最終章 歩む未来に花を添えて

ただ会うだけって言われていたこともすっかり忘れてサクラくんのお家ではしゃいだあの日から季節は巡り、ぼくたちは春を迎えた。

「一週間だけのお試し」なんて言っていたらしいサクラくんはすっかりぼくとの暮らしを楽しんでいてくれて、日を重ねるごとに笑顔が増えていく。

おじいちゃんと過ごした日々ももちろん忘れていないし、おじいちゃんが刑務所から出てくる日をずっと待ち侘びているけれど、今はただこの暮らしが続けばいいなって思うんだ。


『サクラ君!ご飯まだ〜!?ご・は・ん!』

「はーい、梅助僕の料理大好きだもんね」

『うんうん、早く食べたいな〜!』


梅助がこの家にやってきて、始めは戸惑うこともあったけれど日々が移ろいで行くのに合わせて楽しさの方が増えていった。

そして今日も街が夜に染まってお腹ぺこぺこの梅助が喋り出したら、賑やかな晩ごはん作りの始まり。春華との同棲生活時代に鍛えた料理スキルを発揮して最高の晩ごはんにするのが僕の楽しみで、梅助が僕の手料理で幸せそうな笑顔を浮かべてくれるのが僕にとっても幸せだ。それに合わせて自分の料理のどんどんレベルアップするようになっちゃったから、もう余計に外食はしなくなるだろうな。


「よし、出来たよ」

『うわーい!いただきま〜す!』


今日もサクラ君と一緒にご飯を食べる。ぼくはすごく食べるのが早いから、サクラ君が食べているところを見ている時間の方が長いけれど。

でもぼくもサクラ君もどっちもすごく楽しくしゃべるから寂しさなんて全然なくて、本当にこの時間が楽しいんだ。

そしてご飯の時間が終わったらサクラ君がお風呂に入った後で一緒に遊んだり、サクラ君のお勉強を横で見守ったり。そんなふうにしてぼくは夜を過ごす。


『ふわぁ〜。サクラ君、もうそろそろおねんねする?』

「うん。もう遅いし寝よっか」


梅助と遊んでレポートをしたりアルバイトの日程を確認したりして。だいぶ夜が更けて寝支度をしたら、寝息を立てる梅助を横に僕も眠る。

明日がいい日になるように、おまじないをかけてから。


『スゥ……スゥ……』

「ふふ、おやすみ。




当たり前のように家に帰ってレポートをして談笑して、暖かい空気に包まれて。ただの何気ない日常を当たり前に過ごしていく。けれどその日常というものは本当は「ただの」でも「当たり前の」でもない。いつかは散って行く、尊いものなのだ。


おいしいご飯を食べて、お昼寝して、お散歩して。そんな楽しい毎日は突然なくなっちゃうことがある。でもそれを知ったから、毎日を大切に過ごしていきたいって思えたんだ。


一度失ったものはもう二度と、戻ってはこないから。


だから今ある幸せを、ちゃんと抱えて生きていきたい。


明日という日も幸せに生きられるように願って、今日という一日が終わる。




――ピピピピ、ピピピピ……


『もうあさぁ?サクラく〜ん?』

「んー、まだ寝てたいなぁ」

『……あっ!ねぇサクラ君!起きて起きて!!』

「ん〜、なぁに梅助…………あ」


大切な人の、命が散った日。

見上げた先の視界に飛び込む景色。

朝の窓辺に舞うその花は、淡く、儚く煌めいていた。

そして僕らの背中を押すかのように、まるで彼女がやってきたかのように。

その花弁が一枚、部屋に舞い込んでくる。


――大丈夫だよ。僕は今、大切な相棒が側にいるから


『うふふ、綺麗だね!サクラ君!』

「うん。凄く、凄く綺麗」




幸せな日常は、ある日突然、音もなく壊れてしまうものだ。


自分のいる場所がなくなっちゃったり、大切な人とお別れしちゃったり。


それが原因で進む道や生きる希望を見失うことだってある。


でも、そんな大変なことをぼくたちは乗り越えてきたから!


この先の幸せも、苦しみも、きっと歩んでいける。

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花が舞う季節に 結原シオン @yu1_

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