2話:私は作家になりたいんですの!
「もし…それで食べていける未来があるのなら、それを目指そうと思います。」
私は、握り拳をプルプル震わせながらお父様にそう宣言する。
「本気で言っているのか?そんなことのために今まで縁談を蹴ったとでも言うのか!?」
お父様はそんな私を見て本気だと分かったのか、大きく目を見開き私にそう聞いてきた。
ここで引いてはいけない、ここで引いたら作家になんかなることはできない。
私は絞れる勇気は全て振り絞って、本音をお父様にぶつける。
「そうです!たとえいい縁談がこちらに舞い込んできたとしても、一生受けるつもりはありません!私、サルビア・ファリセアは作家になりたいのです!」
「そんな勝手が許されるか、貴族の義務だぞ!なんのためにここまで育てたと…恩を仇で返すつもりか!」
確かに、貴族の義務を持ち出されてしまったら私はお父様のいうことを聞かざるを得ない。
でも、逆に言えば『恩を返せばいい』ということになる。
だからいつかお父様にこの話をする日が来たらやろうと思っていた作戦を、今決行する事にいたしました。
「もちろんタダでとは申しません、育てていただいた恩は返させていただきます。」
私は一度クローゼットへ向かい、そこにあるトランクを取り出すと
お父様の前までそれを持っていき、トランクの鍵をあけて中身をお父様に中身を見せました。
その中には金品の山、まぁまぁの大金にお父様は口をあんぐりと開けて驚いた。
「これは、今までお世話になった分のお金です。
20年分の学費と食費・家賃・使用人への給金だと思ってお納めくださいまし。」
「お、お前、このお金どこから…」
「最近株を嗜んでおりまして、最近まで続けていた皇女様の礼儀作法の家庭教師の給金を元出にがっぽり儲けました。
これだけの金額があれば、育てていただいた
残念ながら時間と手間は返せないし、結べるはずだった縁はなくなりますけど
その分のお金代案を出せば、お父様もぐうの音もでないはずですわ。
でも、お父様はまだ諦めませんでした。
「いや、まだだ。金銭面で恩を返したとしてもだ!生まれだけは変えられん!
貴族に生まれた以上いい身分のものと良縁を結び、子宝に恵まれ、そしてこのファリセア家に富を与える、それが貴族の義務だ!」
そう言って私の言葉に反撃をする。
まぁ、確かに私は貴族の義務を果たさない事になる。
しかし、その義務を果たさなければならないのか…と言われると少し微妙ですわね。
「それはごもっともですが…家は健康な7人兄弟で私含め娘が5人。
姉2人はすでに嫁ぎ、妹たちは一人は婚約者がいますしマーガレットだって話が舞い込んできている。
4人も縁が結べれば十分でしょう?あってない様な義務じゃないですか。」
「人数の問題じゃない、お…女は黙って結婚しろ!」
「女は嫁ぐときに持参金が必要でしょう?
1人でも多額なのに5人ともなると…金銭面で苦労されているのでは?」
「!」
お父様は少し苦しそうな顔をする。
図星なのでしょう。
一応貴族ではあるのでお屋敷に住んで使用人雇うだけのお金は十分にある。
しかし、5人分の持参金出費は流石に苦しいはずなのです。
私は、既に嫁いだ姉2人のように美人ではない、
妹たちのように、女性らしい口調と性格ではない。
茶髪癖っ毛に紫の瞳で容姿も地味な3女、この性格と口調の行き遅れ女、
普通に考えて貰い手がいない。
なんとか嫁ぐことができても、持参金は5人の中で1番高い額が必要になる。
だから、私が嫁がないくらいが、うちの財政的にちょうどいいのです。
「ちょうどいいではありませんか。
私1人くらい行き遅れたほうが、持参金が浮きますでしょう?」
もちろん、これは家のためを思って遠慮しての結論ではない。
たまたまそんな状況で、嫁ぎたくない娘がいた、と言うwin-winの関係のはず。
なのに父は私の言い分に、逆に怒ってしまう。
「金の話じゃない!お前のために言ってるんだ!」
親の心配だと言うことは頭の中ではわかってるけれども、人間というのは感情がある。
そして、それに対してムカつくという感情が生まれるのは致し方ない。
だから本当は、『私のためならほっといて、作家になりたいので縁談は受けません!』
と啖呵を切って終わらせようとした。
でも、その時
「うわーーーん」
マーガレットが大声で泣き始めた。
これは…チャンスですわ。
「ど…どうしたの!?」
「ごめんなさい!私のせで!
お父様とお姉さまを喧嘩させるつもりはなかったんです!」
「ま、マーガレット…」
お父様は、泣き止まないマーガレットをおろおろしながら宥める。
まさか、全く無関係のマーガレットが泣き出すとは思いもよらなかったのだろう。
どう宥めていいか戸惑っているようだ。
私はその隙をついてマーガレットに駆け寄る。
「ほら、お父様がそんなに怒るから、マーガレットがないてしまったではないですか!何も悪くないのに…」
私はマーガレットを抱き抱え頭をよしよしと撫で回す。
その様子を見たお父様も流石に罪悪感を感じたようで「すまん…」と謝った。
「とにかく、こんな状況では話し合いにもなりませんわ。
私、マーガレットをあやしにお庭に行ってまいりますわ、ついてこないでくださいまし。」
私はお父様に指を刺してそう言うと、マーガレットを抱えるとスッと立ち上がる。
「わかった……じゃなくて……!逃げるつもりか!」
「その通りです!では!」
私はお父様に返事をして、さっさと部屋から小走りで逃げたのだった。
行き遅れ令嬢は、作家になりたいので縁談はお断りです。 つきがし ちの @snowoman
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