第5話
気付けば昇っていたはずの陽も沈みかけており、辺りは橙色に染まっていた。
時折僕を撫でるような風が心地いい。些細ではあるが、ライブハウスへ向かう途中のこの道が毎日の楽しみだ。
元々大通りの外れた場所に位置するこの道は、僕が通る時間は人通りが普段より少なくなる。誰かが通ることは稀であり、一か月に一回あるかないかくらいだと思う。
人通りが少ないこの場、この時間に、好きな曲を口ずさみながら歩くのが好きだ。ただ難点があるとすれば、運悪く誰かが通り聞かれてしまうことがあること。
以前聞かれてしまった時は、恥ずかしさのあまり走り、来た道を折り返してしまった。
未だに知り合いと出会ったことはないが、運悪く友人に聞かれたら堪ったものではない。しばらくは放課後に熱唱していた人だとか、あることないこと噂されてしまいそうだ。
今日もいつも通り好きな曲を口ずさむ。
口ずさんでいるのは、僕の好きなバンドの有名な曲だ。恐らく音楽に興味がない人でも知っているだろう。
今日はそのバンドが、普段行くライブハウスに来る日になっていた。
どんなアーティストも有名になったら、某アリーナ等大きい場所でしかライブをしてくれないと思っていたが……。最近の告知で、時期を分けて各地の小さなライブハウスでライブをすると言っていた。
そして第一回目のライブがなんと。僕の地元であり、よく行くライブハウスだった。
最初は見間違えたのだろうと思っていたが何度見ても間違いではなく、とても喜んだ記憶がある。
しかし詳細を見てみると、有名なこともあり先着順ではなく抽選であり、しかも人数的には大きい会場の何百分の一にも満たない人しか当たらないようだった。
もちろん抽選には応募したが、結果は予想通り落選。
結局チケットを取ることは叶わず、もう二度とないようなチャンスを逃してしまった。と思っていた。
しかし、前回よく行くライブハウスに訪れた際、予想のできないような出来事が起きてしまった。
今から一週間くらい前のことだ。
君とまたあの場所で。 赤坂 葵 @akasaka_aoi
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