第46話 最終話 オレはお嬢様を、幸せにする!

 夏休みが終わり、商店街の取り壊し工事が着々と進む。


 同時進行として、オレは商店街の残った店舗にショップの呼び込みを続ける。


 幸いビジネスホテル【OWO】の利用者から、数名の業者が営業をかけてきた。

 不動産業や、介護施設などである。


 空き店舗に入ってくるド定番の業者だが、オレはとにかく呼び込むことにした。


 特に面白かったのは、莉子リコが提案した「クリエイターに貸し出す、店舗を兼ねた居住地」という案だ。

 プラモデルのショップ、フィギュアの製造業などに、ブックカフェの近くへ住んでもらう。完成品は物流を利用するのだ。

 また、空いたスペースに防音機能を施し、バンド活動やVTuberにも使ってもらった。例の「VTuber体験型ビジネス」が、こんなところで活きるとは。



 

 それから、半年が過ぎた。


 オレは、大学への進学が決まっている。

 萌々果さんもだ。オレとは別の大学だが。


 ケンは進学せず、家を継いだ。

 莉子も倉田クラタも、今後はクリエイターとして食っていくという。


 オレと萌々果さんは今、建設中のモールを見つめている。とはいえ、まだまだ鉄骨状態だ。


 残っている商店街も、順調である。

 

 初期費用はとんでもなかったが、半年もしないうちにある程度まで借金返済の目処がたった。

 結局、オレの資金は底をついてしまったが……。


「せっかくガキの頃から積み立てていた資金も、パーか」


「ごめんなさい、ノブローくん。わたしたちが至らなかったばかりに」


「いいんだよ! 萌々果モモカさんのためなら、オレはなんだってするんだよ」

 

「わたしだって、自分の借金がなかったら、もっとご協力できましたのに」


「だから、いいんだって。資金は稼げているんだ。あとはこのまま、売上を維持していくだけだ」


 あの後、オレは利益の一部を再度貯金や投資に回している。


 オレは一度、全財産を失った。しかし、またいつものようにバイトや節約をしていけばいい。前にもやったんだ。再現性も高いはず。

 

「だけど……すいません」


 何か言おうとした萌々果さんだったが、その言葉を着信音が遮る。

 

「――はい、もしもし。お父様。はい。はい。え!?」


 萌々果さんのスマホを持つ手が、うなだれた。

 

 また、嫌な予感がよぎる。


「今度は、どうしたんだ? オレは、破産しちまったか」


「さきほど、父から連絡がありました。ショッピングモール開発について」


「ああ。どうだった? モールは建つんだよな? 予定通り」


「はい。その件なのですが。ノブローくん。あなたに、モールの責任者になっていただきたいと、父が話しておりまして」


 オレが、ショッピングモールの社長に?


「系列店に空きがあるので、まずはそこで働いてくれないかとのことです。で、こちらが完成次第、社長の椅子に座っていただきたいと」 


 それだけではない。引き受けるなら、今まで支払っていた銀行への返済も、すべて黄塚コウヅカが建て替えるという。

 

「でも、ノブローくんは進学なさるんですよね? 大学まで通いつつ、モールの営業なんてとてもできる状態では」


「やります」


「え?」


「オレは、やる。モールの社長だろうと、なんだってやる。萌々果さんのためだったら」


 学生だろうと、今の時代は関係ない。学業しつつ、やってやろうじゃないか。

 借金を肩代わりしてくれるから、じゃない。オレ自身が、チャレンジしたいと思った。


「今は学歴社会ではない」というが、まだまだ高卒への偏見は多い。ある程度いい大学に入らないと、白い目で見てくるやつもいるだろう。


 萌々果さんだって、やっているんだ。

 オレだって。


「学生社長として、萌々果さん。今後も、よろしくお願いします」

 

「ありがとう、ノブローくん」


「あのさ、ずっと気になっていたんだ」


「なにがです?」


「これで、オレは萌々果さんとちゃんと釣り合うのかなって」


 オレにとって、いやウチの学校の生徒にとって、萌々果さんは高嶺の花である。


 まして、その中でもオレは雑草に等しい。


 いくらカネを稼いできたと言っても、それは経済がうまく回っていたからだ。投資の福利は、いろんな企業ががんばってきた証である。オレの力じゃない。


「だから、自分で稼げていないうちは、萌々果さんを好きになる資格はないと思っていたんだ」


「それで、さっきのようなムチャを?」


「ああ。そうなる」


 だけど第一に、萌々果さんのことを考えていた。萌々果さんが、立派にビジネスができるように。


「そこまで、考えてくださっていたんですね。ありがとう」


「でも、萌々果さんの気持ちも考えないで、オレの都合ばっかり押し付けちまったな。やっぱりオレは、ダメダメだ」


 萌々果さんは、黙り込む。その後、オレに背を向けた。

 

「ノブローくん。じゃあ今から、ビンタします。わたしに迷惑をかけたと、あなたは思ってらっしゃるんですよね? では、腰を曲げて、目をつむってください」


「……わかった」


 オレは腰を曲げて、目を閉じる。


 キツイ一発が、来るんだろうな。

 

 だが、当たったのは唇への柔らかい感触だった。


 これはこれで、心臓が止まるくらいの衝撃だったけど。


「萌々果さん?」


「ウフフ。ノブローくん。わたしを、幸せにしてください」


「お、おう!」



(おしまい)

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カスハラ客を追い出してクビになったオレを、クラスのお嬢様が雇ってくれた。雇用条件は、彼女のオタ活を充実させること 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2

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