エピローグ
「本当にみんな、覚えていないんだね・・」
「みたいだな。・・少なくとも飛鳥井先生は、あの様子じゃ覚えてないな・・」
「うん。・・いやでも、あんな確認の仕方ってどうなんだろ?」
つい先ほど叶野望と一緒にいた、日高勇二が取った行動は次の通り。
1.放課後、職員室に飛鳥井恵理がいることを確認。
↓
2.職員室の扉を開け、「失礼します」と入る。
↓
3.大きな声で「飛鳥井先生、魔法学を教えてください!」と伝える。
「非常にまとまった説明ありがとう」
「・・確かに勇二がやったことは単純だけど、先生たちは複雑そうだったよ・・・」
その時、現場にいた面々の反応。
望 → 勇二の方を見て唖然。
他の先生方 → ぽかんとした表情(一部心配する声)。
飛鳥井先生 → ぽかんとして勇二の方を見た後、ため息をついて一言。
「・・ゲームは程ほどにして、とりあえず部活いきなさい」
「ひどすぎると思いません、望さん!?」
「・・何て言うか、さすがだと思うよ。いろいろな意味で」
おどけて泣いたフリをする勇二に、望は苦笑して返す他ない。
肩をすくめた仕草をした後、真面目な表情で勇二は話し始める。
「・・おそらく、望の「他者願望成就」で起こったことは、効果を受けた人間と望だけが覚えているんだろうな」
「多分。・・今にして思えば、この能力が起こしたと思えることもいくつか覚えているしね。・・もちろんたまたま偶然もあるんだろうけど・・」
きつい表情で答える望。仕方がない、能力が能力だ。思い出したくないこともあるだろう・・
「・・まあ、知らなかったんだからしょうがないさ。むしろ教えてくれたフォーチュンには感謝しないとな」
「うん、そうだね。・・彼女には感謝しないとね」
そういうと二人の少年は、互いに微笑みあった。
立花このみとの勝負が終わった後、気づけば勇二は教室で授業を受けていた。
(なんでいきなり授業?)・・と、当惑したが何とか声には出さず、目立たないように周りを見渡す。そして壁に貼られた時間割表を見て気づく。
(「魔法学」の授業がない!)
その瞬間、勇二は望の「他者願望成就」の効果がなくなったことを悟った。(今、六時間目か。・・一応、放課後になったら望にも確認に行こう。)
時を同じく、隣のクラスではちょっとした騒動があったのだが、勇二がそのことを知るのは少し後の話だ・・・
そして放課後になるや、望のクラスに直行。もしかしたら望は忘れているかも、という危惧はあった。が、同じく教室を出ていた望と鉢合わせる形になり、双方とも覚えていることを確認した。「他に覚えている人はいないか?」という話となり、結果、・・先ほどの職員室でありがたいお言葉を受ける流れとなったのだ。
「・・なにはともあれ、一件落着ってところかな。・・本当に、身体はなんともないんだな?」
「うん、この通り。・・でもこれからは気をつけないといけないね」
「・・気をつければコントロールできそうなのか?」
望は苦笑して告げた。
「フォーチュンとも話したんだけど、この力って無意識で発動してしまうし、条件も確実じゃないから完全には止められないと思う。・・でも、「絶対にそんなことはいけない」と僕が意識したことに対しては、まず発動しないらしいということは、彼女と話してわかったよ。要するに力を持つなら強くあれ、ってありきたりな結論になるわけだけどね」
「ありきたりってことは、誰でも何とかできるってことさ。・・俺もダチとして協力するしな!」
「・・ありがとう、相棒」
少年二人は、互いに微笑みあう。
「さって、また怒られないよう久々の部活に行くかな。・・って、今ふと思ったんだが、望、弓道やらないか?」
「・・またいきなりすぎて、ビックリなんだけど・・」
「いやあれだ。弓道って精神力が鍛えられるって言うし、実際俺も今回の件じゃあ、そうなのかなって場面はあったし、運動系ではあるけどそんなにきついトレーニングが必要って程じゃないし・・」
俺は何故かあたふたとしどろもどろに列挙した挙句、照れるようにこう続けた。
「・・まあ何て言うか、サボってばかりの俺が言うのもなんだけど、改めてやると結構面白いんだよな、弓引くことも部活自体も」
「だからやってみないか?」といった声は小さくてほとんど聞こえないくらいだったが、望はこう思わずにいられなかった。
(大人びたことを考えてるなぁと思ったら、子供じみたことをしたり、なんていうかよくわからないなぁ・・)
ちなみにこの見解は、彼だけの認識ではないことは、そう時をおかずにわかることとなる。
「・・いいよ。部活に入るかどうかはともかく、僕も弓道に少し興味が沸いたから、とりあえず今から見学ってことなら」
「え、今日から? ・・誘っといてなんだが、いきなり今日からだと先生や先輩たちが許可してくれるかな?そんなに厳しくはないんだけど・・」
「俺サボってばっかだったし、・・というか、試験休み前、真面目に行ったのは無しってことになってないよなぁ?」
俺、平部活員だしなぁ・・などとつぶやき始めたのを見て、望は吹き出してしまった。
やはり、彼はわからない。
この望の部活見学だが、・・結論から言えば、真面目にやってくれそうな後輩が増えそうということで部長以下三年の先輩はあっさり承諾し(真面目にと言った所が妙に強調されていた気がしたが)、その部長から聞いた顧問の宮坂先生も、
「日高の紹介で一組の叶野か。・・まぁ、いいんじゃないか」
とこれまたあっさり許可するので、勇二の心配は杞憂に終わるのだが・・
(余談だが、顧問の宮坂氏が途中入部希望者の見学をあっさり認めたのは今回が初めてである。)
ちなみにこの日の弓道部の部活には見学者・・的立場の人物がもう一人おり、妙に豪華だったりしたのだが、・・それもまた別の話である。
・・・と言うのも、彼らには「今回の事件」でやるべきことがまだ残っていたから。
「あ、いた!日高君、ちょっと待って!さっき職員室で魔法学がどうとかって言ってたって!」
駆けつけてきたのは彼らと同級生の少女、立花このみ。
「・・そう言えば、彼女の願いも叶えられたって、フォーチュンは言ってたっけ・・・」
「・・さ~~て、どう説明したもんかねぇ・・」
― この「たった一つ違う授業」のことを ―
たった一つ違う授業 Syu.n. @bunb3
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