』


◇◆◇


「はい、できたわよ。好きなだけ食べてね」


「わぁ……ありがとうおばさん……!」


母さんが作ったのは昨日余ったレベッカのシチューをリメイクしてグラタンにしたもの。

それを大皿から自分でとって好きな分だけ食べられるのだ。


「「いただきます」」


俺とレベッカは手を合わせて食べ始める。

昨日のシチューも美味かったがこれもまた違う美味しさがあって甲乙つけがたい。

朝からこれが食べられるのはすごく幸せなので仕方ないから母さんに散々からかわれたことは水に流すとしよう。


「美味しい……!まさか昨日のシチューがこんなに美味しくなるなんて……!」


どうやらレベッカもお気に召したようで美味しそうにグラタンをぱくついている。

うん、その気持ちはよくわかるぞ。


「おばさんは天才ね……こんなの思いつきもしなかった……」


「ふふ、ありがとう。でもその言葉はうちの息子に言ったげて」


「え?」


母さんがニヤニヤと、レベッカが不思議そうな目で俺を見てくる。

わ、わざわざ言いやがった……

俺は母さんを軽く睨むがやっぱり効いた様子はない。


「ねえどういうこと?ライアン」


「そのグラタンのレシピはねぇ、ライアンが作ったのよ。昨日のレベッカちゃんが作ったシチューがよっぽど気に入ったみたいでもっと合うレシピを考えてくる〜って部屋に籠もったと思ったらこのレシピを渡してきたのよ」


「ライアン……」


『すごく嬉しい……!昨日美味しいって言ってくれたけどそこまで気に入ってくれてたなんて……!はっ!?いけないいけない!油断してると顔が緩んじゃう……!』


全部言われてしまって気恥ずかしくなった俺はそっぽに向いてレベッカから顔が見えないように隠す。

顔が赤くなっているのが自分でもわかる。


「あらあら照れちゃって」


過去最高に母が恨めしくなった朝だった。


───────────────────────

ライアン'sマザーとレベッカが少しわかりづらいかも?

口調とか結構似てるし……

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