【良男が死んだ】〜泣けない通夜と葬儀〜

阿門 錠

良男と私と時々僧侶




良男が死んだ。

良男とは私の義父である。

享年79歳。原因は合併症による肺炎。


戦中生まれの大酒飲みで、頑固者で寂しがりやの我儘な末っ子だった。

良男は亡くなる2週間程前に入院して、最後の1週間は危篤と持ち直しの毎日であった。


医者から喋るなと言われても、少し持ち直すと「飯を食わせろ」「何か飲ませろ」「今どうなっているんだ」等と喋り倒す。

その度に酸素濃度が下がる。

肺炎なので苦しい筈だが、兎に角喋る。


結局亡くなったのだが、それまでの間は家族がてんてこ舞いである。

その後は家族で葬儀の準備を進めた。

すぐに葬祭場を抑えて日取りを決める。

この時に知ったのだが、友引の通夜は問題が無いそうだ。

葬式は駄目らしい。


そして親族友人に訃報を送るのだが戦中生まれは兎に角大家族、大所帯である。

本家と分家。

分家の分家。

くっついた離れたの叔父叔母従兄弟再従兄弟。

その他有象無象に訃報を送る

そこまで送るのかと思ったが、成るほど良男は淋しがり屋なのだ。

その気持ちを汲んでか、必死で調べ上げ送った。

この時点でミイラ取りがミイラになる様だった。



通夜当日、若干の眠気を抑え朝から故人を偲ぶウェルカムボードならぬ、メモリアルボードを作った。

思い出の写真や思い出の品。

孫達が入院中に折っていたという千羽鶴を飾った。

そこに並べられている、紙パックの焼酎…

生前最後に飲んでいたというが、飾りとしては淋しい。

そこで私は近くのコンビニで缶ビールを2本買ってきた。

銀色が映える500缶。



一通り飾り付け終えると近親者のみで湯灌をした。

裸が見えない様に配慮がなされ綺麗にして頂いた。

その後棺桶に寝てもらい旅支度をする。

ようやく旅支度も終わり一度部屋を出ることになったが、眠気で欠伸が出て目を擦ると目ヤニが少し付いている事に気が付き取った。

それを湯灌担当スタッフに診られた。


「大丈夫ですか?」


何が?と思い、キョトンとすると向こうもキョトンとする。

すぐさまスタッフは勘違いだと気づいたが…

そうか俺が悲しみで涙を拭ったと思ったのか?

いやなんかゴメン、違うんです。

今思えばスタッフの気遣いだったのだろう。



早めに到着した有象無象が続々と会場へ現れ始めた。

既に泣いている者が居る。

久しぶりに会って懐かしみ談笑する者達が居る。

喪主のお義母さんと施主の長男は挨拶に追われていた。


そんな事をしていると、本日のお勤めをして頂く僧侶が現れた。

我々はあまり信心深くないので借り坊さんなのだが、良男の母、お祖母が曹洞宗だったらしいので、ソレが良いかな?と言う事を最初に葬祭場へは伝えてあった。

その僧侶は身体が大きく、頭を丸めて厳つい色付き眼鏡をかけていた。

もし僧侶が上下セットアップのジャージと突っ掛けを履いて前から歩いて来たら、私は目を逸らし避けて歩くだろう。

私の勝手な偏見である。

しかしこの僧侶が後に私の天敵と成ることは今はまだ知る由もない。


喪主と施主が僧侶控室に呼ばれ戒名の説明を受ける。

その間は私と長女で対応をしていたが、すぐに戻って来た。


暫くするとお義母さんの姿が見えなくなっている事に気がついた。

おいおい何処に行ってしまったんだと探すと、先ほど迄話をしていた人と棺桶の前で良男の顔を見ながら話し込んでいる。

慌てて戻るように伝えると、ああそうなの…という感じだ。

お義母さんの気持ちは分かる。

しかしその時間は後程しっかり取ってあります…



遂に受付が始まる。

もう既にスケジュールそっちのけで始まっているのだが…

しかしお義母さんがまた話し倒す。

後ろは詰まる。

構わず喋り倒す。

気持ちは分かる。

しかし先ずは受付を済ませて頂かないと、葬祭場とは時間を買っている。

スケジュールで動いており、有限なのだ。


現代の葬儀において喪主や施主は悲しんだり思い出に浸っている余裕は許されないのだ。

全てがシステマチックであり予定調和なのだ。

残酷ではあるが、くよくよメソメソしてるなら仕事をしろ。っという具合である。

後にも記述するが、これが


「残された者達が大変」


と言われる所以なのだろう。


受付終了時間が迫った頃、まだ2歳の従兄弟の子供、良男にとって又姪の家族が来た。

それ取り囲む様にして現れるジイジとバアバと父と母とその兄。

聞けばこの一家、待望の孫娘の誕生に「孫フィーバー」状態の馬鹿家族である。

又姪は可愛い。何も悪くは無い。

しかしこの家族のお陰で後々苦労する事になる。

便宜上この家族を「フィーバー」と呼ぼう。



なんとか通夜が始まった。

厳かに、粛々と…恙無く始まった。

スタッフのアナウンスが始まり照明が抑えられる。

雰囲気のあるBGMのボリューム大きくなり、司会が進行を始めた。

僧侶入場。

私の頭の中で「移民の歌」が流れた。


読経が始まり喪主から焼香が始まった。

前に進み一礼をし事を済ませる。

喪主や近親者は最前列なので焼香を済ませたらそのまま席に戻れば良い。

開始前に私が釘を差す様に伝えていたので無事お義母さんは出来た。

無事にやれた。

お義母さんやれましたね!一安心である…

有象無象は中央から進み焼香を済まし脇の通路から戻ってゆく。



少し読経も飽きてきた頃、左手を見るとまだ小学生の甥っ子も飽きている様子。

木魚の響きに合わせてリズムを取っている。

無理も無い。

私でさえ飽きてきているのだ。



私と良男は、有象無象に比べれば思い入れも少ない。

日も浅い。

それ故に語れる程の…良男を心の中で専心出来る程に思いに更ける事も出来ない。


泣けないのだ。


「こういう場」であるから

泣いたほうが良いのだろうか?

という葛藤はあった。

あわよくば泣いてやろう。

自分で気持ちを盛り上げ泣き所を探した。

必死で探した。

そうこうしていると通夜が終わってしまった。

泣けなかった。


有象無象が引き上げていく中で明日の葬儀のスケジュールをスタッフと話し合った。

助六寿司がいくつで…

精進落しがいくつで…

そんな中、僧侶控室から坊さんが出てきて挨拶しようとしていた。

しかし喪主施主は打ち合わせをしているのでここには居ない。

僧侶は迷うこと無く私に挨拶をしようと近づいて来た。

私で良いのだろうか?と一瞬考えたが、明日も有るし、その為だけに僧侶を待たせるわけにいかないので私が挨拶した。


「本日は、お勤め本当に有難う御座いました。引き続き明日も宜しくお願い致します」


そう言うと、僧侶も丁寧に


「本日は有り難うございました。明日も宜しくお願い致します」


僧侶はやはり僧侶。丁寧な人だった。



全て段取りが終わった所で孫フィーバーのジイジとバアバと近親者だけになった。

これからどうするかと余所余所しくなっていた。

お義母さんはもう少しお話をしたい様だったので、私が「お母さんにお任せします」と優しく声をかけると、少し皆でお話しましょうと言う事になった。

正直帰りたかった…

しかし私も一応大人である。

そういう付き合いも大事なのは分かっている。


それから皆でお喋りをした。

フィーバージイジとバアバは、調子の良い事を言う人だった。

ジイジに至っては適当人間丸出し。

バアバは良く喋る。何でもかんでも良く喋る。っが、責任感が無さそうな人だ。


ひとしきり喋った後、やっとその日は解散する事になった。


我が家に戻ると留守番をしていたワンコが首を長くして待っていたのが分かる。

チョット長いお留守番になってしまったので、その分思いっきり甘やかした。

私は、人間が亡くなるよりこのワンコ達が亡くなった時の方が百万倍悲しいのだろう。



次の日は朝から葬儀場へ向かう為、ワンコを近所のワンコ友達が預かってくれると言うので有り難くお願いした。


葬儀場へ着くと早速スタッフと一日の流れを確認した。

葬儀は家族だけで行う事になっている。

再度、助六や精進落しの数を確認する。


すると僧侶がやってきた。

今度はしっかり喪主のお義母さんの前に立ち、ご挨拶を交わした。



葬儀の受付が始まり親族が続々と訪れる。

通夜から引き続き参加する者。

通夜には参加出来なかった者。

しかし1人だけ親族でない者が居る。

森さんである。

森さんは近所の町内会の人で良男とは同世代。

良男と同じく町内会の重鎮である。


我々近親者に緊張が走った。

助六寿司の数である。

精進落しの数である。

森は既に泣いている。

帰れとは言えない。

それを言えるほど私達は鬼にはなれない。

すぐにスタッフに確認し予備の助六や精進落しが有るか確認し、確保した。

なんとか間に合い一安心しているとお義母さんが居ない。

仲の良い親戚と良男の所で話している。

何度も言うが、気持ちは分かる。

悪気は無い事も分かっている。

しかしお義母さんには来場頂いた皆さんへ挨拶をして頂きたい。

いや、しろよ。

私達が聞かれるのである。


「あれ、お義母さんは?」


と。

お義母さんを連行し定位置につかせると一人一人と話し込む。

私が「剥がし」をしてまた次の人へ。


(ここは握手会じゃねえんだよ!)


と思っていると、孫フィーバーが来た。

しかし今日は又姪の母親が居ない。

ジイジとバアバとパパとその弟で来た。

一抹の不安を感じたが、今は兎に角、受付と席について頂きたい。そんなところだった。


受付が終わりいよいよ葬儀が始まる。

昨日と同じように司会が「それっぽい」雰囲気を作りながら進行していく。


会場の後ろで又姪がアウアウアーと騒いでいたが気にはならない。

やはり2歳はそう在るべきである。


僧侶が入場し「パワーホール」が頭の中で鳴り響く。

姿勢を正してお迎えをする。

読経が始まり厳かに、粛々と…恙無く進んでゆく。

喪主施主から焼香に入る。

お義母さんが焼香をし席に戻る…

するとお義母さんが横脇から捌けようとした。

何処へ帰る気なのだお義母さん。

ああ、そうだ。昨日は言ったが今日は言っていない。

そうだった…私の責任だ。

私の目の前まで来たら止めようと思ったが、すぐにスタッフが止めに入り席へつかせた。

スタッフ優秀。優秀スタッフ。大好き。


皆で般若心経を一緒に唱える件になった。

事前に渡された厚手のコピー用紙に般若心経が書かれてた。

ルビが振ってあるその紙を見て、唱えると言うよりは読む感じで唱えた。

唱え終わるとその紙はまだ持っているようにとの事らしい。

遂に僧侶の本気モードの読経が始まると、いよいよかと思った。

しかしやはり退屈である。

左側の甥っ子を横目で見るとジッとしていた。

私は小学生以下に成り下がった。


暇なので祭壇を良く見ていると実に豪勢な祭壇である。花や果物。フルーツの缶詰の籠など、ギチギチに並べられている。

遺影を眺めれば良男が何かまだ、文句を言いたそうである。


「喝!」


急に大声で僧侶が良男に向って喝を入れた。

吃驚したが、左側を見ると甥っ子もビックリした様である。

しかし僧侶が喝を入れる葬式には初めて出会ったので、こういうモノはポピュラーなのだろうか?と一瞬疑問に感じたが、勝手に脳内で「きっと良男が戻って来ようとしたので怒られたのだろう」と言う事にした。

なにせ良男は淋しがり屋さんなのだ。



やっと出棺に入ろうとする中、遺族全員でお別れの挨拶をする事に。

僧侶が一時その場から離れ、親族だけで棺を囲み声をかける事になった。

これは誰から声をかけても良い。

お礼でも別れの挨拶でも、惜しんだって良いだろう。

しかし誰もが「やはり最初は、妻であり、喪主であるお義母さんだろう」そう思って遠慮していたときである。


「よっちゃん!俺だよぉ!なんで死んじゃったんだよー!早すぎるよー!!」


町内会の重鎮、森である。

棺桶にしがみつく様に覆いかぶさり、大号泣なのだ。

森の瞬発力の凄まじい事。

誰もが「えっ!」という驚きと困惑を隠せぬまま森の劇場型の別れは続いた。

しかし徐々に皆が、つられ泣いて行くのが分かった。

ここは泣き所に違いないと私のセンサーが反応するが、泣ける訳が無い。

瞬発力の破壊力にやられてしまったのだ。


話変わるが、昔のバブル期には、冠婚葬祭をどれだけお金をかけ大きいスケールで出来るかがステータスになっていた時代があったそうだ。

その頃に葬儀で「泣き役者」なる劇団員を雇って、式を大々的に演出する事が流行ったと聞いたことがある。

なんとも馬鹿丸出しの演出である。

しかしなるほど、皆つられて泣くのだなとこの時は感心してしまった。


一通り皆が挨拶をすると僧侶が戻って来た。

棺の中へ写真や生前に愛用していた帽子や孫が折った千羽鶴。お酒も紙コップに入れてラップをし華を添えた。


そして花を一人ずつ棺の中に入れていく事になるのだが、又姪もお花を入れてくれると言うので入れてもらった。

というかフィーバー共がやらせたいのだ。

一度で良いものを2度も3度も入れさせる。

まだ2歳である。添えるという概念は無い。

若干投げ入れなのだ。

ポイポイポイポイとフィーバーっぷりを発揮。

しかし親心としてはやらせたいのだろう。


邪魔だなコイツ等…と思っていると、左目がゴロゴロし始めた。

花粉症の時期は嫌だと思い、気になって目を擦ると目ヤニが付いていたのでコソコソと取った。

その時僧侶は見ていた。

私の顔を見て


「そうです。それで良いのです」


的な顔で頷いた。

あ、違うから。泣いてないから。

何その「分かってますよ」的な顔。

この何処に泣きどころがあるというのか。

そう思いながら棺への花入れを2度ほど行った時だった。

斎場スタッフが僧侶へもお花を手向けますか?的に渡そうとすると


「私は結構です。こちらの方へ…」


的なジェスチャーで私を指名してきた。

何なのこのクソ坊主。

私に何の恨みがあって…

そこから私はヤケになり、もう2度ほど花を手向けた。



沢山の花々が良男を包み、お世辞抜きに綺麗な棺になった。

このまま棺の蓋が閉められるかと思いきや、先ほどの般若心経のコピー用紙を広げ、棺に入れろという。

折角綺麗に花で飾られたのに。

なるべく景観を損なわない様にお腹元へ広げて置いた。

皆同じ考えで重ねて置いてゆく。

しかしスタッフが


「お身体に満遍なく、胸元から足先までお入れください」と言う。


嘘でしょ?お花が…

しかし皆渋々その様にする。


出来上がった様は、花も色気もない。

さながら耳無し芳一である…

残念な気持ちと共に良男の棺の蓋は閉められた。



皆で火葬場へ向かうのに専用バスへ乗り込んだ。

フィーバー一家は自家用車で追従するという。

なるべく全員バスで向かったほうが良いと思ったが又姪もおり、途中で帰るかも知れないと思い、別段気にはしなかった。


火葬場へ向う際、私は瞬発力こと、森の隣へ座った。

私は1度1人席に座ったのだが、森が2人席に1人で座ったのを確認し、直ぐ様隣へ移動したのだ。

気になる…

あの瞬発力と破壊力に魅せられから、完全に私の興味は森にロックオンしていた。


しかし何も話もせずにバスの中は静まり返っていた。

話し掛けようとしたのだ。しかし森は窓の外を眺め、静かに泣いていた。


火葬場へ到着すると、良男の棺は専用のリフトの様な機械に乗せられた。

運ばれる良男の後をついて行く一同。

最後の焼香と挨拶を済ませ棺の顔の扉を閉めようとした時だった。

遅れて到着したフィーバー登場。

仕切り直す形で、急いで焼香を済ませるとやっと扉を閉める事が出来た。


空気をぶち壊すフィーバー。


遂に棺が火葬炉へ入れられ扉が閉まる。

実に機械的で無機質。

因みに良男は9番火葬炉。

12番位まで有ったが全部使用中、若しくは到着待ちだった。

炉の横にそれぞれ苗字が液晶で充てられていたので分かった。


焼き上がるまで小一時間程だと言うので助六寿司を食べながら待つことに。

事件は起きた。


助六が足りない。

森の分は頼んだ筈だ。

すぐに近親者席を数える。

有象無象席も数える。

私は気付いた。

又姪が助六の席に鎮座している。

助六も精進落しも小学生位からのメニューであり、乳幼児用は無い。

代替品も無い。

フィーバー一族もそれは承知している。

しかしフィーバー達は又姪にフィーバーし、

全く退く気配がない。

私は察して、適当な理由で部屋を後にしようとした。

又姪に悪気は無い。

私の分を食べれば良い。

私は助六を食べに来たのではない。良男と最後の別れを偲ぶ為、無事に見届ける為に来たのだ。

しかしなんとなく腹の虫が収まらなかった。

私はフィーバー一家の横で圧をかけ続けることにした。

全く気づかれなかった。



その時スタッフが予備の助六を持ってきた。

出来るスタッフ。スタッフ出来る。

予備が有る事は、分からないでもない。

しかしそれありきで動くのもモラルに欠ける。

世間ではソレが当たり前と捉え横柄な態度を取る勘違い野郎が多い。

あくまでも、スタッフの心遣いと不測の事態に備えた「有り難い好意」なのだ。

金がどうこうではない。

分かるか?フィーバーよ。

分からんだろうなぁ。



そんなこんなで私は森と対面して助六を頂くことにした。

森は干瓢巻が噛み切るのに少しだけ苦労しているようだ。

この可愛いおじいちゃんに癒やされながら食べる助六は美味しかった。



まだ時間が余っていたので、外で遠くに暮らす親戚と話をしていた。

するとフィーバーがコンビニへ行くという。


「又姪ちゃんの食べれるものが無い」と。


何たる言い草。

母親が居ない中、面倒見きれない、事前準備出来ない、ならもう連れてくるべきではない。

いやこの一家だ…母親も大したことないのだろう。

同じ穴のムジナだろう。

大人の世界では、例え当人は悪くなくともそう見られるのだ。

そういうレッテルを貼られるのだ。

だからこそ、TPOを弁えて行動するのだ。

フィーバーが帰ってくると、又姪はカップラーメンを食べていた。

汁物やないかい!

火葬場で汁物を選んじゃう系の食べちゃう系の人種か。



良男の焼き上がりを伝えるアナウンスが流れた。

いよいよ遺骨との御対面である。

スタッフが色々説明しながら私達は違い箸で骨壺へ運んでゆく。

骨のよって赤かったりピンクだったりしている。

一緒に入れた物の着色だという。

薬品や薬ではないという。

イマイチピンとこないが、そうなのだろう。

一通り入れ終わると、最後に首から上の主要部分を入れる。

その前に骨壺にスペースを作る為

「ギュウ!バリバリ!ギュウバリ!」

と押し込んでゆく…

そして第二脛骨から顎、頰骨から頭蓋骨を順に入れていき終了となる。



バスで葬祭場へ帰ってくると、いよいよ精進落しだ。

遺影と骨壺、位牌を皆の見える位置に置き、席に着こうとした。

丸テーブルが何個も並んでいたが、喪主施主近親者は合わせて7人。

対して近親者テーブルは六人分。

1人溢れる。

私の出番だ!

私は近親者席に一番近く、且つ良男の遺影や骨壺に最も近く、そして森の隣の席を確保した。

迅速に素早く行動し、尚且つ誰もが納得する最良の采配。

我ながら上場の出来である。


精進落しの最中は特に問題は起きなかった。

サーモンとチーズのなんちゃらと、異様に辛いかいわれ大根が前菜として出たが、森と辛い辛い言いながら食べた。

全体的に量は少なめであったが、お持ち帰りのお弁当付きだったのでそれも合わせればお腹いっぱいにはなる。

精進落しも終わり問題無く解散となった。



後々になって気付いたが、今回お勤めしていただいた借り坊さんは臨済宗であった事。

フィーバー一家の又姪の親、再従兄弟には挨拶すらされていなかった事。

まあこれ以上考えても仕方ないか。



こうして無事に良男を見送ることが出来た。

頑固一徹。淋しがり屋の良男は四十九日まで、暫くこの辺りでウロウロしているのだろう。

酒を飲み酔っ払いながら寄り道をし、フラフラと極楽浄土へ向かうのだろう。

もう後戻りは出来ませんよ。

素直に逝って下さい。



残された遺族はこの後も役所手続きや名義変更、法事等に追われる日々となる。



残された遺族は大変である。



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【良男が死んだ】〜泣けない通夜と葬儀〜 阿門 錠 @amon_joe

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