第12話 学校になぜ、あの子が……?

 ――月曜日。


 俺は休日を終えた俺は、由奈と一緒に登校していたのだが、学校が見えてきたところでとある異変に気付く。


「なんか学校の前、人だかりができてない?」

「なんかあるのかな?」


 学校の正門前に多くの生徒たちが集まっているようだった。

 生徒たちが集まっているだけでなく、歓声まで上がっている。俺と由奈はその理由を知るためにその人だかりのほうへと向かう。

 というか、その人だかりを過ぎなければ俺たちは学校に入れないのだ。


 俺たちが近づくと、また歓声が大きくなった。

 まあ、今回は由奈に気づいたから起きた歓声だろうが、その前の歓声はなんだったんだと思い、人だかりの中心を見てみると、そこには予想していなかった人物の姿があった。

 というより、何故ここにいる。


「おっ、やっと来たね夕貴くんっ♪」


 人だかりができていた理由は、どうやら綾さんのせいだったようだ。

 綾さんは満面の笑みで俺に向かって手を振っている。


 何かしら行動を起こしてくるのだろうとは思っていたが、まさか俺たちの学校にまで来てしまうとは。

 さすがにこれは予想できなかった。


 それに、綾さんも俺や由奈と同じく高校生のはずだ。

 学校はどうした?

 仕事で学校が行けないのなら理解できるが、そうなるとここにいること自体、おかしい。


「こんなとこで何してるんですか綾さん」

「夕貴くんに会いに来ちゃった!」


 綾さんが答えた瞬間、周りの視線が一気に俺に向いた。

 男子たちは憎悪の混じったような鋭い視線を。

 女子たちは詳細が気になるような好奇心に満ちた視線を。


 とりあえず、一度この場を離れるべきかもしれないな。

 じゃないと、俺の身が危ない。


 俺はアイコンタクトで綾さんと由奈に別の場所に移動したい意思を伝える。

 すると、察したようで綾さんはみんなに「今から夕貴くんと話があるからみんなまたね~」と言っていた。

 他に言い方はなかったのだろうか。

 俺、教室に行くの怖くなってきたんだけど。


 俺たちは正門から少し離れたところまで移動する。

 まわりに生徒たちがいないのを確認してから、話し始める。


「本当になんで俺たちの学校に来たんですか、綾さん」

「さっき言ったじゃん~。夕貴くんに会いに来たんだよ~」

「本当は?」

「本当なんだけどなぁ。でも、どうしても知りたいならもう一つの理由を教えてあげようかな~」

「もう一つの理由?」


 綾さんはいたずらっ子のような笑顔を見せる。

 どうやら綾さんが俺たちの学校に来たのにはちゃんと理由があるらしい。


「撮影だよ~」

「え、俺たちの学校で?」

「いや、近くの陸上競技場で撮影があるんだよ」

「あ、あー、そういうことだったのか」


 綾さんは近くの陸上競技場で撮影があるようだ。

 よく考えてみればそうだよな。近くで撮影すること以外の理由でここに来ないよな。


 そう考えていると、綾さんが俺の腕をツンツンとつつきながら悪戯な笑みを浮かべる。


「もしかして~、本当に夕貴くんに会いに来ただけだと思った~?」

「い、いやっ、そんなこと思ってないしっ」

「あははっ、冗談だよ~。でも、一番の理由は本当に夕貴くんだから安心してねっ」


 俺は綾さんに、からかわれてツンデレみたいな反応をしてしまった。

 そんな自分の反応が恥ずかしくなってしまい、顔が熱くなっていくのを感じた。


「撮影なんでしょ。早く行かなくていいの?」


 由奈がムスッとした表情で綾にそう言った。


 綾さんは時間を確認すると「やばっ」と言って慌てて走って行く。


「二人ともまたね! 絶対にまたすぐ会いに行くから~」


 すぐに綾さんの姿は見えなくなった。

 陸上競技場で撮影か。主人公が陸上部の青春系作品かな?

 いや、そんなことより、早く教室に行かないと遅刻してしまう!


「由奈、早く行かないと遅刻しちゃうよ!」

「むーっ」

「……え?」


 急いで学校に向かおうとしたが、由奈の様子がおかしい。

 頬を膨らませてその場から動こうとしない。


「綾ちゃんにデレデレしてた!」


 由奈はそう言い放ち、俺を指差した。

 起こっている理由はそういうことだったか。俺が綾さんにデレデレしていると思ったから怒っているのか。


「別にデレデレしてたわけじゃないよ?」

「してたもんっ」

「急に変なこと言われてビックリしただけだよ」

「……本当に?」

「うん、本当」

「それなら、いいんだけど……。これからも綾ちゃんにデレデレしちゃダメだよ?」

「わかった」


 由奈は嫉妬してくれていたようだ。

 俺が綾さんにデレデレしていたと思い、嫉妬したようだ。


 嫉妬している由奈も可愛いんだよな。


 こんなことを考えていることがバレた由奈を余計に怒らせてしまうんだろうな。

 

「とりあえず、学校に行こうか」

「うんっ」


 デレデレしていたわけではないという謎の説明を終えた俺は由奈と一緒に駆け足で学校へと向かったのだった。

 まあ、結局間に合わずに二人そろって遅刻してしまったんだけど。


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