第3話 クエスト
そこは始まりの町。
新規プレイヤーや交流を求める既存プレイヤーが集まり、NPCもまるで生きているかのように生活をしている町。
この場所に訪れるのは、随分久しぶりになる。
「まずは回復ポーションを金が尽きるまで買いまくろう」
新規プレイヤーはスターターキットとして、初期装備やある程度のゴールドや食料品が支給品としてインベントリに存在する。
初期装備でしばらくはやっていけることから、今必要なものはHPを回復するポーション。
回復ポーションが売ってあるお店にマップを見ながらたどり着く。
「回復ポーションを二十本ください」
「まいどありー」
回復ポーションは一個当たり5ゴールドで二十本を買ったことにより所持ゴールドが100から0になり、お金が底を尽きる。
ゴールドはクエストやドロップ品を売却したりすればすぐに手に入る。
百ゴールドなんてはした金だ。
「さて、早速モンスターを討伐しに行こう...と思ったけど、その前にクエストを受注するか」
インベントリ内に回復ポーションが追加されたことを確認し、街を出ようと思ったが思いとどまる。
クエストは基本、交流NPCや冒険者ギルドと呼ばれるクエストを受注できる施設があるが、今回はストーリークエストを受注する。
ストーリークエストを進めることは自分を強くするのは間違いないが、行けるようになるマップも増え、やらなければならないクエストだ。
メインストーリーという分類に分けられるクエストも存在するが......
「懐かしいな。初めて会った時は少しビビってたっけ」
そんなことよりも、今はストーリークエストを受注することが先だ。
タダノは今から会う人物を懐かしみながら思い出す。
タダノが行き着いた先はこの町の訓練場。
木造建築で外からも中が見えるように、中からも外が見える。
その為、その人物を目当てに足を運ぶとその人物がこちらに気付き歩み寄る。
「てめぇ、ここいらじゃみねー顔だな?...いや、どっかで見覚えがあるか...?.....そんなことよりも、新しく漂流してきた野郎か?」
その人物の名は、デイビット。
顔に大きく深い傷が印象的で、ガタイも良く身長が2メートルもあるおじさんだ。
タダノも身長が低いわけではないが、デイビットと比べると少し小さく見える。
「初めまして、タダノです」
強面なおじさんだが、実際のデイビットの性格を知っているが故に、もう怖気づくこともない。
デイビットは眉をひそめながら言う。
「珍しいな、俺を見て怖がらねぇ奴は。肝が据わってるじゃねぇか!よし、そんなお前にこの世界での生き方ってのを教えてやるよ」
すると、ピコんッという音と共にクエストウィンドウが表示される。
「まずは今からあの訓練用のカカシを攻撃して、俺にお前の実力を見せてみろ」
カカシにダメージを与えて、実力を証明しろというクエストが開始され、デイビットが腕を組みながら様子を伺っている。
このクエストはただカカシに攻撃して実力を見せればいい、と初見ならだれでも考えるだろう。
だがデイビットか求めてる実力の証明はそれだけじゃない。
デイビットは長らく退屈していた。
今まで見てきた漂流人、つまりプレイヤーがデイビットの心を動かすような人材をしばらく見ておらず、昔のように将来性あるプレイヤーが最近になって訪れていないことに退屈を感じているのだ。
その原因は最近になって新規で入ってくるプレイヤーはモンスターと戦うよりも生活システムを遊びたい人やモンスター討伐以外の要素を遊びたいプレイヤーが多いからでもある。
デイビットは内心、今度の奴は少し期待できるか、とタダノを見ていた。
果たしてどういう結果になるのか楽しみでいる。
「それじゃあ、行きます」
タダノはインベントリから剣を召喚し、右手に構える。
とはいえ、立ち姿はただ剣を握っただけの姿勢だ。
デイビットは予想が外れたか、と眉間にしわを寄せる。
だが、その結果はデイビットを驚かせることになった。
タダノは剣先をカカシへ突き刺していく。
ただ無暗に突き刺しているのではなく、カカシの各部位の急所となる部分を一点に突き始める。
それも、今もてるレベル一の最大のスピードと一切のブレがない動作で。
これらの攻撃は一流であっても難しいだろう。
しかし、今までの経験とプレイヤースキルをもってして可能にさせる。
これが元トッププレイヤーの動きだ。
デイビットの眉間に寄せたしわはいつの間にか消え、目をまん丸にさせた。
まるで信じられないものを見る目で。
<クエストが完了しました>
クエストが完了したウィンドウが表示され、一分もしないうちにクエストは終了を迎えた。
デイビットは開いた口を閉じ、タダノへ言う。
「お前、ナニモンだ?今まで見てきた漂流者はみな、自分の実力を見せようと必死にカカシに攻撃していたもんだ。だが、お前は違う」
デイビットは問い詰めるようにタダノに言い寄り、言葉を続ける。
「カカシの弱点を迷いなく当て続けた。それも変動し続ける弱点を的確に...!お前みたいな奴は今まで......いや、一人いたな」
その人物は髪の色が灰色で、タダノよりも体格が一際小さいが遠く離れたこの町でも噂が届くほどのトッププレイヤーになった人物。
今までの人生で二度とない逸材だった。
「それは今はいい。一体全体お前は、何者だ?」
デイビットは漂流者を名乗る新手のスパイか、と疑っていた。
「何者でもないですよ。俺はついさっきこの世界に来たばかりなんです。ただ、戦いの経験は過去にもありますが」
「過去...そういえばそういう奴もいたな。だが、うーん...」
「信用できないって言うなら俺のステータスをお見せしますよ」
この世界ではステータスを他人に共有できることができる。
NPCも同様にプレイヤーのステータスを見ることができるが、NPCはプレイヤーではないため自分のステータスを確認することができない。
その為、プレイヤーだという証拠を出すにはステータスを見せるのが何よりの証拠なのだ。
そしてタダノはステータスをデイビットに確認させ、自分がプレイヤーだということを証明する。
「確かに偽りない証拠だ...。すまない、少し疑ってしまった。許してくれ」
「いえ、気にしてないので大丈夫です」
「しかし、お前のその才能は並みのものじゃない。今まで見てきた実力者の中でダントツだ」
デイビットは過去に見たまだ若きトッププレイヤーよりも才能があると確信していた。
反対にタダノは、過去の結果と比べるとなかなか良かったのではないかと自分を評価していた。
二週目となるとアドバンテージがあるよな、と思う。
「いいもんを見せてもらった。俺がお前に教えることなんてあるかわからんが...そうだ、折角ならお前に頼んでみるか」
そういうと、デイビットはその場を離れしばらく経って再び戻ってくる。
手には分厚い本を持ち、その本をタダノへ差し出した。
「これをある人物に渡してほしい。この町を出て西に行くと、古い建物がある。そこに住むアリーサという俺の
祖母がまだ生きているとは随分長生きだな、と思ったがそういえばとデイビットの年齢を思い出す。
いかつい見た目だが年齢はまだ二十代だ。
年齢と見た目のギャップがあるが、見た目で判断してはいけない人物を体現しているのは間違いなくデイビットだろう。
「悪いが引き受けてくれるか?この本は大事なもんでな。もし良ければでいいんだが」
すると、クエストを受注するかクエストウィンドウが表示される。
それも、今回は普通のクエストとは違い隠しクエストという部類に入る特別なクエストだ。
このクエストは過去にしても見たことがないクエストだ。
新たに追加された隠しクエストだろうか、と考えやらないよりもやった方が得だと思い承諾する。
「届けますよ。報酬は期待してますよ?」
「ああ、またどこかで会った時に追加で報酬を渡すと約束しよう」
クエストが無事承諾され、新たにクエストが追加される。
今回はクエスト報酬という項目に、デイビットの信頼度と経験値、そして次のクエストの追加報酬が追記されている。
「それじゃあよろしく頼んだ」
クエストを引き受けたタダノはデイビットと別れを済ませ訓練場を後にした。
本来貰うはずだったクエストが、まさかの隠しクエストになって貰ってしまったことで幸先は上々だなとほくそ笑む。
タダノはアリーサというデイビットの祖母の元へ目指し、町を出て西に進むことにした。
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