右腕の青龍

みづほ

第1話 右腕の青龍

組の事務所で俺は自分の左前腕の刺青をボーッと見ていた。


「カッケーす! 兄貴と同じヤツを俺も右腕に入れていいですか? 兄貴みたいになりたいっす」


アイツの言葉をふと思い出す。

俺は左前腕の刺青は青龍を入れいた。

アイツもマネして右前腕に青龍を入れた。

刺青を入る時のアイツは痛そうにしていた。


「ああ痛い……兄貴! これで俺も兄貴みたいになれますか?」


「ビビリのお前が? ハハハ……お前は俺のそばにただ居ればいい」


そんなバカみたいな話をしていた可愛い弟分を俺は殺したい。

アイツは組の金を持ち逃げした。

オヤジは当然怒っている。

オジキの前にアイツを連れてこないと俺に責任がくる。

保険金をかけてベトナムあたりで俺の足の指か手の指を詰めてこいと言われている。


「腕や足の一本がなくなるよりかはマシだが……冗談じゃねー」


舎弟たちを集めてアイツを探さないといけない。


「右腕の青龍探しだ」


アイツが組で仲良くしていた奴からに情報を聞く。


「兄貴、俺は何も知らないですって!」


俺はスマホを指先して聞いた。


「連絡はとれたか?」


舎弟が電話をかけながら言う。


「ダメです! 繋がりません! マジで飛んだのかよ……」


俺は手で顎をなでながら聞く。


「女……アイツの女は?」


舎弟がハッとしながらスマホを操作しながら言った。


「あっ俺、女の連絡は知ってます! 電話してみます」


舎弟が女に電話をして繋がり居場所を聞いたが知らないらしい。

一応舎弟に女の家と勤務先に張り込みをさせた。

金を持ち逃げした奴が呑気に女の所にいるわけもなく足取りがつかめなかった。

オジキの舎弟から連絡くる。


「アイツが見つからないなら7日後にベトナムに行くようにオジキからの言伝だ。頼みますよ」


何で俺がこんな目に合わないといけない。

腹の底から怒りが込み上げて頭の血管が切れそうなくらい頭がカッと熱くなって息が荒くなる。


「もしアイツを見つけて金を持ってなかったら……殺す!」


怒り散らし探し回っても何処にもアイツは見つからない。

深夜2時がすぎて、もう今日は疲れたので帰る事にした。

俺は組が所有していた立派な古民家をもらっていた。

足取りがつかめないまま、その家に帰る。


「ここに居たのかよ……」


暗闇の中にアイツはいた。

俺の家でアイツは大量の金を積み上げて踏み台にして首を吊っていた。


「兄貴みたいにはなれない」


そう言われた気がして俺の怒りは一瞬で消えて何がいけなかったのか後悔に悩まされた。


「こんな男気は違うだろ……俺に言えなかったのか?」


右腕の青龍を失って左腕の青龍は力強さがなくなって悲しい表情に見える。

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右腕の青龍 みづほ @ebetennmusube

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