死神
……。
なんだこれ?
なんなんだよ、これ!?
アズラエルの大鎌が俺の首を狙って迫っていたのを、首に抱きついていたノートが身を挺して俺の首を守ったのだ。
ノートの背中に大鎌が深く、深く突き刺さっている。ノート!? 動かない!!
アズラエルを鋭く視線で斬りつける、
「あ……アズラエルうううううう!!」
──ガキン!
アズラエルの大鎌に聖剣を交えた。
「きぃさぁまあああ゙あ゙あ゙!!」
ギッギリッ……、大鎌を
「
ギーン! 弾かれる!
──メキッ! 額の角が伸び、牙が生え、爪は曲がり、紫電を纏った黒い霧が渦巻く!
筋肉がキツく犇めき、ぶわっ、背中に天帝が見せた様な黒い翼現れた!
ザン!
アズラエルが霧散する。
ルカの背後に霧散した影が集まる。しかし──
──斬る! 霧散! 斬る! 霧散! 斬る!散る、斬る、斬る、斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬りまくる!
アズラエルの存在を否定するかの様に、奴の影を追い、斬って散らすを繰り返す。
「お前の相手は俺のだろうがあああああああああああああああ!!」
ズバン! 空間が弾け飛ぶ。
シュルル、俺から遠く離れた所でアズラエルが現れる。
「その者は死んではおらぬ。
俺はノートに目を遣る。確かにノートも俺も無傷だ……。
ん?
……お、れも?
そこに見えたのは俺の首にすがって抱きつくノートだった。
「俺、死んだ……のか?」
アズラエルは黙ってこちらの様子を窺っている。
「……そうか、俺死んだんだ」
(まだ!)
いや、これはどう見ても……。
(まだ死んでない!)
これは俺の感情なのか。
(戻ってルカ!!)
いや、だってこれは完全に……。
(アズラエルなんかに負けるな!!)
違う!
しかし、ノートは動いているわけじゃない。まるで時間が止まったように動かないでいる。
キラリ、俺の首から伸びる蜘蛛の糸の様な、細い線が光るのが見えた。
それはノートが俺の首に咄嗟に着けたであろう、タリスマンから俺の身体へと続いていて──。
(ルカあああああああああ!!)
──俺の魂へ直接呼びかけて来る!!
ぞくり、俺の魂が震える。
(ルカは!!)
アズラエルのデスサイズがタリスマンから伸びる糸に迫る!
(私が守るんだからああああ!!)
──カッ!
眼の前が光って真っ白になる。
いや、違う。
ノートの背中から光の翼が伸びて俺を魂ごと包みこんだんだ!!
身体が引っ張られる感覚。
(ルカ!)
(ルカ!!)
大きくなる!
(ルカ!!!!)
「ノート!!!!」
……ひっく。ノートが鼻をすする。
「るかぁ……」
幻ではなかった。
俺たちはノートの翼の中、真っ白な光に抱かれている。
「……ただいま、ノート」
「ん、おかえり……るかぁ、んん……ん」
愛してる。
なのに俺、二度も死んでしまった。
ノートに約束したのに……。
ノートは……。
ちゃんと約束を守ってくれているのに!
情けない。
生きたい。
ノートのために。
大好きな、ノートのために!
俺は生きたい!!
「ぷはっ、るかぁ……」
「ん。俺、
「ん!!」
俺はもう一度ノートにキスをすると──。
──ファサッ、自分の翼を広げた。
この翼、角も、牙も、爪も、幻ではない。
俺は人間に育てられた魔族と神族のキメラ、忌み子だった。
父ちゃんや姉ちゃんたちが守ってくれたこの生命は、人から忌避される存在だった。
父ちゃんが死んだ後も街の隅っこで、ひっそりと過ごしていた。
だが、あの日舞い降りた
すぐに好きになった。
俺の
「おいアズラエル!」
「俺、生きてんじゃね?」
「そのようだな……まあ、すぐに逝かせてやるさ」
奴が消える。
──ガッ! 聖剣はデスサイズを通さない。そして、デスサイズは俺の身体を通過しないと魂を刈ることが出来ない。
つまり。
聖剣は霊魂に干渉出来る!
一度
斬るか斬られるかはアストラル体の強さだと言えよう。
スラッ、と俺はアズラエルの肩を薙いだ。
ブワッ、奴の腕が消えた。
アズラエルの顔に心做しか焦燥感が窺える。
にやり、俺は笑う。
「殺ってやる」
アズラエルは片腕でデスサイズを構える。
「神殺し、やれるものならばやってみるが良い」
そう、奴は殺して死ぬ奴ではない。
「剣気・蓮華王!」
蓮華王は千手千眼の技だ。今の俺に奴の動き、奴そのものがはっきりと──。
──視えている!
目に視えるモノが全てではない。きっと奴の首や身体を斬ったとて、死ぬことはないだろう。
何故なら──。
奴は既に死んでいるのだから!!
「剣気・葬送大往生!!」
俺は残像をそこに残して奴を捉えた。
そして──。
「死ねっ!アズラエル!!」
──聖剣を
生死の書からドロリとした黒い血液のようなものが流れ、同時に奴の身体から黒い霧が噴き出し──。
──ズ……。
突き立てた聖剣のオーディンの瞳は蒼白い
──ズズズ……。
──生死の書へと引き摺り込まれてゆく。
「ウオロロロロロロオォォ……」
奴は怨念にも似た声で断末魔を叫ぶ。
──ズボオッ!
!? 本から突き出た奴の腕に俺の首を掴まれた!?
──ズゾゾゾゾ……。
みるみる本に呑み込まれてゆく俺。奴に触れられているせいか、力が入らない。ノートに目を遣るが、首を掴まれているので声も出ない!
──シュルルルルルル……。
俺は術無く本に呑み込まれようとした──。
──その時。
「させないよ?」
ハシッ、ノートの手がアズラエルの手首を掴んだ。ノートの声は、落ち着いてはいるが、この上ないくらいに怒気を孕んでいる。
「グルオアアアァァ……」
ノートの手から発せられる光がアズラエルを手首から解かしてゆく。
「私からルカを奪うなんて許せない!」
ノートから発せられる言葉がアズラエルの魂を斬り刻む。そして、そっと瞼を落とすと、ノート髪がふわっと膨らんだ。
「覚えといて? 今度その汚い手でルカに触れたら、アナタの魂は時空の狭間を無限に彷徨うことになる」
瞑っていた瞼が開かれてアズラエルの魂に光の刻印を刻みつける。
「──」
アズラエルが何か言葉にしようとしたのか、声にもならない声が掻き消される。
「呪言なんて無駄。今の私は聖典そのもの。私の前にあなたは無力」
アズラエルは黒い霧と化して今度こそ本へと呑み込まれた。
──バサッ! 力を失ったのだろう、本は真っ直ぐに地面に落ちて、ボッ、
それを見届けた、ノートの視線がこちらに向けられる。
一連の流れを呆然と見ていた俺は、その視線で我に返る。
ノートがゆっくりと俺に近付き、両手で包み込むように、そっと優しく俺の頬に触れる。
温かい。
そのままふわりと淡い光に包まれる。
ノートの甘い香り。
ノートの腕が俺の背中に回り込む。
伝わる心音。
ゆっくりとノートの顔が近づいて。
熱い息遣い。
視線が熱く交わる。
揺れる瞳。
「あいしてる」
自然と口にする言葉。
ノートの顔に花が咲き。
「あいしてる」
それは光を含んだ福音。
口をつける。
息をついで。
口をつける。
息を。
口をつける。
つぐ間もなく。
つける。
つける──。
大聖堂は跡形もない。
二人の時間が続く。
ノートがモジモジと身体捻じる。ルカはそれを察して少し微笑むと。ノートの首元へと唇を沿わせた。ノートの唇から嬌声がこぼれ落ちる。それを耳にしたルカはゆっくりとノートを抱き寄せて。
ノートはソワソワと内股になり、顔を赤くして言う。
「も……」
ルカはノートの異変に気付き、動きを止めた。
「……漏れそう!」
「バカノート!!」
ルカは笑いながらノートを抱えあげて、森の方へと駆けた。
「いやあああぁぁぁ……モ、モルル!!」
……。
「なあ、ノート……」
「今話しかけんでよぉ……」
「今更恥ずかしがんなよ?」
「したっけ……何よ?」
「俺、アスガルドには戻らず、このまま旅に出ようと思うんだけど……ノートはどうする?」
「そんなの決まってるっしょ──」
俺とノートは顔を見合わせて。
「──一緒に行く♬」
ノートがスキップを踏んで俺の背中に乗る。
俺はノートが好きで、ノートは俺が好き。二人の関係は始まったばかりだけど、これからずっと一緒にいたいと思っている。
これから何処に行くのかなんて考えてはいないが、少し離れたところでアマルが待っている。
このまま、気の向くまま、足が赴くまま、アマルの翼を運ぶ、風が吹くままに。
二人で世界を旅しよう。
俺は言う。
「ノート? 手ぇくらい洗えよ?」
「ルカ? そう言うとこだんべ?」
ノートと一緒なら。
ルカと一緒なら。
──人生は楽しい♪
─fin─
忌み子と忌子 〜呪われた十三日間〜 かごのぼっち @dark-unknown
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
のんび~り散策ライフ/蓮条
★39 エッセイ・ノンフィクション 連載中 63話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます