第4話 世界が終わる直前@屋上

 止まっている春日崎に動きが見られたのは、徐々に様子がおかしくなっていた空がついに崩壊を始めるのと同時であった。


「――っ!」


 俺は目の前の二つのことに思わず息を呑んだ。


 一つは、クッキーが割れるように、断片ごとに分かれては空が、そのあおさもそのままに落下してきたということ。

 もう一つは、春日崎が今の様子を写し取るべく、大胆に緻密にかつ高速でキャンバスの上で筆を走らせていたということだった。


 一言も発さず、春日崎の手元で新たなが創出されている。青々とした空が、キャンバスの中で壊れようとしている。


 俺は壊れゆく世界も春日崎の描いた世界もどちらも美しいなと感嘆した。


 やがて急ピッチで作業していた春日崎の手が遅くなる。作品が、仕上がろうとしていた。


 春日崎は最後にパレットに絵の具を大量に絞り出すと、力強く塗りたくった。




 壊れゆく世界の中、二つの世界が相対峙している。


 片方の世界は徐々に色を失っていくのにもかかわらず、もう片方の世界はより輝きを増していた。


 キャンバスの真ん中に引かれた、濃い青色の一本線。


 負けないという意思がこもったその線は、これからも不滅のように思えた。

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空が降ってくる前に塗った色は 夜野十字@NIT所属 @hoshikuzu_writer

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