第41話 通りがかりの暗殺者

「これで終わりだ!」

「ギュルルルッ!?」


 街に入って見つけたリザードマンにとどめを刺す。不法侵入して攻撃を仕掛ける。


 リザードマン側からしたら蛮族でしかない。死体が見つかれば間違いなく大騒ぎになり、犯人探しが行われる。


 ファンタジー作品における事件の幕開けはこうして始まる。平和な街に突如、現れた殺人鬼。物騒な世の中になったと市井で噂になる。


 これは始まりに過ぎない。そんな一面で新聞に飾られる。


「盗賊がなんで密かに侵入するかわかったよ」


 ボクはいま、とある家の屋根でうつ伏せになっている。じーっと動かずに身を潜めてる。理由は大騒ぎのリザードマンたちがいるからだ。


 颯爽と現れて倒すまではよかった。死体を回収して顔を上げると、あわあわと震え上がっているリザードマンがいた。そのリザードマンは目が合ったすぐに悲鳴を上げた。


 仲間を呼んだか、なんて呑気なことを言っていたら、そのリザードマンの後ろから軍勢が現れた。早すぎる応援に盗賊も一目散に逃げる。そして今に至るわけだ。


「こうして見ると、リザードマンって人みたいだね」


 眼下でリザードマンの警察が住民に事情聴取をしている。震えるリザードマン。


 周囲に集まってきた野次馬がなんだなんだとひそひそと話している。人間味のあるリザードマンに森での行動に疑問を持つ。


「あれってさ、もしかしてピクニックしに来てた?」


 人参太郎:『槍持ったリザードマンしかいなかったぞ?』


「ボクらだって木刀持って旅行するじゃん」


 人参太郎:『お前、修学旅行で木刀とかドラゴンの剣とか買ってたのか』


「買うだろ」


 人参太郎:『ナカーマ』


 男ならわかる共感に心を打たれる。裁縫セットもかっこいいドラゴンの絵柄が入っていた。さっき談笑してたリザードマンは槍を持っていなかった。コボルトの棍棒みたいに生まれつき持ってる者ではない。


「よくよく考えたらさっきのリザードマン弱かったな。あれは一般人だったのかな?」


 人参太郎:『でも殺るんだろ?』


「もちろん。カミラさんたちと敵対してる時点で友好になれるなんて考えてないから」


 リザードマンは金になる。魔狼も金になる。レベルを上げる糧になる。理由は探せばたくさんある。人間味があるから殺らないなんて優しさは持ち合わせていない。


「移動するよ。ここは安全じゃないからね」


 屋根伝いに移動する。浮力の腕輪の切り替えでジャンプから着地までが安定する。もし空中に物を設置できたら、空中バトルができる。


 結界師のルーンがあるのを蒼汰かクルシュから聞いた覚えがある。やる機会があれば一度試してみたい。


「この街にも時計台があるんだ」


 鐘の中にルーンがある可能性がある。時計台は自然豊かな公園の中にあった。昔は芝生だったかもしれない。そんな土地がいまでは森になっている。不思議なことに森の中にリザードマンの姿はなかった。


「あれかな」


 時計台の下は教会になっていた。建物に天空竜の紋章が刻まれている。手の甲の紋章が反応する。中に入ってみると、朽ちた木の椅子が並んでいる。湿気の多いこの街ならこうなってても仕方ない。


 教会の奥は礼拝堂になっていて、正面に女神像がある。ここは荒らされていないのか、綺麗な状態で残されている。ゲームの序盤と同じく祈りを捧げてみる。


「なにも起こらないか」


 祈ることでなにかイベントが起きるかと期待していたが、今回はなにと起きなかった。別の場所でも起きないとは限らない。また挑戦してみよう。


 教会があるなら、あの魔法陣があるかもしれない。中を探検してみると、本棚があった。残念ながら目新しい本は1冊しかなかった。他はすでに読んだことがあるものだった。


『湖上都市アザレアの観光案内』の本にはこの地の観光名所が描かれていた。景色が綺麗なところ、有名なお屋敷、それから領主館。観光するにはあまりテンションが上がるものではなかったものの、ボスがいそうな場所は絞り込めそうだ。


「お、マップが更新されてる」


 今まで港と呼んでいた場所は、貿易都市ローレリア。今いる場所は湖上都市アザレアという。島の分布が少しずつ明確化されていく。西に向かえば山岳地帯があり、北に向かえば草原がある。南は湿原地帯になっている。東は港だ。


「これで迷子にならないな」


 マップがあるかないかで迷子になる確率が下がる。日常で地図を使う場面が多々ある。テーマパークやショッピングモールに行くときこそ、地図のありがたみを一番感じれる瞬間だ。


「地図に魔法陣の位置が記されてるな。ここまで書いてくれるのか」


 魔法陣は教会の外にある。魔法陣は池の中にあった。魔法陣の上に立つと紋章と白紙の本が反応した。ページにさっき死んだことも記録される。死んだ記録を見られるの恥ずかしいだろうなって思う。


 昨日蒼汰が海に落ちて死んだこともしっかり記録されてると思うと笑える。セーブを終えると白紙の本が新たなページを開いた。そこには今いる湖上都市アザレアと貿易都市ローレリアが記されていた。


「これ、もしかして?」


 貿易都市ローレリアを押すと、魔法陣が輝き出した。視界が光に埋め尽くされる。眩しすぎて目を閉じる。


「なんだこれ!?……え?」


 目を開くと、そこは廃れた教会だった。マップを見ると、ローレリアにいた。


「この魔法陣って転移もできるのか!これで往復が楽になったな。まだ探索するから戻ろう」


 湖上都市アザレアを選択する。


「あれ?発動しない?……えっと、転移するのにエネルギーが足りない?」


 ページの右下に注意書きがあった。1回の発動に魔石1つが必要と書かれている。便利の代償だ。これくらい惜しまない。カミラに解体してもらった魔石がある。


 魔石を捧げると、転移可能回数が1回分増えた。手持ちの魔石はなくなった。アルカナに帰る前に、リザードマンの解体をカミラに頼む必要がある。忘れないように心のメモをしておく。


 アザレアを選択して転移をすると、教会前の池に戻ってきた。往復して気がついた。そろそろ現実でお昼の時間になることを。


「昼休憩はもうちよっと遊んでから行くね」


 人参太郎:『好きなだけ休んでくれ』


 忘れないうちに教会の上にある時計台の鐘を見に行く。


「ないなぁ」


 鐘の中にはルーンがなかった。その代わり、隠すように置かれていた小さな箱の中にはルーンが入っていた。


「このルーンは、何のルーンなんだろう?」


 正体不明のルーンが増えた。


「これってさ、鑑定しないといけないのかな?」


 ルーンの正体がなんであれ、ほとんどのルーンを持っていない状態なら損はない。たまたま手に入ったものがなくなっただけ。


「迷うほどでもないか。使ってから考えよ」


 正体不明の飲み物を飲んで体調が悪くなる。中身のわからないプレゼントを開ける。地雷のある公園で散歩する。この決断にそれほどまでの危険性を含んでるとは思えない。


「使用っと」


 なんでもいいからやってみた結果、新しくルーンジョブに貴族が増えた。


「なにこれ?き、貴族?」


 ーーーーーー

【嘉六のステータス】

 名前:嘉六

 レベル:12

 称号:【天空竜の祝福】

 体力:65/65

 魔気:10/10

 闘気:2/2

 筋力:17

 速力:12

 知力:14

 能力値+0

 【ルーン】

 仙人 闘気(自己のルーン)

 レベル1:腕輪の型

 暗殺者 魔気(回帰のルーン)

 レベル1:短剣の型

 貴族 聖気(???のルーン)

 レベル1:手袋の型

【所持品】

 お金:−6万リン

 ルーン:不明1

 ーーーーーー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

竜核の異端者 のんびり屋 @NOEAT-EAT

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ