第一回さいかわ水無月賞 最終選考対象者の感想

 第一回さいかわ水無月賞にご参加いただき、誠にありがとうございました。


 今回の水無月賞もかなりのレベル高い作品ばかりでしたので、最終選考対象作品を選ぶだけでもかなり難航をいたしました。ですので、残った皆さんはそれだけで素晴らしい業績をあげたと思います。自分をたくさん褒めてあげてください。


 入賞はお渡しできませんでしたが、最終選考対象になりました作品につきまして感想を書かせていただきます。(更新順(古い方から))



由美の結婚/縦縞ヨリさん

https://kakuyomu.jp/works/16818093078340883700


ひとこと:名作でした。


 本作、非常に素晴らしい内容の小説で、子を持つ母としても考えさせらる内容でした。後述する佐倉島こみかんさんの「粗忽者に伝う」と肩を並べ、入選、それも高い場所に至るに十分なクオリティーを持っております。

 ご自身でもお感じになっていると思いますが、作品が上手であるがゆえにテーマ「雨」がやや薄まってしまいました。ですが、一作を通して大変すばらしい出来なのは間違いありません。

 ありがとうございました。


ア、雨/青切さん

https://kakuyomu.jp/works/16818093078444736156


ひとこと:大変よくまとまっている作品でした。


 本作、過去のドラマと現代のドラマがうまく描かれていて、そこに女の情念をからめた良い出来になっていると思いました。

 そして、テーマである「雨」も手堅く表現されており、青切さんらしい上質な作品になっていると思いました。

 特にここがダメというところがない分、賞をお渡しできないのが心苦しいのですが、次回も参加いただけるようでしたら、更なる力作で犀川を黙らせに来てやってくださいませ。

 ありがとうございました。


粗忽者に伝う/佐倉島こみかんさん

https://kakuyomu.jp/works/16818093078580094406


ひとこと:これもまた名作。

 

 前述した縦縞ヨリさんの作品同様、入選のそれも高い位置にいてもおかしくない名作と呼べる出来上がりでした。

 ただ、「こっぴどく、ふられた。」など、ところどころ上手く雨を使ってはいるとは思うのですが、他の受賞作品と比べてしまうとテーマへのインパクトがやや薄いような気がいたします。

 小説として一流であり、登場人物二人の雰囲気も最高であることは間違いありませんので、今後も是非、頑張ってほしいと思います。

 ありがとうございました。


Farewell Word ~愛しき貴女に贈る言葉~/雪広ゆうさん

https://kakuyomu.jp/works/16818093078711423420


ひとこと:中盤でのテーマの打ち出し。


 本作、わたしが好きな百合具合で、地の文がたっぷりなところも非常に好みな作品でした。

 内容も終始一貫していて、読者を物語の世界に引き込ませるにたる実力がありました。やはりこれだけ地の文が書けるというのは非凡な証だと思います。

 惜しいのは地の文が非常に優秀な分、物語の起伏が読者に伝わりにくいことでしょうか。中盤あたりでテーマ「雨」をもうひとつくらい、ストーリーに絡めれられれば最高でした。

 これは上手な作家であればこその罠なので、解決方法がなかなか難しいのですが、雪広さんくらいの実力があれば更なる向上は可能だと思いますので、是非とも頑張ってほしいと思います。作品としては非常によく書けていました。

 ありがとうございました。


時女と雨の森/篠崎 時博さん

https://kakuyomu.jp/works/16818093078903318460


ひとこと:面白くて手堅くまとめいます。


 冒頭部で時女ときおんなという設定を上手く説得させて、昔話で具体化し、現在の体験として現れる。構成として非常に優れています。しかも話自体を大袈裟に脚色や演出せずに、時女との遭遇(?)もさらっと書いてあるのが個人的に好みでした。しかもよく雨を使えていると思います。次回の機会がありましたら、是非とも犀川を更なる深みにハメてほしいです。

 ありがとうございました。


通り雨が過ぎても/時輪めぐるさん

https://kakuyomu.jp/works/16818093079495859823


ひとこと:良い世界観でした。


 本作、小説としてもテーマ「雨」の解釈・表現としても非常によかったと思います。一作としてキチンと機能していて、最後も雨の定義を書いて終わるところなどは「さいかわ賞が求めている」点をしっかりと理解しているな、と好感度が高いものでした。

 青切さん同様、これといった欠点はないので賞に至らなかったのは、申し訳ない限りですが、その実力は間違いありませんので、次回がありましたら、自信を持って犀川をぶん殴りに来てください。

 ありがとうございました。


「雨のプロメテウス」 B3QPさん


ひとこと:ナイストライでした。


 B3QPさんの描く「雨」は極論してしまうと、副次的なものでしかありません。雷や火の方がメインであり、プロメテウスという神(ここでは自然)から道理を得るということに挑戦する姿が主線になっているからです。

 ですが、おまきさんと五郎丸との会話やそこに潜む感情と、終盤の漢詩と上手に雨をあてております。これはなかなかに文学的で巧妙な作りになっているなと感心いたしました。

 ありがとうございました。


雨に恋う/みうらさん

https://kakuyomu.jp/works/16818093078540294728


ひとこと:巫女ではない少女を選ぶ


 雨乞いの生贄に巫女ではない少女を選ぶというのが、非常に興味深かったです。一人の少女の命ともう一人の運命を捧げた雨に、村はどれだけ救われたのだろう。そんなことを考えさせられながらも、命を散らすという許されぬ現実に潜んでいる一瞬の美しさに魅了される作品でした。ストーリーがテーマ「雨」に基づいて流れていくのも大変良かったです。

 ありがとうございました。


囁きを聞いて/幸まるさん

https://kakuyomu.jp/works/16818093079835669390


ひとこと:ホントに良いものを書いてます。


 幸まるさんは「自分自身が何をどこまで書けるのか」を熟知していて、さらにそれを持ち味にしている、アマチュア作家の中では稀な作家さんであると思っているのですが、本作も得意なお菓子を使って読者が大変心地良いストーリーを描かれました。とても素晴らしいです。あともうちょっとだけ、テーマ「雨」について、ストーリーの中核に入れていただければ最高でした。

 ありがとうございました。


雨にさやかに/田辺すみさん

https://kakuyomu.jp/works/16818093080179167520


ひとこと:ずば抜けて上質な小説でした。


 田辺さんらしい整った文章で、内容もすごく良かったです。心情表現も上手で時間の流れをはさみながら物語を書いている高レベルな作風は、春ダ賞の時の作品同様、さすがだなと思いました。

 テーマも良く生かしていましたし、全体的にも過不足のない良作でした。もう少し、ほんの少しだけ、文章と文章の間(時間の行き来)に入りやすいひと言ふた言があると、よりスムーズで入っていけるのではないかと感じました。

 毎回、わたしを含む多くの作家の模範になる作品を書いて参加いただき、嬉しい限りです。

 ありがとうございました。


中華日和/ゆげ

https://kakuyomu.jp/works/16818093080089700575


ひとこと:もはや「解脱」している!


 本作は「上手に書けてますね」より上の「話が面白いですね」より上の「楽しそうに書いていますね」の域まで到達しております。水無月賞の参加中の中で唯一、解脱している領域まで来ていると思いました。ゆげさんらしい料理を通して、二人が語り合ったり、謎の日本語的台湾語でしゃべったりと、「そりゃあもう、書いていて楽しいでしょうよ」と微笑んでしまう作品でした。個人的に台湾が大好きなので、とても楽しかったです。

 ありがとうございました。



以下、予選免除枠の作品です。免除組はそもそもすんごいの書くので、若干批評を入れさせていただきます。


影踏み/鳥尾巻卯月特撰

https://kakuyomu.jp/works/16818093079462825986


ひとこと:わたしの予想を飛び越えていった傑作。


 本作、非常に力を入れた出来になっており、フェチズムどころか人間としてのさがに迫るところまで描いていたと思います。純文学のドアを蹴り破って乱入してきたような、鳥尾巻卯月特撰らしい豪胆さのある作品ではないでしょうか。

 その一方、影に力を入れた分、テーマ「雨」という幹にではなく、「影」という間接表現にそのエネルギーが流れ込んでいってしまったようにわたしには思えました。「影」に対してのライトの当て方があまりにも鮮烈で、結果的にテーマが「雨」であることを薄めてしまっているように感じました。

 解釈によっては、これこそ「雨」ともいえるのではないかとも考えられますので、このあたりの評価は、選者の中でも分かれるところかもしれません。

 小説としては今回随一の実力と文学性があった分、評価の判断に非常に悩みましたが、卯月特撰という「模範」として、テーマに真正面から腰を据えた作品を書いて欲しかったなというわたしの気持ちもお察しいただければ幸いです。

 次回もその極上の小説で参加者を牽引してくださることを願っております。

 ありがとうございました。

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