第45話 学生、商店街を買う

 オレが向かったのは、社会見学で行った昭和風味満載の街である。


 徐行して、街の中を回っていく。


「車で移動すると、また違った色を見せますね」


 萌々果モモカさんが、窓の向こうを覗き込んだ。


「こういう景色が、いつまでも残っているのはいいですね」


「だよな。手放したくはない」


 しかし、時代の波は容赦なくこの街にも流れてくる。いつかは、「ただの古い街」として、誰かに買われて取り壊されるのだろう。

 利便性や、効率などが重視されて。


「近代化っていうけどさ、それってどういうことなんだろうな?」


「住みやすくなることって、大切だとは思いますよ。とはいえ、今の状態でも十分な場所だって、存在します。こことかは、まさにそうですよね」


「うん。オレも、そう思う」


 機能しているなら、なにも開発する必要性はない。

 

「ただ道が狭いんだよな、ここって。そこは、なんとかしてほしいけどな」


 自転車を避けながら、オレは苦笑いを浮かべた。


「すいません。ご無理をさせて」


「そういう意味じゃないから。一旦、車を駐めるぞ」


 モータープールに車を止める。


 真庭マニワさん夫妻と是枝コレエダとも、一度別行動となった。三人は、チェーン店で朝食をしに行くという。


 モーニングを食いに行く。向かうは、やはり純喫茶だ。


「朝からスパゲティをキメるとか、ぜいたくだよな」

 

 ナポリタンをがっつきながら、萌々果さんとモーニングを楽しむ。


「ノブローくん、そろそろお話をしてください」


 モーニングを先に食べ終えた萌々果さんが、話を切り出した。

 

 オレは、フォークを置く。


「わたしのために、ノブローくんが動いてくれているのは、存じ上げております。ですが、なにか話してくれても」


 

「商店街の一部を、買い取った」


 

「……!?」


「といっても、本当にぶっ壊さないといけないところには、手を付けていない。それ以外の場所だ」


 商売っ気のない家や、親戚に世話してもらうと行った、商業離脱組のスペースのみを、オレは買い取ったのである。


 一応、オレだって金はあるんだ。信用の問題もあったが、銀行から金も借りられた。


「よくご両親が納得しましたね?」


「友人の、一大事だからな」


 両親が寛大な人で、よかったぜ。


「商店街は、どういった目的で買い取りを?」


「そもそも全部を商店街として残すか、大手モールにするかで、揉めてるんだよな?」


「はい。そうですが」


「だったら、共存すればいい」


「といいますと?」


「どっちも再開発する」


 商店街で人気の場所は残して、引き続き営業をしてもらう。

 だが、もう取り壊しが確定しているスペースは、モールとして立て直すのだ。


 黄塚コウヅカグループによると、「今営業しているスペースが、駐車場になる」って話だった。それをどうにか、店舗内に駐車場スペースを建てられないかって、黄塚にも相談してみたのである。


「そんなことしたら、日照権問題やらいろんなトラブルがあるのでは?」


「ところがだ。ちゃんと調べたら、スペース的にちゃんと空きができる仕組みになってる」


 耐震が必要な場所は、三分の二ほど。営業を続けている場所は、残った三分の一程度だ。


「この三分の二スペースをモールとして再生して、他は商店街のままにすると?」


「そうなる」


 日照権などは、特に問題ではなかった。


「場所取りの問題が解決できるのは、わかりました。しかし、競合になってしまうのでは」


 まあ、よくあるよな。商店街側と、モールとのいさかいって。


「商売スペースをよく見て欲しい」


「はい。ラーメン屋さん。通販も行う雑貨屋さん。ブックカフェにネコカフェ」


「対して、モールで出すって店舗は?」


「競合するのは、八百屋さんかお肉屋さんくらいですね?」


「ああ。ここの近くには、大型スーパーもない。ここ以外で肉や野菜を買うなら、隣町に行くことになる」


「なるほど。つまり衝突しない、と」


「そういう計算になる」


 案外、モールや大型スーパーと共存している商店街ってのは、割と多い。いい感じに、バランスが取れている。

 とっちもいいとこ取りができれば、ぶつかり合いなんて起きないだろう。

 

 まあ、モールにいい感じのラーメン屋ができたら、わからない。

 しかし、あのタンメンが食いたい人なら、こぞって商店街側に向かうはずだ。


「あなたのお気持ちは、わかりました。ノブローくん。でも、あなたがお金を出す必要性なんて」


「だよな。おかげで、オレも借金持ちだ」


 ダハハ、と、オレはバカ笑いした。


「笑いごとでは、ありません!」


「そのとおりだ。オレだって、マジだから」


 一瞬でオレが真剣な顔になったからか、萌々果さんも言葉を失っている。

 

「やり直すぞ。ガチで。商店街を、ちゃんと復活させる」

 

「はい。でもわたし、怒ってますよ」


「ああ。すまん。勝手に、話を進めてしまって」


「はい。これからは、ちゃんとわたしにも相談してくださいっ」


「したかったよ。でも、これ以上あんたにムリをさせられない」


「だからって、ノブローくんがムリをする必要なんて、ないじゃないですか」


「オレは、いいんだよ。ペーペーだからな。何度だってやり直しができる。でも、萌々果さんは黄塚を背負っている以上、下手にしくじると足元をすくわれかねない。末端のオレが動くほうが、いいんだよ」


「だけど、無謀すぎます」


「ここでカネを使わなかったら、もうオレは自分の生きる分しか稼げない気がした」

 

 金の使いどころは、ここなんだ。

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