新しい日常 その3

 昼休み、私は素直に奴らの言う『いつもの場所』に行った。

 奴らとは入間礼雄を虐めているグループであり、いつもの場所とは体育館裏だ。

「きゃー、ホントに来た!」甲高い声を出したのは……いや、この女の名前などどうでもいい。不良女Aということにしておこう。

 その他に不良女はBとCがいて、男の方は関根ら三人を含め五人。前述のクラスメイト以外の男は、阿保と馬鹿ということにしておこう。

 こんな奴らの名前を覚えてやるほど、私の脳はお人好しではない。

「さあて、イルマちゃん。何して遊ぼうか?」関根はバスケットボールを弾ませた。

 私は身体が震えていた。武者震いというやつだ。

「超びびってんじゃーん」不良女のどれかが笑った。

 関根は下品な大声で笑い、バスケットボールを私に向かって投げた。

 捕ってやるのは訳ないが、ここはあえて受けてやった。痛みの確認のためだ。

「ふむ、思っていた通り」私は言った。 「はあ?」

 不良たちの声が張りついた。

「思っていた通り、おまえはバスケットボールが下手だ」

 関根は何やら暴言を吐き、私に詰め寄ってきた。

 汚らしい手が、私の首元へと伸びる。

 私は関根の手を掴み、捻りあげ、足を払う。関根は派手に尻餅をつき、右手を背後で私に捻られる体勢になる。

「痛てえ!」

「大きな声で教えてもらわなくとも結構。わかっている。痛がるように痛めつけているのだからな」

「てめえ、イルマ! こんなことしてただで済むと思うなよ」

「ふむ」

 どうしてこの種の人間は同じ言葉を言うのだろう。登校前に痛めつけた別の男たちも同じことを言っていた。

 遅刻した理由はそれだ。私はヤンキーや不良と呼ばれる種の人間に接触し、因縁をつけてきたところを返り討ちにしてやった。

 なんの恨みもない見ず知らずの人間だったが、確認のために必要な行為だった。器である入間礼雄の意思の確認だ。

 入間礼雄は自分以外の多くの人間から虐げられて生きてきた。そのせいで、威圧的な人間にとことん弱い。それが見せかけのものであったとしても、到底太刀打ちできない。闘う前から敗北しているのだ。

 この敗者の精神は、魂だけでなく肉体にも刻み込まれていた。だから私は、早急にこの器の精神を払拭する必要があった。

 そのために有効なのは、実戦だ。闘えば勝てるという勝利の美味を、肉体に与えてやるのだ。

 私の思惑は見事にはまり、今朝の時点で臆病な器の呪縛から解放されていた。

 直接的な被害を受けてきた関根らからの呪縛は相当なようで、目の前にすると器が萎縮してしまう懸念もあった。が、結果的には杞憂だった。

 私の宿るこの肉体は、器の呪縛を凌駕していた。

「おまえなど取るに足らないちっぽけな存在だ」私は言った。「これから何度も向かって来られても面倒だからな、拭えぬ恐怖をすり込み、再起不能にしてやろう」

 関根が何か叫んだ。が、私の耳には届かない。

 私は関根の腕に力をこめた。腕はいくつもの完全ができたように折れ曲がり、ひとりでに円をつくった。それから膝を踏み、反対側に蹴り曲げる。

 関根がさらなる叫びを発する前に、あらかじめ用意しておいた雑巾をだし、口にねじ込んでやった。

「これでしばらくはまともに生活することもできない」私は残りの有象無象を睨んだ。「次は?」

 もはや、不良たちに戦意はなかった。声を荒げる者はいたが、哀れな虚勢でしかない。私には勝てない。そう、心が敗北していた。

「二度と私に関わるな。誓え。破れば貴様らもこうなる」私は最後に関根の背を踏みつけるとその場を後にした。

 何かが満たされた気分だった。

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スーパー・ノヴァ 京弾 @hagestatham

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