第4話 モンスター

始まりの町を抜けると、森や広大な平原が広がる外の世界。


新たな冒険の始まりに心躍らすプレイヤーは少なくないだろう。


町の外の周囲には新人プレイヤーが付近のモンスターと戦闘を繰り広げている。


モッピーというモンスターは可愛げある姿をしながらも、戦闘になると一際怖さを増す。


初見だとその豹変ぶりに驚かないプレイヤーは居ないほど、数多くのプレイヤーを騙してきたモンスター。


だがその強さはこのゲームにおいて最弱の部類に入るほどに弱い。


更にモッピーから得られる経験値も良好で、新規プレイヤーが多く集まるのも納得がいく。


「ここも最初の頃と変わらないな。リリースしてから二年経つのにまだ新規プレイやーが多い。まだこのゲームも全盛期ということか」


例年と比べるとプレイ人口が増えているのは確かで、超人気大作として売れるだけ

ある【ライフ】の労働環境は極めて忙しいらしい。


タダノはそんなことがニュースでやっていたな、と思い出していると人通りが少ない舗装されていない道を進んでいくと、森への入り口が見える。


今現在、タダノはレベルアップの為でもと同時にクエストの行き先として森まで足を運んだ。


丁度良く同じ方向に行先表示が示されており、誘導に従い歩き続けた。


鳥の声や森の神秘的な空気、現実世界と錯覚しそうになるほどよく作りこまれた仮想現実空間。


森に入って危険すべきは、肉食動物に襲われるリスクと警戒。


このゲームにおいても、森に入れば人間を狙うモンスターがいる。

現に数体、物陰に隠れながら奇襲の機会をうかがっている。


この森は【ユグシル】という名の森で、別称として“人攫いの森”とも呼ばれ序盤のプレイヤーも滅多に近寄らない危険な森だ。


レベル一の状態でそんな森に入るのは自殺行為だろう。


しかし、タダノは知っている。

この森に潜む、とあるモンスターとの戦闘で得られる経験値が序盤で最も効率がいいということを。


知られていない情報ではないにしろ、わざわざ危険な森にまで来てレベルを上げようと森に入るプレイヤーは少ない。


「三体、か。そんな奇襲を仕掛けようとしなくてマップでバレバレだし、俺はいつだって大歓迎だぞ」


急に立ち止まりセリフを吐くと、しびれを切らしたモンスターが遂に姿を現した。


後ろから堂々と不意打ちをかますそのモンスターは、猿の姿をしたフォレストモンキーと呼ばれる森で生息するモンスター。


しかもそのモンスターの特性として、プレイヤーを最後までは殺さずにフォレストモンキーが得意とする状態異常スキルの麻痺スキルでプレイヤーを自分たちの巣へ攫い、作り上げた牢獄に閉じ込める。


悪質すぎるそのモンスターのせいで、初心者プレイヤーは愚かレベルが高くないプレイヤーもこの森へは近寄らないのだ。


そんなフォレストモンキーの後ろからの不意打ちはいつものように成功したと思われた。


「このゲームってレベル差関係なく攻撃を無効化できる“カウンター攻撃”が存在するんだ。なんで俺がトッププレイヤーって呼ばれていたか分かるか?その所以をお前の死を代償に見せてやるよ」


どんな攻撃、どんな強力な技であろうともジャストタイミングである限りその攻撃を無効化できるスキルが存在する。


どんなに高レベルのモンスターと戦闘になったとしてもそのシステムを利用すれば誰でも生き残れる可能があるスキル。


とはいえ、それを成功し続けなければならないという条件付きだが、不可能に近いプレイを可能にさせたプレイヤーがいた。


そのプレイスキルは誰よりも遙かに高く、横に並ぶプレイヤーもいないとされてきた唯一無二のプレイヤー。


そんなプレイヤーが今、初心者となって帰ってきている。


「パリィ―――」


トッププレイヤーとして名を馳せたそのプレイスキルは、初心者になろうとも未だ健在だ。


フォレストモンキーの不意打ちの攻撃はあっけなく無効化され、更に剣でのダメージを与えらえる。


流石にレベル差がある分、与えられるダメージが少ない。


フォレストモンキーの数は三体。

その相手を同時に相手しなければならないのはしんどいと感じる。


しかし、タダノは今この瞬間にして、最高に楽しんでいた。

まるでこの状況をものともせずに。


「ウギィ!」


フォレストモンキーのリーダーは指揮を取り始め、先程よりも攻撃が連携的に繰り出されるようになった。


パリィをし続けるタダノも、流石にフォレストモンキーの攻撃を食らえば致命的だ。


フォレストモンキーのレベルは20で、決してレベル1のプレイヤーが相手をしていい相手ではないだろう。


だが、もしフォレストモンキーの動きを熟知していたとしたら?

もし、プレイヤーが元トッププレイヤーだったとしたら。


限りなく低い確率かもしれないが、不可能ではないと誰もが思う事だろう。


タダノはパリィを続け、小さなダメージを与え続けやがてそのダメージが蓄積されていき、フォレストモンキーのHPも残り少しまでとなる。


フォレストモンキーは何故自分たちが押されているのか、疑問でしかなかった。


今まで攫った人間は弱く、自分たちを圧倒するほどではなかった。

だというのに、目の前の人間は何なのか。


フォレストモンキーにはこの事態を理解できない。


「どうした、さっきよりも動きが鈍くなってるぞ?」


実力的にも自分たちが上なはずなのに、どうして。


フォレストモンキーはタダノの挑発にイライラが限界に達し、怒りの攻撃が振るわれる。

だがそんな自慢の麻痺攻撃もすべてが無効化され、体力も底を尽きそうな勢いだ。


三体一の状況も、目の前の人間には無意味なのかと驚き戸惑うフォレストモンキー。


「身体が温まってきたところだけど、お前らよりももっといいモンスターがこの先にいるんだ。そろそろ終わりにしよう」


そう言って一番残りHPが少なかったフォレストモンキーを倒すと、タダノのレベルが上がった。


レベルアップの恩恵を実感すると共に、二体のフォレストモンキーは先程よりも距離をとった。


レベルアップしたことによって先程よりも気配が変わったことに、本能で感じた為か。


【ライフ】のモンスターやNPCは自立型AIを用いられており、モンスターの行動原理も知性ある生物に近い。


その為、今までのゲームとは違った戦闘体験ができる。


フォレストモンキーにも勿論、知性がある。

そんなフォレストモンキーの頭に浮かんだのは、逃走。


本能的に逃走本能が働いた。


フォレストモンキーはやられたモンスターを犠牲に、一刻も早く逃げなければとフォレストモンキーのリーダーはまだ生き残っている仲間も犠牲にしようとおとりにした。


自分が生き残るために。


おとりにされたフォレストモンキーはリーダーの意思を汲み取りリーダーのフォレストモンキーを逃がすため、自分が犠牲にされても尚タダノへ攻撃を続けた。


「素晴らしい忠心じゃん?」


リーダーを逃がすフォレストモンキーに褒め言葉を送ると、フォレストモンキーは雄叫びを上げながら勢いあるパンチを繰り出した。


「でも、脅威にはなりえない」


華麗に攻撃をパリィし、ある攻撃スキルを使う。


そのスキルはレベル1から使える基本スキル、スラッシュ。

通常攻撃の1.8倍の攻撃を敵にダメージを与える戦闘スキル。


レベルアップによって能力値が上がった筋力とスラッシュを組み合わせれば、今までの攻撃よりも強力なダメージを与えられる。


パリィで生まれたフォレストモンキーの隙は、スラッシュを打つのに絶好なチャンスだ。


タダノはスラッシュを発動させる。


剣にはスキルエフェクトがかかり、散々耐え忍びながら見つけた弱点に剣を振り下ろしその急所へと斬りつけた。


パリィの反動で反応に対応できないフォレストモンキーはただ自分に迫る攻撃をただじっと待つことしかできなかった。


先程よりも重くのしかかる攻撃は、フォレストモンキーの残りHPを削りきることに成功する。


倒されたフォレストモンキーはエフェクトとなって消えていくと経験値を落とし、またレベルが上がる。


レベルは1から9レベルへ一気に飛び級し、ステータスも高くなっている。

今から行うレベル上げはまだ本番じゃない。


逃げたフォレストモンキーを追うかと思ったが、時間が勿体ないと早々に諦める。

今はレベルが上がったことに満足して、タダノはお目当てのモンスターを探すことにした。

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