世界で一番おかしな船
凍花星
航海日誌
ある小さな港町から今日、
ピカピカなデッキに、
ゆ〜らゆ〜ら
船は鼻歌を歌いながら、青い海に
どこにいくの?
それがまだ決めていないんだ。このまま波風に
へー。じゃあ
港町の果実よりも?
そりゃあ、もちろんさ。あそこは世界一美味しい果実の島なんだ。
それはすごい。ぼくも食べてみたいな。ロミの島まで運んであげるよ。
そうして、船はロミの島に向かうことにした。その間、カモメはいろんな話を船にしてあげた。
ナトルの日の出の美しさに、ノロノルの草原から見上げた星空の
今まで港町では聞いたことのない話ばかりで、船は
ゆ〜らゆ〜ら
船は次の島を目指す。日の出に星空。
しばらくしてレレノア島が見えてきた。港に近づくだけでも
港にいたお
そりゃあ、
ぼくは……
なあに。おまえは船だからだろ。
……。
船は少し
……なあ、おまえは次、どの島に向かうんだ?
まだ決まってないけど、ぼくの
世界一周? はっ! おかしな船だな。
……。ぼく、おかしいのか?
ふん。さあな。少なくとも
……。
……その体で
……わからない。だから
わかんなかったり、わかってたり、本当におかしな船だな。
……。
ほら、これ積んどけ。旅の
……木材?
そうだ。ほら見ろ。おまえのここ、
……ありがとう。
……。そらできた。気をつけてな。
お
ゆ〜らゆ〜ら
静かな波に
船の進む
広い青に囲まれた船は、まっすぐ進む。次の島までの道のりが、少し遠いような気がした。空の青さは、だんだん元気が無くなってきた。海も青さを
船は止まってしまいそうだった。あまりにも静かで、黒い世界に
ねえ、
声が聞こえてきた。静かな世界に自分じゃない、もう一つの声が聞こえてきた。この暗い世界にもう
でも、泣き出しそうだった。本当に悲しくなって、進めなくなるかもしれないと思った。だから、もしかしたら。それは
きみ、もしかして海に出るの初めてな子?
う、うん……。
そっか……夜って言うんだよ。
え……?
こんなに暗いのが
……そうかも……
……ほんと?
うん! ほんと!
その会話を
ゆ〜らゆ〜ら
心地よい波に
ねえ、きみ名前あるの?
なまえ?
そう!
……ぼくはない。
ないのか……じゃあつけてあげるよ!
え……きみが?
そう! う〜ん、何がいいかな……あ! テセウスなんてどう?
どうして?
なんとなく! 今思いついたから!
そう
だんだんと夜は、ゼファーの言った通り、明るくなってきた。
見て! 日の出だよ!
ほんとだ……
日の出は美しかった。船が考えていたよりもずっと、ずっと、美しかった。長い夜は
ねえ、どこに向かっているんだい?
ぼくは世界一周してみたいいんだ。
へえ……それは
きみはどこに向かうんだ?
……ぼくと
……ほんと?
うん! ほんと! ねえ、ゼファー!
ゼファーは信じられないとでも言うようだった。だが、船はこのままゼファーと一緒に向かう気でいた。どうしてかわからないが、ゼファーが声をかけてきた
ゆ〜らゆ〜ら
テセウス、その
あ、ほんとだ。どうしよう。さっきの島にいた時は気づかなかったな。
テセウス、テテの港でバラに
ありがとう。ゼファー。でも、この前だって
テセウスだってルリアンタの都で
そうだけど、それはゼファーのがあまりにもボロボロだったから……
仕方がないよ。
そうだね。でもさ、ゼファーのこの
なんで?
だってこんな目立ったところに、こんな大きな星が
仕方ないじゃん。
わかってるよ。でもこんなおかしな
そう言って船はゼファーと笑い合った。
ねえ、ゼファー! 見て! 流れ星!
初めて見た……
そうなのか! じゃあ……
願い事言えた?
うん!
ゆ〜らゆ〜ら
変わらない波に
冷たい雨に打たれながら、船とゼファーは長い間海を進んでいた。ピカピカだったデッキには、もうすでに
ねえ、ゼファー。世界って広いんだね。
……そうだね。
リルフィアの海岸
……うん。
カタルナリナの風車大きかったね。あれって今日みたいな雨の日でもぐるぐる回ってるのかな? ぼく、雨は
……
次の島じゃあさ、「アイス」っていうの買おうよ。バットルカの女の子がゼファーの上で
……テセウス、あのさ、
ねえ! ゼファー!
船は急いでゼファーの声を
なに?
……世界の果てって本当にあるのかな?
……。
ゼファー?
……。
いつも帰ってくるはずの声がない。船は後ろを走っていたゼファーに向く。ゼファーは船が思っていたよりもずっと後ろにいた。船が
……ごめん。テセウス。
……。
きみが世界一周をやり
……。
きみとここまで来れて、
船は何を言葉にすればいいのかわからなかった。あまりにも話したいことがたくさんあったから。まだデスマリの都で見たあの変な鳥のことに、ヒメトリアのお
……ぼ、ぼくだって! あ、ありが、とうって、だって、たのしかったから……ねえ、本当にここでお別れなのか?!
……。
ゼファーは答えなかった。そして、代わりにこう言った。
テセウスの願い事、きっと
ゆ〜らゆ〜ら
気ままな波は相変わらずだった。
ロミの島には
ねえねえ、カモメさん。ここでなにしてるの?
ある大切な友達とした大切な約束をしたんだ。だからここで待ってるんだ。
大切なお友だち? いいな。リカにはまだお友だちいないんだ。村のみんなリカのお目目がね、変だって言ってくるんだもん。
それはまだ出会ってないからだよ。それに
ほんと! うれしい! じゃあ、リカにもお友だちできる?
できるさ。ちっともおかしくなんてないから。ほら見て、あの港にいる船。おかしな
世界で一番おかしな船 凍花星 @gsugaj816
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