第2話 出会いとは突然やってくる物である


「お前ら、席に着け」


 と言って怠そうに教室に入ってきた俺を窮地から救ってくれた。20代後半と30代前半の間ぽい男性。このクラスの担任なんだろうか。


「このクラスの担任の高木だ。1年間よろしくな。ちなみに好きな物はカレーな」


その男性は教室に入ると、颯爽と自己紹介する。


名前だけでなく顔や好きな物までも普通だな。ちなみに独身らしい。まぁ、顔からして悪い奴では無さそうだな。


「早速だが、お前らには自己紹介をやってもらう」


 前言撤回、こいつ大罪人だわ。


 自己紹介……新しいクラスになるだび行われる恒例行事。クラスの人に自分を知ってもらい、相手を知り、クラスの仲を形成するために必要なことだと教師どもは語っているが、実際は違う。


 この自己紹介によって今後のクラスの立ち位置が決まってしまい、クラスの下位に属した人は上位の人間にいじめられてしまう。


 つまりいじめの元凶は自己紹介にあると言っても過言ではないだろう。

 いじめの火種を教師自ら撒くとはこいつ絶対、前世悪人だろ。

 そんなんだから独身なんだよ。


 いや、これは逆にチャンスとも言える。

 ここで上手くいけば夢の高校生活に一歩近づけるかもしれない。

 その為にも、今すぐ完璧な自己紹介を考えなければ。


「それじゃあ、出席番号1番の暁霞から頼む」


 おっと、神は俺に試練を与えるようだ。俺はなんも考えられず、席を立つ。


「暁霞朝陽です。好きなことは特にありません。よろしくお願いします」


 ………間違えた気がする。

もう少し何かあっただろ。


 陽キャラオーラをかましてお手本として相応しい自己紹介をするはずだったのに、クラスに絶対1人はいる自分の名前しか言わないやつになってしまった。


 俺みたいなのは、後半ら辺に出ることで存在感を消せるのだが、初っ端から登場したことで空気最悪よ。


 ほら見ろ。この教室の空気を、さっきまであんなに盛り上がってたのに今は氷点下だよ。あぁ、寒気がしてきた。


「はい拍手〜」


 先生は教室の空気など気にせず進める。

傍から見たら、無関心にも見えるが今の俺にはすごくありがたい。

次に回さず、『えっと。他に何か趣味とかはないのかな?』

なんて言われたら空気が重厚して俺が死んでしまう。


 以外と空気が読める先生なのだろうか。

この数十分で俺の先生に対する評価が変動している。


 そして、出席番号だけでなく空気感もしっかり引き継いで自己紹介が続く。


「次は、秋月頼む」


          ん?


 先生の言葉に俺は耳を疑う。何せ、その苗字は俺を振った幼馴染の苗字と同じだったからだ。


 とは言え、焦るのはまだ早い。同じ苗字の人間など結構いるだろうし、たまたま苗字が同じなだけの別人の可能性も充分にある。気になった俺は後ろの席を振り返えってみると、


「はい。出席番号2番、秋月明日香です。」


 俺の視界に写ったのは、違う高校に行ったはずの幼馴染の明日香であった。







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負け主人公の俺が真の青春を謳歌する えもやん @asahi0124

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