第4話 思い出の場所と俺の気持ち

俺達はしばらく歩き続け街の離れの方にある丘に来ていた。

今は季節じゃないから咲いていないが春にここに来ると満開の花畑となるのだ。


「本当に久しぶり……」


「そうだな。レベッカと一緒じゃないとここに来ることもないし」


ここは小さい頃、よくレベッカと一緒に遊びに来ていた思い出の場所。

走り回ったり花で冠を作ったりいろんなことをして遊んだものだ。

今ではあまり来なくなってしまったけどもここでの思い出は色褪せない。


「ねえライアン……それってさ、私以外とはここに来てないってこと?」


「ん?まあそうだな。少なくとも俺の記憶にはないよ」


「ふ、ふーん」


『ここでライアンとの思い出がある人は私しかいないんだ……ちょっと、ううん。かなり嬉しいかも』


相変わらずレベッカの声が頭の中に流れ込んでくる。

便利と言えばいいのか申し訳ないと言えばいいのか……


「ちょっと座ろう。多分話は長くなるだろうから」


「わかったわ」


俺が草原に適当にあぐらをかくとレベッカは俺の隣に上品に腰を下ろす。

たまに粗暴になることもあるが基本的にレベッカは品が良い。

お嬢様としても通用するんじゃないかって思うくらいだしおばさんたちの教育がいいのだろう。

俺は本を読むことでマナー自体は頭に入ってるが実行しようとすれば話は別だ。

それに気を遣いすぎるのも疲れるしな。


「レベッカに着いてるその首輪、あー……首輪って言い方も誰かに聞かれたら面倒なことになるかもしれないしこれからはチョーカーって呼ぶことにするか。チョーカーなんだがもしかしたら外れるかもしれない」


「えっ!?本当に!?」


『せっかくライアンの眷獣ものになれたのにもう外れちゃうの……?』


え?外したくないの?

結構俺真剣に仮説を立てながら考えたんだけど?

ま、まあいいや。

とにかく話を進めよう。


「まずそのチョーカーは俺のテイムによって着いている。そこはまずいいな?」


「ええ。このチョーカーどう頑張っても外れないもの。魔法の力によって着いてるのは間違いないしライアンの魔法で間違いないと思うわ。き……キスだってしちゃったんだし……」


レベッカは顔を赤くして恥ずかしそうに言う。

俺も意識していなかっただけで改めて思い返すと少し恥ずかしく顔が熱を帯びる。

俺はごほん、と一つ咳払いをして話を続ける。


「それなんだがそもそもテイムの効果は知ってるか?」


「え?使役することじゃないの?」


「それはそうなんだけど……使役したことでどんな恩恵を受けられるのかって話だよ」


「え、えーっと……ごめん。知らないわ」


うん、やっぱりドマイナーなんだな、この魔法。

なのに使えない魔法、という意味で知名度調査したらみんな知ってるなんて不憫だな……


「使役すると眷獣と心を通わせテレパシーみたいなもので会話ができるようになるんだ」


「え……?でも……」


レベッカの言わんとすることはわかる。

俺は大きく頷いた。


「聞こえてないだろ?なのに首輪だけが顕現してしまっている」


「ということはもしかして魔法が完璧な形で発動してないってこと……?」


レベッカが俺が考えに考え抜いた仮定にたどり着く。

なんだかんだレベッカは要領がいいというかなんでも出来ちゃうタイプだからな。

少しヒントをあげれば自力で俺の言いたいことを察してくれる。


「なんらかの原因で完全な形でテイムが発動したわけじゃないんだろう。それに獣人を使役できた前例は聞いたことがない。もしかしたらそこにも何かあるのかもしれないな」


「そ、そうなんだ……」


『よかったぁ……心の声がライアンに聞こえてたらどうしようって思っちゃったよぉ……』


俺はレベッカの心の声が聞こえることをあえて伏せていた。

その理由は単純。

それを言ったらあまりにもレベッカがかわいそすぎる。

心の声というものは口と違って嘘を吐くことは絶対にできない。

防ぎようもないものをわざわざ聞こえてるよ、と言って精神ダメージを与える必要はないのだ。

レベッカが俺の心の声が聞こえていない時点で完全に魔法が発動していないのは事実なんだし。


「本来ならばテイムは術者か眷獣が死ぬまで契約は解かれない。だが完璧でないならば……」


「解けるかもしれないってこと?」


「まあそういうことになるな。方法もわからなければこの仮説が正しいかもわからないから断言はできないけど」


だけど俺は十分に可能性のある話だと思っている。

獣人の使役なんてことが実現してしまうくらいにはこの世界は広い。

どこかに解く方法だってあるはずだ。

幼馴染を眷獣しているなんて俺の罪悪感もひどいしレベッカが望んでいようと心の声が漏れ聞こえている時点でプライバシーもへったくれもない。

解除してあげるべきだろう。


「それでライアンはその可能性を模索してみたいってことよね?」


「まあそういうことだな」


「ライアンの眷獣なんてすぐにでもやめたかったしちょうどいいわね」


『うぅ……私としては複雑だなぁ……解いて欲しいような解いてほしくないような……やっぱり解かないでほしいかも』


心の声は聞こえない設定になっているのでこの言葉を拾うわけにもいかない。

レベッカは口では早く解きたいと言ってるわけだし解く方向で話を進めていくしかない。

そもそも簡単にそんな方法が見つかるわけないので早めに探しておいて損はないのだ。


「俺は明日から図書館で本を探してみようと思う。この街の図書館にはなかったと思うけど見逃していたらまずいしな」


「ふーん。ならそれ仕方ないから私も手伝ってあげる」


「え?いやそれは助かるけどいいのか?探すのは魔法書だぞ?」


レベッカは文字の読み書きはできるがあまり好きではないタイプ。

俺と一緒に図書館に行っているときは絵が付いていて文字が大きめな本だったりラブロマンスなどのいわゆる娯楽系の本ばかりを読んでいる。

今回探そうとしているのは分厚くて文字だらけの魔法書なので読み慣れてない人が読むと疲れるのは間違いない。


「いいのよ、別に。私だって早くこれ解いてライアンから開放されたいんだから」


『どうせ解いちゃうならできるだけライアンと一緒にいたいもん。それにライアンが頑張ってるのに私だけ知らんぷりなんてできないし……』


俺の頭の中にレベッカの声が響く。

それは健気で心優しい少女の本音。

俺は思わず微笑みがこぼれてしまう。


「……何笑ってるのよ」


「いや?手伝ってくれるなんてレベッカは優しいなって思って」


「〜〜っ!!そ、そんなんじゃないから!」


レベッカはぷいっと顔をそむけてしまう。

だけどちょこっと見える耳が赤くなっていた。

本当、素直じゃないなぁ……

俺は苦笑して空を見上げると星がすごく綺麗に輝いていることに気づいた。


「ねえレベッカ。空を見てみてよ」


「え?わぁ……!」


レベッカは俺の言った通り空を見上げると目を輝かせる。

……昔から星を見るのが好きだったもんな。

星座の名前とか聞かれたけど答えられなかったのが悔しくって図書館によく通って星の本を読みまくったっけ。


「きれい……!」


「そうだな。今は冬だから空が澄んでて星がよく見える」


「うん……!」


『ライアンと一緒にこんなキレイな景色が見れるなんて……今度は恋人として一緒に来れたらいいな、なんて……』


恋人、ねぇ……

俺は自分の感情が一番よくわからない。

俺はレベッカのことをどう思ってるんだろう……

恋に興味が無いわけじゃないけど恋がどういうものかわからないのだ。


楽しそうに星を見ているレベッカを見てそんな自分が少しだけ嫌になった。


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ラブコメ日間3位!

総合日間29位!

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