第13話 偽鬼人ノ霍乱ト空ノ王者 中編2

 ラギがクリス、ザルクと共に素材を集め終わってミリアムとルクスの元に戻ると2人とも寝落ちていた。

 やはり相当魔力を使っていたようで、ラギは自分とミリアムの荷物を前に抱えた上で、ミリアムを背負う。ルクスはザルクが背負い、ルクスの荷物はクリスが持った。


「クリス、悪いが最短で安全なコースを取ってくれ。

 次の島に渡ってすぐ近くに俺たちが良くキャンプに使っている場所がある」


「はい!雑魚はそのまま放置で行きますね」


「ああ、すまんがそうしてくれ。

 お前に損をさせるが、その分は後で補填させて欲しい」


「そんな、受け取れません!

 ボクも2人に助けられてるんです、気にしないでください」


「決まったなら行こう、時間が無い」


「了解です、ボクについて来てください」


 早足で森の中を歩きつつ、太陽の方向で進行方向の確認をしつつモンスターを避ける。

 どうしても避けられないものは即死の毒を使い、排除していく。


 時間にして30分は経っただろうか、ようやく森を抜け開けた視界の先に次の浮島が見える。

 だがこの開けた場所はモンスターに襲撃されやすいので、ラギとザルクには少し待ってもらい、クリスだけが森から走り出た。


 案の定クリスを狙って襲撃してくる鳥型のモンスターを使い捨ての投げナイフで迎撃しながら走る。

 クリスのナイフには普段の毒ではなく即効性の強力な麻痺毒を仕込んであり、確実に一定時間行動不能にする。今は移動の時間を稼ぐのが大事なのでそのまま放置で進む。

 クリスが作った隙でラギとザルクも走り抜ける、背負っている仲間を守らなくてはいけない。


 移動装置の周りは基本安全地帯セーフエリアと呼ばれ、実際今までモンスターが侵入した報告は無かったが、それは今日破られた。

 移動装置の周りの安全を確保したクリスは仲間の到着を待つ。この待つ時間と言うものは、いつも待つ方にとっては長い、例え一瞬だったとしても。

 ミリアムを背負ったラギの姿はあと数メートル、もう安心だ。ザルクはその少し後ろだが、また新たなモンスターの姿がザルクの後ろに見えた!


「急いで、また来てる!!」


 叫びつつクリスはザルクの方への走り、迫ろうとするモンスターにナイフを投げつける。

 ザルク後ろから狙っていた数体は落とし、そのまま踵を返して移動装置を目指そうとしたクリスは背中に衝撃を感じた。


「がっっ」


「クリス!」


 空に注意が行っていて草むらを忍び寄ってきた土竜のようなモンスターに気付かず、攻撃を腰の当たり直撃を受け、小柄なクリスは弾き飛ばされる。

 傷は痛いが動ける、と即座に起き上がった所に見慣れた戦闘斧がモンスターごと地面を穿つように叩きつけられた。


「走れるな、行くぞ!」


「はいっ!」


 ミリアムを下ろしてラギが助けに駆けつけて来てくれた事が嬉しくて、自然とクリスの表情は緩む。

「ラギさん、本当にカッコイイ」と心の中で呟く。

 心から惹かれたのはこの時からだったかもしれない、と後日クリスは思い返して思う。


 ラギと共に移動装置に行くとザルクがルクスとミリアムを送り出した所だったので、そのまま3人も急いで移動する。

 移動先でもモンスターに襲われたら、魔力の切れている2人では心配だから遅れる訳に行かない。


 幸いなことに、次の島は移動装置の近くにモンスターは居ないようだった。

 ミリアムはまだ顔色が悪く、紙のように白かったのでまたラギに背負われた。

 ・・・少し、羨ましい。そんな気持ちはおくびも出さず、ラギたちが普段良く使っているというキャンプ場所へと進む。

 ルクスは歩けるからと歩いたが、荷物はザルクが背負ってるので、クリスが斥候だ。


 もう日が傾いて夜も近いのに、モンスターは居なかったため何事もなくキャンプ地に着いた。

 着くと同時にザルクと手分けをして結界石を等間隔に地面に刺してキャンプの場所を確保する。これでやっと一安心だ。


「ごめんね」と謝りつつ、ミリアムとルクスは先に寝た。2人の回復は急務だし、特に誰も反対はなかった。

 ザルクとラギと焚火を囲みながら、緊張感も抜け簡易食料と干し肉を炙って簡単な夕食を取る。


「クリス、今日はお疲れさん。

 正直お前さんが居てくれて助かったぜ」


「本当に助かった。そろそろ斥候が欲しいと思っていたんだが、良かったらこのままうちのパーティーに入らないか?」


「えっ、ボクでいいんですか?」


「明日、ミリアムとルクスにも聞いてからだが」


 即座に、寝ているはずの2人からも「いいわよー」「自分も賛成っすー」と返事が来て吃驚した。

「お前らとっとと寝ろ!」とザルクが怒ると、ブーブー文句を言いつつ、気付けば二人とも寝息を立ててた。このパーティーの仲の良さが居心地いい、と改めてクリスも思う。


 人心地ついたせいか、眠気が来るとザルクにお前も先に寝ておけ、交代時に起こすからと言われ横になる。

 天気も良く、星空が良く見える。今日一日で本当に色々あったけど、ラギやザルク、ルクス、ミリアムとの行動は楽しかった。組んでいて安心できる仲間、パーティーは初めてかもしれないなと思いながら眠りに落ちた。


 3人が寝た側で、ザルクとラギは笑いながら話していた。

 笑ってはいたが、内容は剣呑だった。安全地帯セーフエリアが安全でなくなったのは一大事だ、入り口の「門の島」もいつまで安全か分からなくなってしまったので、ダンジョンから戻り次第ギルドへ注意勧告の報告もしないといけない。

 一時の平穏は何かの前触れなのかと不安を煽るが、今は考えても仕方ないとラギやザルクは休んでいる仲間たちを見守りながらも、休憩する。


 そんな冒険者たちの夜を見守るように蒼く透き通った一匹の蝶が飛んでいた。



 ◇ ◇ ◇



 クリスは寝落ちながら珍しく夢を見ていた。

 エレンディルに訪れた当初の頃の夢だ。徐々に大きくなった都市特有の込み入った地形に、エレンディルを初めて訪れた人は間違いなく迷子になる事でも知られていた。

 例に漏れず迷子になったクリスが途方に暮れていると柄の悪い奴らに絡まれるという、またお約束通りの展開だったのだが、そこを助けてくれた男性は武器こそ持って居なかったがラギによく似ていた気がする。

 いや、間違いなくラギだったんだと、直感で確信した所でルクスに起こされ、今度は朝までザルクとラギが仮眠をとる。


「おはようございます。ごめんなさい、すっかり寝入ってしまった・・・」


「おはよう、クリス。いいのよ、昨日はずっと斥候しながら安全確保してくれたんでしょう?

 リーダーもザルクも褒めてたわ」


「そうっすよ、パーティーは持ちつ持たれつ。気にし過ぎは良くないっすよ」


「あは、ありがとうございます!ふたりとも、回復したようで良かった~」


 にこやかに話しつつ、朝食の準備をするミリアムの手伝いをする。

 幸い今回のキャンプ地は自然が多いので、食用可能なキノコなどが多くあったので干し肉とかと一緒にスープを作る。


「うまそーな匂いっすね」


「ふふ、クリスが美味しそうなキノコとかささっと集めて来てくれたのよ」


「いいっすね!自分は携帯食料も嫌いじゃないけど、温かいご飯は大事っす!」


「えへへ、ソロだと作る余裕もあまりないけど、パーティーだと分担できるからいいですね」


 照れるクリスに、ルクスが「いい子っすね~」とよしよし頭を撫でるが、嫌がらずに益々照れてる所が可愛くてラギはこっそりにやけて起きるタイミングを逃しているとザルクが分かりやすく伸びをする。


「んあ~~っ、やっぱ野営は疲れがぬけねぇな・・・ うっす、リーダー」


「おう!早く目的の奴をやって帰るしかないな」


「ラギさん、ザルクさん!おはようございます!」


「よう、いい匂いだな」


「ミリアムさんが美味しいスープ用意してくれてますよ!」


 2人とも、「ありがたい」「楽しみだ」と言いながらさっと荷物を片してルクスとミリアムに合流する。


 和気あいあいと食事を取りつつ、ラギが今後の道程について説明する。

 今パーティーが居る島がこの雲海ダンジョンの中で2番目に大きな浮島で、島全体は三日月のような形をしている。島の中央北よりに火山があり、その火山を囲むように山脈がある。山脈の中は空洞や洞窟になっており、様々なモンスターが生息しているし、マグマが湖のように溜まっている場所もある。


 今日は中央の火山までの道程となり、目的のヴォルガドルムは火山の周りの山脈の中腹あたりを巣にしているので、まずは火山近くの様子を見つつ、翌日に余裕をもってヴォルガドルムの討伐に向かう。

 また生息地域的に火や火炎を使うモンスターが多く、水分補給などが厳しくなりがちなので準備は万全にしたい。幸いルクスが水の精霊も扱うので最低限の水は確保できるが魔力を消費しすぎるのはよろしくないので運べるものは運ぶ。


 火山までの道程は基本森など、常にある程度木々が身を隠してくれる環境が続き、サル等木の上に生息するモンスターもいないので上からの襲撃の心配はあまりない。

 昨日と同じようにクリス先頭でザルク、ミリアム、ルクス、そしてラギの隊列で進む。


 2時間ほど進んだところで、小川の辺に辿り着いたので休憩を取る事になったが、クリスとザルクの表情は険しいままだった。


「ザルクさん・・・」


「ああ、異常だな」


「どうした?なにか気になる事でもあるのか?」


「リーダー気付かないか?オレらが出発してから、まだ一度もモンスターと遭遇してないんだ」


「・・・・・・言われてみれば、だがそれは良いことだろう?」


 そう、襲撃は少ない方が損耗も少なくて済むので、少ないに越したことはないはずだ。

 だがゼロは流石に異常だ。


「モンスターの気配がないんです。低級モンスターすら、遭遇すらしないんです・・・」


「それは、嫌な予感がするっすね」


 ミリアムも不安そうに周りを見渡すが、動物の気配もない。正しく嵐の前の静けさとしか言えない状況だったが、待っている訳にも行かないので一旦目的地まで移動する事にした。

 妨害のない移動のため、予定よりも大幅に早く火山の麓に到着したが、やはりモンスターは見当たらなかった。


 まだまだ日も高いため、翌日から入る予定だった火山を取り巻く山脈の内側を通る洞窟を少し確認する事にした。

 流石に洞窟の中にはモンスターも動物も居たが、数はあまり多くない。とりあえずはざっと見た感じの違和感や異常は無さそうだったので、時間的にそのまま討伐に向かうのは無理があるため一旦キャンプ予定地に戻った。

 みんな不安がある為か、口数が自然と少なくなり空気が重くなっていた。


「なんだなんだ?みんな暗い顔しちまって・・・

 リーダー、この空気その筋肉でどうにかしろよ!」


「はあ?! またお前は訳分からんこと言い出しやがって!」


「だーかーらー!たまにはその無駄な筋肉役に立ててみろよ!」


「なんだと!俺のこの立派な上腕二頭筋を見てみろ!!

 これのどこが無駄だ!」


 唐突なやり取りにクリスが驚いて目を白黒しているとルクスまで参戦していく。


「さっすがオーガっすね〜 自分の胴位にないっすか?!

 ついでにその肉で囮やって下さいよー」


「無理無理、そんな固そうな肉、喰えるかよ?」


「あーー・・・ 無駄な肉っすね」


「お、ま、え、らああああ!!!!」


 キレたラギからザルクとルクスが逃げるが、顔を真っ赤にしたラギは荷物を放り出して追いかけて行く。

 クスクス笑いながら、パーティーメンバーが放り出した荷物をミリアムがまとめつつクリスにこっそりと、3人は偵察と食料捕獲に行ったと教えてくれた。

 ザルクは口は悪いが、誰よりもパーティーを大事にしているのだとも。


 キャンプの準備が終わり、火を起こして結界石も張り終えた頃、賑やかに帰ってきた。

 ザルクが両手にいっぱい魚を抱え、ラギは片手にルクスを、もう片手に鳥を数羽持っていた。

 気付けばクリスは不安など吹き飛び、笑顔で笑っていた。そう、このメンバーと一緒なら怖いものはない、素直にそう思えた。

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セレスティア冒険録 あるる @roseballe

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