第13話 勉強会
「おいおい、夕貴~」
「なんだよ」
「いつの間にあの有名な花宮綾子さんとも仲良くなったんだよ」
「別に仲良くなったわけでは……」
休み時間になると、翔也はニヤニヤしながら俺と綾さんの関係を知りたそうにする。
だけど、本当にやめてくれ。
その話題を出すと由奈の機嫌が悪くなるんだよ。
由奈の機嫌が悪くなるのを阻止するために俺はその話題を早めに終わらせる。
「本当に何でもないんだ。はい、これでこの話は終わりー」
「え~、まあ、言いたくないなら仕方ないか。夕貴にも事情ってのがあるんだろうしな」
「そういうことだ」
翔也はしつこく問い詰めてくるかもしれないと思っていたが、すぐに納得し、これ以上聞いてくることは無かった。
「そういえば、夕貴はもう準備できてるの?」
「準備? 何の?」
「何って、期末テストだよ」
「…………え?」
「もしかして忘れてた?」
「……うん」
突然何を言い出すんだと思ったが、そうだった。
もうすぐ期末テストが始まる時期じゃないか。色々なことがあったせいで、完全に忘れていた。
なんの準備もしていない。
準備を始めてすらいない俺は絶望に打ちひしがれそうになったが、隣の席に座る由奈を見て、その気持ちが少し和らいだ。
何故かと言うと、俺と翔也の会話を聞いていた由奈は、俺以上に絶望に打ちひしがれているような落ち込んだ表情をしていたからだ。
たしかに、由奈が高校にちゃんと通えるようになったのは最近からだからな。
それまでの期間、全く勉強していなかったわけではないと思うが、他の生徒に比べると圧倒的に勉強に費やした時間が少ないはず。
となると、俺以上に準備が大変だろう。
よし、一緒にこの壁を乗り越えればいいんだ。
俺は絶望している由奈の肩をゆする。
「大丈夫?」
「ヤバいかも」
「テストのことだよね?」
「うん」
「俺も全然準備してなくてヤバいからさ、一緒に勉強しない?」
「いいの?」
「うん、俺もやばいから一緒に乗り越えよう」
「うんっ」
俺は由奈と一緒にテスト勉強をすることにしたが、さすがに準備不足の俺たちだけじゃ難しいよな。
「一緒に勉強するときに翔也も呼んでいい?」
「うん、いいよ。勉強する人が多ければみんなで協力できるもんね」
「うん、そういうこと」
由奈の許可も貰えたので、俺は翔也を勉強会に誘う。
「なあ、俺と由奈の勉強会に参加してくれないか?」
「俺、でいいのか?」
「うん、俺と由奈を助けてくれ~」
「あははっ、分かったよ。テスト一週間前から部活も休みに入るからいいぜ」
「助かる」
「その代わりスパルタで指導するから覚悟しとけよ~?」
「お手柔らかにお願いします」
翔也は快く俺の誘いを受けてくれた。
だけど、翔也のスパルタ指導はかなり大変そうだ。
翔也は常にテスト成績上位だから、かなり頭が良い。
文武両道を体現しているような男だ。だから、そんな翔也から教われば確実に成績は上がってくれるだろう。
勉強会を大勢でやる人たちもいるが俺たちの場合はこの三人が限界だろうな。
何より、由奈が心を開ける人物がほとんどいないから仕方ないのだ。翔也に対してもまだ心を開けてはいない。だけど、俺と仲の良い人だから頑張って少しずつ心を開いていこうと思ってくれているのかもしれない。
そうだといいな。
「どこでやるかなぁ」
「勉強会の場所か?」
「うん」
「近くのファミレスでいいんじゃないか?」
「まあ、そうだな。それでいっか」
勉強会は近くのファミレスで行うことになった。
ファミレスであれば何かを食べながら勉強もできるし、ちょうどいいかもしれないな。
本当にちゃんと勉強する場合は食事など気にせずに図書館などの静かな場所が良いのかもしれないが、正直俺はずっと静かな場所で黙々と勉強するのは苦手だ。
きっと、翔也はそれを察してファミレスを選んでくれたのだろう。
とりあえず、赤点だけは取らないように頑張るとしよう。
♢
「テストなんかなくなっちゃえばいいのにぃ~」
学校を終え、家への帰り道を歩いていると、由奈がテストに対する不満をこぼした。学生ならほとんどの人が感じている不満だ。
俺もテストがなければ、学生生活をもっと豊かに過ごせるだろうしな。
「俺もそう思うけど、せっかく翔也が手伝ってくれるから一緒に頑張ろうな」
「本当は勉強なんかしたくないけど頑張るよ」
他の人からしたら意外だろうなぁ。
由奈は完璧な人だと思われていそうだし。
とはいえ、由奈は普段勉強しないだけで、勉強に取り掛かりさえすればすぐに色々なことを覚えると思う。『やればできる子』ってやつだな。
まあ、何を言ってもテストはやってくるのだ。
三人で勉強会をやってテストで良い点を取れるように頑張るか。
……あり得ないとは思うけど、勉強会の参加者が増えたりすることはない……よね?
テレビでは無愛想な幼馴染の大人気女優が俺の前ではめちゃくちゃデレる。 夜兎ましろ @rei_kimura
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